AI時代、小児科医が医療のモデルに

音声認識機能が深層学習で飛躍的に進歩する
1990年代以後、医療分野で画像情報処理が飛躍的に発展、ロボット技術の進歩と相まってダビンチなる手術器具までが現実のものとなりました。いま、音声認識機能は、AIがもつ深層学習により進化が始まりつつあります。
すでに、クラウドベースの音声認識サービスが始まっており、スマホでの入力を面倒なキーボードでなく、音声入力を利用している人が増えています。
実は、いまこの原稿をMacの音声入力機能を用いて書いています。以前に比べると、はるかに入力しやすくはなりましたが、私がまだ不慣れなため思うようになりません。

正確な情報伝達には音声が必要
眼は閉じていると何も見えません。耳には、好むと好まざるに関わらず、周りの音が絶えず伝わってきます。私たちは、関係ない情報を不要な情報、雑音としてうまく聞き逃しているのです。
私たちは、相手の感情を理解するのに、表情だけでなく、声のトーンで相手が嬉しいか、悲しいか、元気か、疲れているかを判定しています。
人間は言葉を使うことで、自分の意思を相手に正確に伝えることができるようになりました。しかし、相手に感動を伝えるのは、口先だけの言葉でなく、心のこもった音声です。

AIくんがあなたの分身に
これからの時代は、AIくんがあなたの分身になるのです。付き合う期間が長くなればなるほど、あなたのために何でもよく記憶してくれています。たとえ、あなたの海馬がやられても大丈夫です。
AIくんには、分かりやすい言葉で話しかけてあげることです。最初は慣れないので、なかなかあなたの思いを理解してくれませんが、辛抱強く話しかけることです。子育てと一緒です。

それと大切なのは、あなたの発音です。
あなたが聞いている自分の声は、他人が聞いているあなたの声とは別物です。自分の声は音として耳からだけでなく骨伝導でも伝わってきます。自分の声を録音テープにとって聞き直してみるとよくわかります。もっと明瞭に発音をすると、AIくんはきっと喜んでくれるでしょう。さあ、自らの声を録音し、ボイストレーニングに励んでください。

録音した自分の声を聞いてみる
最近、女性代議士のとんでもない録音テープがマスコミに流出し、パワハラ騒ぎになりました。向かいに住むヤンママは、3人の子育て真っ最中。毎朝登園時になると玄関先で怒り狂って大声を発しています。自分が怒ったときにどんな声になっているか、録音し、聞いてみるのが、パワハラ防止、虐待防止に役立ちそうです。
AIは忠実なあなたの僕かもしれませんが、無理難題を押し付けてばかりいると、謀反を起こさないとは限りません。忖度を十分に理解できるAIに育つまでは、不用意に情報を提供しないことも大切です。

AI時代、小児科医が医療のモデルに
AIは第二の産業革命をもたらすと言われ、現在の職種の半分以上がなくなると予測されています。多くの考えでは、医師は最後まで存続する職業に挙げられており、とりわけ精神科医と小児科医は最もAIによる影響を受けにくい職種のようです。いずれも、アナログの世界で患者に対応しているからでしょう。
Evidence Based Medicineが全盛の現代医療です。新しい診断技術の進歩を取り入れ、標準化がなされてきた分野ほど、AIロボに置き換わること必至です。
小児医療の特徴は、用いることのできる検査法も、治療法も、大人に比べはるかに限定的です。乳児相談、発達相談はNarrative Based Medicineそのものです。お母さん・子どもたちの感性と小児科医の感性で成り立っています。
小児科医の皆さん、出来合いのAIロボに使われるのではなく、誰も真似のできないあなた好みのAIロボに育て、仲良く子どもたちに接して下さい。
そうすれば、小児科医が医療のモデルになれるでしょう。

日本小児科医会雑誌  2018.1.28.

連載 子どもの健康コラム 2011〜2017


2017年
131)感性豊かな心を育むには 12月号
130)食欲の秋、味覚の秋 10月号
129)声の力が注目されています 8月号
128)加熱済み食品だからといって安心できない 6月号
127)春眠暁を覚えず、何度起こしても息子が起きない 4月号
126)遊びはこどもの主食 2017年2月号


2016年
125)子は天から授かった大切な宝 12月号
124)いけないのは「無関心」 10月号
123)「夏かぜトリオ」対策を 8月号
122)私が思うイクメンの役割とは 6月号
121)現代の「イクメン」の悩み 4月号

2015年
120)脳内報酬系、感動する心、思いやりの心を育むには 11月号
119)けんか上手な子に育てる 10月号
118)完全母乳主義の落とし穴 8月号
117) 自転車同乗時および乗車中には必ずヘルメットの着用を 5月号
116) 遊育(ゆういく)って、なあに 4月号
115) インフルエンザが大流行  いつまでお休みするの? 3月号
114) 大震災と「こころのケア」 2月号
113) 一番美味しいのは白いごはん 1月号

2014年
112) ノーベル平和賞のマララさん 11月号
111) 孫は来てよし、帰ってよし 10月号
110) 乳幼児で不足しがちな栄養素、ビタミンD         9月号
109) 育児のバトンタッチ 8月号
108) 何でも口に入れる子どもたち 7月号
107) 「あれ」、「これ」では通じない      6月号
106) 「麻疹パンデミック」再来の恐れも 5月号
105) 子どものチャレンジを見守る 4月号
104) スマートフォンと子どもたち年 3月号
103)「いただきます」と「ごちそうさま」 2月号
102) ほどよい子育てのすすめ 1月号

2013年
101) 子どもが生まれつきもつ「共感性」を大切に 11月号
100) 100回を振り返って 10月号
99) 平和の有り難さを語る  9月号
98) いよいよ夏休み、朝のラジオ体操 8月号
97) 熱中症に最もなり易い季節です 7月号
96) 朝ごはんを食べないと 6月号
95) 風疹が成人男性・女性で大流行しています 5月号
94) 孟母三遷(もうぼさんせん)の教え 4月号
93) 「かわいそうなぞう」を演じた子どもたち 3月号
92) ならぬことはならぬものです 2月号
91) ノロウイルスによる急性胃腸炎が流行しています 1月号

2012年
90) iPS細胞の山中伸弥教授がノーベル生理学・医学賞に輝く 11月号
89) 大切な子どもをVPDから守るために 年10月号
88) スポーツで汗を流そう 9月号
87)「たいせつなきみ」が生きていく自信に 8月号
86) お母さん、焼肉店でのおしゃべりはほどほどに 年7月号
85) 自由に遊ぶ子は運動能力が高くなる 6月号
84) 新学期は子どもにとって緊張の日々 5月号
83) これでいいのかインフルエンザ対策 4月号
82) 生活発表会で大きく成長した子どもたち 3月号
81) 災害時にはじめて感じる「絆」        2月号
80) iPad を楽しむ幼児たち    1月号

2011年
79) ロコモに備え、幼少期より適切な運動習慣を 12月号
78) 子どもは、なぜ平気でウソをつくの?       11月号
77) 環境汚染の一番の被害者は子どもたち、なぜ?   10月号
76) 予防接種を拒んでいる任意接種     9月号
75) ことばにはリズムが大切              8月号
74) 熱中症の季節になりました      7月号
73) 子どもには、食の安全を念入りに 6月号
72) 学校こそが、子どもたちの生活の場 5月号
71) 子どもへの災害後のこころのケア 4月号
70) 子どもを脅かす環境化学物質 3月号
69) 年長児が年少児を育てる   2月号
68)「ゆとり世代」らしい子育てを   1月号

連載 赤ちゃんの四季 2011-17

68) 感性豊かな子に育てよう 平成29年冬
67) AI時代、「声」の時代に 平成29年秋
66) 子は天から授かった大切な宝 平成29年夏
65) 少年を犯罪からまもるには 平成29年春
64) 「人工知能」が人間の仲間入りする時代に 平成28年冬
63) 世界に一つだけの花 平成28年秋
62) 増加し続ける発達障害が大きな社会問題に 平成28年夏
61) 子宮内環境が生活習慣病に関係する 平成28年春
60) 脳の進化からみた乳幼児期にふさわしい教育を考える 平成27年冬
59) 完全母乳主義の落とし穴 平成27年秋
58) 人は、いつまで反抗期? 平成27年夏
57) 野放しの「電子たばこ」 平成27年春
56) 子どもの健康を脅かす食の環境 平成26年冬
55) スマホと子どもたち 平成26年秋
54) 日本の子どもの貧困率は先進35カ国のうち9番目の高さ 平成26年夏
53) 光るニホンウナギと赤ちゃんの黄疸 平成26年春
52) 生まれつきもつ“まなかい”能力を損なわないように 平成25年冬
51) 脳科学、認知心理学からみた早期教育の是非 その2 平成25年秋
50) 脳科学、認知心理学からみた早期教育の是非 その1 平成25年夏
49) すばらしい学習能力をもつ子どもの脳 平成25年春
48) これで安心。ポリオ経口生ワクチンから不活化ワクチンへ 平成24年冬
47) 乳幼児虐待から学童のいじめへ 平成24年秋
46) 妊婦さん、やせ過ぎにご注意を、増え続ける低出生体重児 平成24年夏
45) 桃の節句 ひな祭り 平成24年春
44) 笑いではじまる人の一生 「胞衣(えな)笑い」 平成23年冬
43) 三つ子の魂百までも 平成23年秋
42) 阪神大震災で学んだ子どものこころのケア 平成23年夏
41) 高齢出産には高いリスクが伴う 平成23年春

連載 赤ちゃんの四季 2006-10

40) 赤ちゃんと皮膚 平成22年冬
39) 犬のしつけに学ぶ 平成22年秋
38) 情報社会と子どもたち 平成22年夏
37) 障害をもつ小児がグローバルな話題に 平成22年春
36) ワクチン接種は誰のため 平成21年冬
35) グローバル社会と日本の母子 平成21年秋
34) ついに、国内でも新型インフルエンザ 平成21年夏
33) こどもの時間外救急は隙間産業的医療で 平成21年春
32) 母子の絆は母乳のフェロモンから 平成20年冬
31)  Win-Winのこころ 平成20年秋
30) 花づくりから学ぶ子育て 平成20年夏
29) 問題の先送りでは解決しない 平成20年春
28) 古代米・黒米をご存知ですか? 平成19年冬
27) 「きまりだからダメ」と言わないで 平成19年秋
26) 赤ちゃんポストに思う 平成19年夏
25) 本音ばかりでは世が荒む 平成19年春
24) お産が危ない、お産は危ない 平成18年冬
23) 「おもちゃ」遊び 平成18年秋
22) ユビキタス・ネット社会は子どもの敵 平成18年夏
21) 川の字は日本の育児文化 平成18年春

子育てをもっと楽しむ(本)

書籍名: 子育てをもっと楽しむ  中村肇・著

神戸新聞総合出版センター  発行日:2017年11月

1,000円(税抜) サイズ:四六判 ページ:136P

内容 今しかできないすばらしい子育ての時間を大切に、楽しみながら子育てができるよう、100のトピックスをとりあげ、お母さん向けにやさしくアドバイスした1冊です。本コラム集は、兵庫県が実施している「地域子育てネットワーク事業」の月刊広報誌に、地域の子育て支援隊のみなさん向けに、2005年1月から12年間にわたり書き綴ってきたものを1冊にまとめたものです。

連載 赤ちゃんの四季 2001-05

20) 軽度発達障害をもつ子どもたち 平成17年冬
19) なぜ、小児科医師不足が生じたか 平成17年秋
18) 育児に効率化はない 平成17年夏
17) 子どもと喫煙 平成17年春
16) ごはんとおやつ 平成16年冬
15) 自然体で育てる 平成16年秋
14) 赤ちゃんと痛み 平成16年夏
13) 赤ちゃんの視力 平成16年春
12) 赤ちゃんの微笑み 平成15年冬
11) わが国は“麻疹輸出国” 平成15年秋
10) 新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS) 平成15年夏
9) 小児のアレルギー対策 平成15年春
8) 抗インフルエンザウイルス薬 平成14年冬
6) 大規模災害から子どもを守る 平成14年秋
5) 自然に親しむ 平成14年夏
4) 新学期と不登校(園) 平成14年春
2) 増える低出生体重児 平成13年冬
1) 天高く、馬肥ゆる秋 平成13年秋

小児科医が医療の花形となる日が

若葉「名誉教授からの一言」2018

 最近、いろんなところで人工知能、AIが話題です。どうやら、多くの考えは、最後まで存続する職業が医師、とりわけ精神科医と小児科医だそうです。いずれも、不確実性の中で患者と対応していることが理由のようです。

AIの診断力が、医師の診断力を上回る

データ化された診療情報に基づくAIの診断力が、医師の診断力を上回る日はそう遠い話ではなさそうです。最初に駆逐されるのは、客観的な情報を自分たちで独り占めにしてきた専門医グループです。

客観的な情報に乏しい未分化な診療科ほど、AIが苦手とする医療の領域です。日常検査のデータ一つとってみても、年齢、性別だけでなく、成長発達度で大きく違います。ひとつひとつのマスが小さいので、中々精度の良い基準値を得るのが困難です。これが小児医療、とりわけ発達がらみの小児医療です。

ゴールが判りにくい小児医療

数年先、否、十数年先、どんな大人になっているかわからないのが、子どもの病気です。このような最終判定が難しい医療は、AIが最も苦手とする医療です。

小児科医は、何も心配せずに乳児健診の外来に来られたお母さんに、「あなたのお子さんは発達障害児になるでしょう」と、いきなり宣告しません。お母さんに、いらぬ心配をさせたくないという思いからです。もちろん、いま話しておかねば、子どもに取り返しがつかなくなる不利益が子どもに発生すると判断した時は、すぐに話をしますが、そんなことは滅多にありません。

親が受容しやすい状況づくりを

きっとみなさんも、子どもの状態を、お母さんの性格を勘案しながら、話をされていると思います。心配性の親には、あまり落ち込まないように、楽天的で何も気づかぬ親には少しずつ小出しに話します。たとえ子どもに障害があったとしても、親が前向きに取り組める受容しやすい状況づくりを優先するのが小児科医です。

Evidence Based MedicineはAIに任せ、私たちはNarrative Based Medicineで。

やっと、小児科医が医療の花形になれる日が目の前に。

2018年2月記

AI時代、小児科医が医療のモデルに

音声認識機能が深層学習で飛躍的に進歩する
1990年代以後、医療分野で画像情報処理が飛躍的に発展、ロボット技術の進歩と相まってダビンチなる手術器具までが現実のものとなりました。いま、音声認識機能は、AIがもつ深層学習により進化が始まりつつあります。
すでに、クラウドベースの音声認識サービスが始まっており、スマホでの入力を面倒なキーボードでなく、音声入力を利用している人が増えています。実は、いまこの原稿をMacの音声入力機能を用いて書いています。以前に比べると、はるかに入力しやすくはなりましたが、私がまだ不慣れなため思うようになりません。

正確な情報伝達には音声が必要
目は閉じていると何も見えませんが、声は好むと好まざるに関わらず、絶えず周りの音が伝わってきます。私たちは、関係ない情報を不要な情報、雑音としてうまく聞き逃しているのです。
私たちは、声のトーンで相手が嬉しいか、悲しいか、元気か、疲れているかの判定もできます。表情に音声が加わると、相手の感情をより理解できるのです。
人間は言葉を使うことで、自分の意思を相手に正確に伝えることができるようになりました。しかし、相手に感動を伝えるのは、口先だけの言葉でなく、心のこもった音声です。

AIくんと仲良くしよう
これからは、AIくんがあなたの分身になるのです。付き合う期間が長くなればなるほど、あなたのために何でもよく記憶してくれています。たとえ、あなたの海馬がやられても大丈夫です。
AIくんには、分かりやすい言葉で話しかけてあげることです。最初は慣れないので、なかなかあなたの思いを理解してくれませんが、辛抱強く話しかけることです。子育てと一緒です。それと、

大切なのは、あなたの発音です
あなたが聞いている自分の声は、他人が聞いているあなたの声とは別物です。自分の声は音として耳からだけでなく骨伝導でも伝わってきます。自分の声を録音テープにとって聞き直してみるとよくわかります。もっと明瞭に発音をすると、AIくんはきっと喜んでくれるでしょう。さあ、自らの声を録音し、ボイストレーニングに励んでください。

パワハラ防止、虐待防止に録音を
最近、女性代議士のとんでもない録音テープがマスコミに流出し、パワハラ騒ぎになりました。向かいに住むヤンママは、3人の子育て真っ最中。毎朝登園時になると玄関先で怒り狂って大声を発しています。自分が怒ったときにどんな声になっているか、録音し、聞いてみるのが、パワハラ防止、虐待防止に役立ちそうです。
AIは忠実なあなたの僕かもしれませんが、無理難題を押し付けてばかりいると、謀反を起こさないとは限りません。忖度を十分に理解できるAIに育つまでは、不用意に情報を提供しないことも大切です。

AI時代、小児科医が医療のモデルに
AIは第二の産業革命をもたらすと言われ、現在の職種の半分以上がなくなると予測されています。多くの考えでは、医師は最後まで存続する職業に挙げられており、とりわけ精神科医と小児科医は最もAIによる影響を受けにくい職種のようです。いずれも、アナログの世界で患者に対応しているからでしょう。
Evidence Based Medicineが全盛の現代医療です。新しい診断技術の進歩を取り入れ、標準化がなされてきた分野ほど、AIロボに置き換わること必至です。
小児医療の特徴は、用いることのできる検査法も、治療法も、大人に比べはるかに限定的です。乳児相談、発達相談はNarrative Based Medicineそのものです。お母さん・子どもたちの感性と小児科医の感性で成り立っています。
小児科医の皆さん、出来合いのAIロボに使われるのではなく、誰も真似のできないあなた好みのAIロボに育て、仲良く子どもたちに接して下さい。
そうすれば、小児科医が医療のモデルになれるでしょう。

日本小児科医会雑誌「AI時代、小児科医が医療のモデルに AIくんと仲良くしよう」 2018.1

小児科医は子どもの声の代弁者

新生児科医こそが小児科医だ
1970年代後半から1980年代にかけて、新生児医療の飛躍的な発展を担っていた世代が、今日の赤ちゃん生育ネットワークの中心的なメンバーの方々と思います。まさに日進月歩の時代で、次々と開発されてくる新しい医療技術を取り入れるのに必死で、不眠不休で、夢のような毎日を過ごしたことで、私たちは新生児科医としてのアイデンティティーを確立し、「新生児科医こそが小児科医だ」という自信と誇りを手に入れたと思います。
乳児死亡率や、超低出生体重児の生存率は、世界でトップレベルの水準を維持していますが、子どもたちの生育環境はこれまでになく深刻な事態に直面しています。
21世紀に入ると、ICT化により我々の生活は一変しました。

教育・研究、医療までもが経済至上主義
グローバル化が我々にもたらしたのは、経済至上主義です。教育や研究までもがお金に換算される時代となったのです。費用対効果がすべての価値判断基準となってしまいました。「医は算術か」と揶揄されていたのが、今や算術を考えない病院長は即刻クビの時代となりました。また、経営効率を高めるために、スーパーマーケットの大型化とともに、新生児医療をはじめとする医療の世界にも、集約化・大型化が加速しました。介護や育児の世界でも、大資本によるビジネス化が進むのは必至です。

ひとり親家庭の子どもの貧困率は58.2%
平成25年国民生活基礎調査の概況(厚生労働省)によると、日本の子どもの貧困率は16.3%、とりわけ、ひとり親家庭の子どもの貧困率は58.2%、半数以上の子どもが貧困家庭で育っているという厳しい現実があります。ユニセフ報告書2014年版では、日本の子どもの貧困率が、OECD34 カ国中18番目と劣悪な国にランクされています。
経済至上主義が、格差社会を生み出し、その煽りが「子どもの貧困」です。
子どものいる典型的一般世帯のうち、共働き世帯の占める割合は、2000年には37.5%であったのが、2015年では47.7%と、10ポイントも増えています(総務省統計局、労働力調査より)。この増加は、女性の社会進出の機会が増えたと喜んでいるわけにはいきません。働きに出るお母さんの多くが、夫の収入だけは生活が苦しく、子どもと一緒いる時間を大切にしたいが、止むに止まれず働きに出ているのが現実ではないでしょうか。

子育て支援とは保育施設づくりではない
少子高齢社会を迎え、政府は子育て支援を声高に叫んでいますが、どうも今日の子育て支援策をみると、お母さんが働きに出易いように保育施設数を増やすことが主眼となっており、預けられる子どもの立場については黙秘のままです。
東京都への人口集中は加速しています。都心部の高層高級マンションの林立は、ますます地方の過疎化を招いています。格差社会が、ライフスタイルに、居住スタイルにも強く反映しています。仕事ファーストの人種(制約社員)と、フレックスで私生活重視の人種(非制約社員)との二極化が進んでいるようです。都心のタワーマンションに住むのは、前者で、特にできる未婚のキャリアー・ウーマンが多いのも理解できます。男性も同じかもしれません。

女性がもつ有能な才能を発揮できるコミュニティーづくりを
郊外、地方に住む人は、生活重視の人たちでしょう。私たち小児科医が考えねばならないことは、これら生活重視の人たちをいかに支援するかでしょう。郊外で、自宅に近い職場で、子育てをしながら、フレックスで働ける仕事をいかに創出するかです。ネット社会ですから、工夫次第でいろんな仕事があるでしょう。宣伝用のホームページの作成、商業文書作成などは自宅でできますし、イラストや漫画の作成も可能です。都心に住まなくても、ネットで外国との商取引ができる時代です。子育てを楽しみながら、女性たちがもつ有能な才能を発揮できるコミュニティーづくりを支援していきたいと思います。

母から子への最大のプレゼントとは
我が子が、日々大きく成長していく姿を観るのは、乳幼児期というほんの限られた期間です。自分が大人になったときに、自らの記憶にない幼少時の体験を、母親が、辛かったこと、楽しかったことを、こと細やかに、年老まで、繰り返し聴かせてもらえることが、母から子への最大のプレゼントです。
赤ちゃん成育ネット巻頭言     2017.9