インドネシアからの留学生が母校の教授に就任

Dr. Sutomoさんが、インドネシアのYogyakarta にあるガジャマダ大学Universitas Gadjah Mada (UGM)の小児科学教授に就任したという知らせを受けました。

その就任記念式典が18日に開催され、Zoomでの参加も可能であったので、私も参加させて頂きました。会場の参列者はみな、アカデミックドレスを着用し、頭には角帽と、ヨーロッパの学校の伝統的衣装を纏い、大変厳かなものでした。インドネシア文化とヨーロッパ文化の融合している様は大変興味深いものでした。

Developmental, Behavioral, and Social Pediatrics

彼が、世界的にみて小児医学分野で最も社会的ニーズの高い、Developmental, Behavioral, and Social Pediatricsを専門にされていることは、将来が楽しみです。先進国を含めた国々のリーダーとしての活躍を期待しています。

神戸大学医学部とUniversitas Gadjah Mada医学部

神戸大学医学部とUniversitas Gadjah Mada医学部との関係は深く、その始まりは1970年代に遡ります。私が現役時代に一緒に学んだ4人の留学生たち、Prof. Surjono, Prof. Boutiman, Prof. Purunomo, Prof. Sunartiniも、神戸大学で医学博士の称号を授与され、母国の医学発展の中心人物として活躍されていました。残念なことにみなさん他界されました。

今後は、Prof. Sutomoさんが、彼らの分まで引き継いでほしいと思います。

2025.2.20.

An International Student from Indonesia Becomes a Professor at His Alma Mater

We have received news that for the second consecutive generation, Dr. Sutomo has been appointed as a professor of pediatrics at Universitas Gadjah Mada (UGM) in Yogyakarta, Indonesia.

The inauguration ceremony was held on the 18th, and as it was also accessible via Zoom, I had the opportunity to attend. All attendees at the venue wore academic dress, complete with mortarboards, following the traditional European academic attire, making the event a highly solemn occasion. It was fascinating to witness the fusion of Indonesian and European cultures.

Developmental, Behavioral, and Social Pediatrics

It is exciting to see that he specializes in Developmental, Behavioral, and Social Pediatrics, one of the most socially needed fields in pediatric medicine worldwide. I look forward to his contributions as a leader in this field, not only in Indonesia but also on the global stage, including developed countries.

Kobe University School and Universitas Gadjah Mada (UGM)

The relationship between the Kobe University School of Medicine and the Universitas Gadjah Mada (UGM) School of Medicine runs deep, dating back to the 1970s.

During my active years, I had the opportunity to study alongside four international students—Prof. Surjono, Prof. Boutiman, Prof. Purnomo, and Prof. Sunartini—who all earned their Doctor of Medicine degrees at Kobe University and went on to play central roles in the advancement of medicine in their home country.

Unfortunately, they have all passed away. I sincerely hope that Prof. Sutomo will carry on their legacy and continue their contributions to the field.

2025.2.20.

Gouffre de Padiracの思い出

本棚の書籍・論文・写真を整理していると、パリ留学時代のアルバムが見つかりました。これは、毎月道子が子どもたちの手紙や絵と一緒に、日本に送っていたネガフィルムを、私の母がプリントし、アルバムとして整理してくれていたものです。

その中に、帰国前に訪れたフランス南西部のLe Lot(ロット県)にある地下洞窟Gouffre de Padirac(ゴッフル・ド・パディラック)を訪れた時の写真を見つけました。Le Lotは、フランス南西部のオクシタニー地域圏にある県で、美しい自然・歴史的な町や村・美食で知られるフランスでも人気のある観光地です。

Screenshot

この地域は、石灰岩でできており、多くの地下洞窟やフランス中世のお城が散在しています。車でないと訪れることができませんが、フランスの田舎の美しさと歴史、グルメを堪能できる魅力的な地域です。もう一度ゆっくりと行ってみたいところです。 2025.2.18.

国際化とは一体何なのか

寒波襲来で、このところ冬眠生活を送っていましたが、寒さが緩んだのを機に、昔馴染みの仲間とランチをするために、朝から大阪に出かけました。

様変わりした大阪駅

先ず驚いたのは、大阪駅に着くと、様変わりしており、天井は高く・明るい、昔とは違う駅の雰囲気に驚き、アナウンスを頼りにと耳を傾けるが分かりません。よく聞けば、日本語ではなく、中国語なのです。大きなトランクを引きずっている歩行者も外国人です。

マスコミの最大の話題は、日本製鉄による「USスチール」の買収計画をめぐり、トランプ大統領まで絡んできたというニュースです。日本人としては、高度経済成長期を彷彿させ、悪くない気分です。

中国や日本から米国への投資は話題になっていますが、中国人の日本への投資はあまり話題になっていません。中国通のKさんの話では、大阪のミナミはチャイナタウン化しつつあり、高層ビルの高層階は外国人が抑えているとのことです。

神戸に住んでいても、最近外国人の顔をよく見かけます。外国人と言えば、インバウンドによる経済効果、若者数が減った分を外国人が労働力として役立っているといったポジティブな面ばかりが取り上げられていますが、気がつけばこれまで単一民族と考えていた日本が、いろんな民族の集まりである多民族国家になっているかもしれません。

「DEI」を企業理念としてだけでなく、日常社会生活における基本理念として

トランプ大統領は、「アメリカ・ファースト」を旗印に、「Diversity(ダイバーシティ、多様性)」を否定し、マイノリティー優遇の推進に待ったをかけています。日本人である私には理解できない主張ですが、今日の大阪の街を見ていると日本でも同じような意見が出て来そうな気がします。

日本においても、戦時中や戦後しばらくは隣国の韓国人や中国人に対する偏見がありましたが、今では人種差別が話題になることはほとんどなくなりました。多民族国家化する日本で、Diversity(多様性)・Equity(公平性)・Inclusion(包括性)の頭文字からなる略称「DEI」を、企業理念としてだけでなく、日常社会生活における基本理念として忘れないようしたいと思います。  2025.2.13.

ドクター・イエローの引退とともに

新幹線の安全を長年にわたり監視し続けていたドクター・イエローの引退報道がありました。同時に、我々の研究グループが50年前に開発した新生児の黄疸管理機器「UB測定器」も、引退の時期を迎えたようです。

私の研究仲間の岩谷医師から、今春ハワイで開催されるアメリカ小児科学会に応募していた「黄疸に関する論文」が優秀論文として採択され、口頭発表になったという知らせを受けました。

UBアナライザーの役割も

新生児の脳障害である「核黄疸」を予知するために、微量血液成分UBの専用測定器であるUBアナライザーを半世紀前に開発して、今では日本国内の大半のNICUで用いられ、欧米でも高い評価を得てきました。

今回の論文の内容は、我々が考案し、慣れ親しんできたこの黄疸検査法をルーチンに用いなくても、新生児全身管理に日常的に用いられて血清ビリルビン値と血清アルブミン値でほぼ代替できるという内容です。臨床医学分野では、これまでに蓄積された膨大なデータから、何が患者にとって本当に「必要・不可欠」な検査であるかを見直す時代に入ったように感じます。

新しい時代への変化に合わせて

50年間慣れ親しんできたUB測定で核黄疸による新生児脳障害は激減し、今では全くみられなくなりました。ドクター・イエローの引退も、UBによる黄疸評価の引退も、時の流れのような気がします。

これらの引退によって、安全性が疎かにならないことを念じています。

2025.2.6.

トランプ米大統領が「常識の革命」を宣言

ドナルド・トランプ米大統領は、先の世界経済フォーラム(ダボス会議)にオンラインで参加し、インフレの逆転・化石燃料生産の促進・人工知能(AI)や暗号通貨分野でのリーダーシップを約束し、「常識の革命」を宣言しました。

この大胆な発言は、世界中を唖然とさせたのではないかと思います。彼の具体的な政策には賛同しかねますが、何だか爽快感さえあります。

「常識の革命」はいつも必要なこと

私は、若い時から「常識」に縛られた生活は馴染めませんでした。これだけ世の中の移り変わりの激しい現代生活では、昨日の常識はもう今日の常識ではなくなっているからです。

私が関係していた医療の世界では、文明化が進んだ中で新しい医療技術・機器が次々と導入され、医療のマニュアル化、均一化が進みました。

現役時代の私は、マニュアル化が医療水準の維持・向上に役立つと考えていました。しかし、医療の進化があまりにも早いので、マニュアルが完成した時にはもう新しい手法での医療が行われていたのを思い出します。マニュアルが常識化すると、向上への妨げになると今では反省しています。

今の時代はAI時代です。あるゆる分野にAIが導入され、何もかも「常識の革命」が求められる時代です。私は、あと何年間生き続けるかわかりませんが、どんな世の中が待ち受けているのか楽しみです。

2025.2.1.  85歳になる。

懐かしくも新しい自律神経機能

年に一度の小児科医の同窓会が先般ありました。昔懐かしい仲間と話していると、何だか四、五十年タイムスリップした感じです。昔一緒に働いていた連中が立派なリーダーとして社会で活躍しておられ、また定年で引退されたとも聞き、驚かされます。

 起立性調節障害と不登校

 いつも私の外来診療を手伝ってくれていた中澤聡子先生から、一冊の著書「よくわかる起立性調節障害」を頂戴しました。先生は、東京逓信病院で、起立性調節障害専門外来を中心に診療されています。

朝、何度起こしても起きられない子。起きても体がだるく、頭痛なども出て、遅刻が増え、不登校へという背景に、起立性調節障害が潜んでいるというのです。ご家族にも理解しやすい平易な文章で、大変評判がよく、昨年末には朝日新聞でも大きく取り上げられたと伺いました。

「起立性調節障害」は私の現役時代からよく知られていた疾患で、その原因として自律神経機能、すなわち、交感神経・副交感神経の優位性のバランスの乱れが関与していると考えられています。通常、血圧変動を診断の一助としていますが、一定時間内の脈拍の変動(ゆらぎ)からも自律神経機能を判定できます。

ストレスチェックアプリ「COCOLOLO(ココロ炉)」

今からほぼ10年前に、神戸大学工学部情報工学科の羅教授の指導で、大学院生であった駒澤氏が、スマホカメラに軽く指を置くだけで、自律神経機能を簡単にチェックできるストレスチェック・アプリを開発されました。

今では、そのアプリ、「COCOLOLO(ココロ炉)」は、スマホを用いて無料で簡単にダウンロードでき、誰でも使用できるので結構評判で、メディアでもよく取り上げられています。

本アプリが開発されて間もない頃に、私も試みてみました。若いスタッフたちでテストすると、「理想」・「やや理想」と判定されるのですが、私にはいつも「ぐったり」か、「ややぐったり」と副交感神経の優位の判定が下され、「お疲れ気味です。」との答えが返ってきます。判定の妥当性には納得できますが、本人は余計に落ち込んでしまいます。

当時、大きな社会問題であった「産後うつ」の早期発見のために我々は試してみました。昨年の日本重症障害児学会では、喜怒哀楽をうまく表現できない重心児のこころの反映として、この「COCOLOLO(ココロ炉)」が用いられています。

「COCOLOLO(ココロ炉)」は、ストレスチェックとして、過労死対策、職場環境の改善などにも役立つのではと考えています。得られた膨大なデータから、より精度の高い判定がAIでなされるに違いありません。  2025.1.29.

DEIの看板を下ろす必要はない

DEI(ディー・イー・アイ)」は、「Diversity(ダイバーシティ、多様性)」・「Equity(エクイティ、公平性)」・「Inclusion(インクルージョン、包括性)」の頭文字からなる略称です。

最近のマスコミ報道によりますと、米国の企業がDEIの看板を下ろし始めているそうです。マクドナルドやメタに続いて、小売り最大手のウォルマートも方針転換が。その理由として、特定のマイノリティーへの優遇の過度な推進は、他の従業員への差別にあたるとの批判があり、働き手の意欲を低下させるというがその理由のようです。

私が、DIという言葉をはじめて耳にしたのは20年前に、ある地元の会合で、神戸に本社のある外資企業 P&G Japan の女性会社役員の方からです。私は何の違和感もなく受け入れることができました。その後、日本政府・企業も、国際標準に合わせるべくDEI推進を掲げています。

パナソニック・グループ創業者松下幸之助の想い

DEI(ディー・イー・アイ)は、最近登場した新しい概念のように思われがちですが、じつはパナソニック・グループのルーツそのものです。⼀⼈ひとりが持てる能⼒・スキルを最⼤限発揮し、顧客や社会への役⽴ちを果たすため、DEIの取り組みをグループ全体の経営基本⽅針の実践の⼀つとして位置付け、当初より推進していたそうです。(パナソニック資料より)

創業者 松下幸之助はかつて、すべての人に異なった天分、特質が与えられているとして、次のように語っています。

「天は二物を与えず、ということわざがありましょう。これは裏を返せば、天は必ず一物は与えてくれているということだと思うのですね。そのように、異なった天分、特質が与えられているということは、いいかえれば万人万様、みな異なった生き方をし、みな異なった仕事をするように運命づけられているとも考えられます。ある人は政治家として最もふさわしい天分が与えられているかもしれない、またある人は、学者に、技術者に、商人にといったように、みなそれぞれに異なった使命が与えられ、異なった才能が備えられていると思うのです。

成功というのは、この自分に与えられた天分を、そのまま完全に生かし切ることではないでしょうか。それが人間として正しい生き方であり、自分も満足すると同時に働きの成果も高まって、周同の人々を喜ばすことにもなると思います。そういう意味からすれば、これこそが“人間としての成功”といえるのではないでしょうか。」

社会の分断のない日本に

米国では、いよいよトランプ大統領が誕生し、米国の企業はDEIの看板を下ろし始めています。社会の分断が一層加速するのではと危惧しています。

我々世代は、戦後の荒廃した国土でGHQによる新しい民主主義教育を受け、「DEI」という単語こそなかったけれども、その精神は盛り込まれていたように思います。いまの高齢社会・人口減少が不可避の日本では、しっかりとDEIをまもり、分断のない社会を築き上げることが大切と考えます。 2025.1.21.

AIでこれまでの殻(から)を破る新しい育児法が ―今年の私の初夢―

英国のデミス・ハサビス氏が、タンパク質の構造を予測する人工知能(AI)を開発し、昨年秋にノーベル化学賞を授賞されました。彼は、ゲームの世界でAIが人間に勝利できることを決定づけた「アルファ碁」の生みの親でもあるのです。

これまでの型にハマった「定石」にこだわらず、自由に指し手を選ぶ「アルファ碁」で学んだ若手棋士たちが、ベテラン棋士たちを打ち負かしています。社会生活においては、AIの悪用の制限といった当面解決すべき課題もありますが、これまでの殻を破る新しい発想の重要性を気づかせてくれます。

近い将来、AIによる子育ても話題になりそうです。これまでの育児書に書かれている「してははいけないこと」が、新しい育児法では高く評価される時代となり、また、画一的な教育ではなく、AIが選んだ個々の特性にあった教育で学んだ子どもたちは、自信に満ちあふれ、生き生きと楽しそうに日々を過ごし、立派に成人していく姿が見えます。

これは、今年の私の初夢です。

2025.1.15.

子ども健康コラム1月号

「アルファ碁」の開発者がノーベル化学賞

昨年秋に、タンパク質の構造を予測するAI(人工知能)「アルファフォールド」を開発し、ノーベル化学賞を授賞した英 Google DeepMind 社のデミス・ハサビス氏が、日本棋院を訪問し、「囲碁なくしてAIの世界はない」と話されたそうです。

囲碁には無限のパターンが

囲碁は、縦・横それぞれ19本の線の交点である361の点に、黒石・白石を交互に並べ、陣地の広さを競うゲームです。そのパターンは一手目が361通り、二手目で361 x 360 = 129,960通り、三手目で361 x 360 x 359 = 46,655,640通り、通常200手くらいまで打ち続けますので同じ局面が再現されることはまずありません。まさに、そのパターンは無限であり、毎回新しい棋譜が作り上げられていくのです。

囲碁AI「アルファ碁」が囲碁界に革命を

コンピューターが人間に打ち勝つことが最も難しいと考えられてきた囲碁において、2015年にヨーロッパ王者に勝利し、2017年5月には中国の天才棋士である柯潔氏に3局全勝で勝利し、人工知能が人間に勝利を収めることを決定づけたのが、デミス・ハサビス氏が開発した囲碁AI「アルファ碁」です。

「アルファ碁」の成功を受けて、囲碁界ではAI碁が選ぶ最良とする一手一手を参考にして、日々新たな打ち方の研究が進められています。特に、若手棋士たちは、従前の定石に拘らないAI碁から学び、ベテラン棋士たちを打ち負かし始めました。

昔のように型にハマった定石を覚えなくても、自由に指し手を選べるこのゲームは、過去の規範が役立たなくなってきた今の時代にマッチしたゲームと言えます。

AIのもつ未知の部分やリスクに対して

人工知能AIは、人間の神経細胞の仕組みを再現したニューラルネットワークを用いた機械学習の手法の1つである多層構造のニューラルネットワークを用いたディープラーニング(深層学習)によるとのことです。

AIは創薬や医療のほか、エネルギーや素材の開発などに広く役立つ一方、AIの活用と悪用の制限を両立させる方法については「まだ誰も良い答えを持っていない」とハサビス氏は指摘しています。

AIは、囲碁においてこれまでの殻を破る新しい発想の重要性を気づかせてくれました。AIには未知の部分や研究すべきリスクはありますが、人間叡智で、前向きに、うまく共存する術を探し求めていくことです。 2025.1.13.