最適な緩和策は、ピークの医療需要を2 / 3に、死を半減させる 

英国のthe Imperial College COVID-19 Response Teamが、公衆衛生対策の疫学モデリングを紹介し、社会的隔離などの一時的な緩和策を長期的に繰り返し、ピーク時の医療需要を2 / 3に抑えることができると、死を半減させると述べています。

Impact of non-pharmaceutical interventions (NPIs) to reduce COVID- 19 mortality and healthcare demand by Neil M Ferguson, Imperial College COVID-19 Response Team 16 March 2020.  DOI: https://doi.org/10.25561/77482

論文の要旨

COVID-19ワクチンが存在しない現在、集団内の接触率を減らし、それによってウイルスの感染を減らすことを目的とした公衆衛生対策(いわゆる非医薬品介入(NPI))に依らざるを得ません。

疑わしい事例の自宅隔離、疑わしい事例と同じ世帯に住む人々の自宅検疫、および高齢者と重症疾患のリスクが最も高い人々の社会的隔離の組み合わせた緩和策は、ピーク時の医療需要を2 / 3に抑え、死を半減させると考えられます。

この抑制策は、ワクチンが利用可能になるまで(18か月以上?)継続する必要があります。症例数の動向によって、社会的隔離などの介入を一時的に緩和したり、症例数が増えると、介入を再開します。

図 英国での抑制戦略の適応トリガーON/OFF

1週間のICU症例が100になると「ON」トリガー、ICU症例が50になると「OFF」トリガーを。毎週のICU患者発生率はオレンジで表示、青線は介入ON/OFFです。

社会的隔離と学校/大学の閉鎖がONになるのは全体の約2/3の間、他の緩和策は期間全体を通して行われます。予想される総死亡数は、トリガー閾値が低いほど減少します。

まとめ:

「急激な感染数増大」による死亡率の急増対策として、ICUベッド、レスピレーター台数を含む救命医療施設、スタッフの供給などを要します。我が国では一体どの程度準備されているわかない点が国民を不安に陥れています。(行政サイドでは把握しているが、公表していないだけか、少なすぎて言い出せないか?)いずれにしろ、長期戦だから、日々の府県別のICUベッド、レスピレーターの所有台数、稼働数を示していただくと医療現場のモチベーションが上がる?

算数を後まわしにする孫娘

小学4年生になる孫は、新型コロナウイルスの流行で、たくさんの宿題を抱えています。いつも、漢字、理科、算数の順です。

彼女は利発な子で、記憶力に秀でており、特に芸能ニュースについてはなんでもよく知っています。

私は、彼女に算数のドリルをさせようとするのですが、なかなか食いついてきません。でも、つい最近まで九九が言えなかったのが、いつの間にやら二桁の割算、小数点問題が解けるようになっています。でも、時間がかかるし、字が汚い。少しイラつきますがまあいいかと思っています。着実にあれで上達しているのだからと。なんでかわからないけれど、私が作った新型コロナ患者数のグラフを見るとしっかり理解できています。

新型コロナも当分は収まらないので、気長に孫娘に付き合おうと決めました。。  3月28日

COVID-19肺炎の母親から生まれた新生児に特異的IgG、IgMが

RESEARCH LETTER: Antibodies in Infants Born to Mothers With COVID-19 Pneumonia. JAMA Published online March 26, 2020

中村コメント:中国では、SARS-CoV-2に対するIgGおよびIgM抗体のテストが2020年2月に利用可能になりました。武漢大学中南病院に入院し、COVID-19が確認された6人の妊娠中の女性の新生児について、感染のより詳細を明らかにするために、IgG、IgMとIL-6の調査を行いました。これまでは、Chen Hらの9人の妊娠中の女性とその乳児に関する以前の研究では、RT-PCRに基づくSARS-CoV-2の母子間感染は見られなかったという報告があるだけです。

新生児の咽頭スワブと血液サンプルはすべて、RT-PCR検査結果が陰性でした。 IgG濃度は6人中5人の乳児で上昇していました。1人の乳児のIgGレベルは125.5、IgMレベルは39.6 AU / mLでした。 2人目の幼児は、IgGレベルが113.91 AU / mL、IgMレベルが16.25 AU / mLでした。彼らの母親もIgGとIgMのレベルが高かった。6人ともに臨床的異常症状はなかった。

SARSのある母親を対象としたこれまでの研究では、妊娠後期にSARS-CoV感染から回復した女性の胎盤に異常な重量と病理が認められたという報告はありますが、今回の研究における女性の胎盤に損傷、異常があったかどうかは不明です。乳児2名で検出されたIgMは、その分子構造が大きいため、通常は母親から胎児に移行しません。ウイルスが胎盤を通過した場合、IgMは乳児によって産生された可能性があります。


同じJAMAにもう一つの母子酢直感染の論文が出ています。

Possible Vertical Transmission of SARS-CoV-2 From an Infected Mother to Her Newborn. By Dong L. 武漢大学人民病院産科婦人科、中国、JAMA online March 26, 2020

この論文も、COVID-19と診断されてから出産まで23日間暴露された可能性がある母親から生まれた新生児に関する症例報告で、出生後2時間でIgG, IgM抗体レベルが上昇し、異常なサイトカイン検査結果が出ています。 生後複数回調べた鼻咽頭スワブでのPCR検査は絶えず陰性でした。生後早期のIgM抗体レベルの上昇は、新生児が子宮内で感染したことを示唆しています。


March 26, 2020

仏さまの小噺「成仏の月」

2020/3/23

お釈迦(しゃか)さまが人々にお説法されておられた時のこと、次のようなたとえ話をされたそうです。

ある所に一人の愚かな男がいました。そばにいた智者が、空に輝く美しい月を指した時、その愚かな男は、月を見ないで智者の指ばかりをしげしげと見つめていたのです。

そこで智者は、「君、指を見るのではなく指の差し示す方を見るのだ。ほら、あんなに美しい月が見えるじゃないか」と言われ、愚かな男はやっと気がついて、その月を見ることができたのでした。

お釈迦さまは、私たち一人一人が皆ご自分と同じように仏となり、幸せになって欲しいとお考えなのですが、なかなかその御心を読みとることは難しいことです。まずは少しでも深く教えの内容にふれ、皆が共に「成仏の月」を見たいものです。という小噺でした。

小池知事が新型コロナ対策で外出の自粛を都民に求めているにも関わらず、若者たちは夜の繁華街で騒いでいる姿は、まさに愚者の行いです。感染症対策は罹らないようにする以上に、人に罹さないことが大切です。専門家委員会のおっしゃる「オーバーシュート」という悲劇的な結末に至らないように、その御心を読みとりましょう。

なぜ、医療者にCOVID-19感染が多い?

兵庫県だけでなく、和歌山県や大分県のようにOutbreak には医療機関が発端になっていることが少なくありません。しかも、医師や看護師が数多く感染しています。この現象は、中国武漢でも、韓国でも見られました。2002年のSARSが流行した発端者も医師であったと言われています。

医療者はみんな感染症対策の専門的なトレーニングを受けているのに、なぜ罹るのか一般人には理解できないようです。医療者にCOVID-19感染が多い理由を考えてみました。

  • 医療者のガードが甘くなっている?

中国、シンガポールではSARSの流行を、韓国ではMERSの流行を21世紀に入ってから経験しており、対処も迅速に行われていますが、新型ウイルスの流行に遭遇するのは日本国内では初めての経験です。この差が、政府、専門家、国民だけでなく、医療者自身の危機意識に油断があったのも事実でしょう。私が小児科医になった昭和30年代には、ポリオ、結核、赤痢、腸チフスの流行がまだありました。

  • 無症状、軽症者と無防備な接触が?

COVID-19感染者では無症状、軽症であることが多いので、全く病識を持たない患者が受診する可能性が高く、また医師が初期に疑いを持っても迅速に検査を行えない状況にあったので、診断が遅れ、十分な防備もなく対応していたツケが、医療者に回ってきたように思える。

  • 病院の防疫体制に問題が?

今回は重症になるまで診ないという一貫した国の方針が、医療混乱をこれまで回避できたが、一方で軽症者が、複数医療機関を受診するという事態も招いており、検査もしないので感染状況の把握もできていません。

地域の基幹病院ですら、マスク、手袋、ガウンの十分な配布がないそうで、感染防御に対するモチベーションの低下を招いているように思えます。3月19日の専門家会議では、いつオーバーシュート(爆発的な感染拡大)が起こっても不思議ではない。というコメントがいきなり出されたが、恐らく医療現場では対応策に苦慮しているのではと案じています。行政では収容ベッド確保に躍起ですが、中国、イタリアでも一番の問題は医療者の確保です。不安です。

オーバーシュートが起こらないことを、後輩の医師たちが安心して医療ができることを念ずるのみ。備えあれば、憂いなし。


    2020/3/23

中国のNCPとSARSのRo(基本再生産数)と比べて今の日本は

Liuらの論文に比べて、今の日本は?

今後の流行を占う上で、Rt値、doubling time が一つの指標になると考えられており、武漢では、12月29日に第一例が出て以来1月12日まではOutbreakは見られていませんが、その後急激に増加しており、Ptが6以上、Doubling timeは2.8日です。

日本の現状を見ると、3月21日現在、患者数が1,060人、死亡37人、直近3日間の患者数は131人です。武漢ほど急峻ではありませんが、トレンドとして決して減少しておらず、予断許さない事態であることが理解できます。


NCPとSARS時症例のDoubling times, Ro(基本再生産数)

Time-varying transmission dynamics of Novel Coronavirus Pneumonia in China.  By Tao Liuら:Guangdong Provincial Institute of Public Health, Guangdong Provincial Center for Disease Control and Prevention, Guangzhou, China


中国全土でのNCPの時変的な感染動態を推定し、SARSと比較することを目的とした研究成果です。2020年2月7日現在、中国では34,598のNCP(Novel Coronavirus Pneumonia)症例が確認され、2月4日以降、毎日確認される症例は減少した。これらの症例を対象にした研究です。その結果、

  • NCPの倍増時間は全国(2.4日)、武漢(2.8日)、で、SARS時の広東省(14.3日)、香港(5.7日)、北京(12.4日)のよりも短かった。
  • 全国および武漢のNCP症例のRo(基本再生産数)はそれぞれ4.5および4.4であり、SARS時の広東省(Ro = 2.3)、香港(Ro = 2.3)、および北京(Ro = 2.6)のRoよりも高かった。因みに、インフルエンザのRo は2-3とされている。

結論:NCPはSARSよりも高い感染率を持ち、アウトブレイクを封じ込める努力が効果的であった。ただし、経時的に変化する基本再生産数を1.0未満に抑えるには、以後も努力を続ける必要がある。

図2. 全国、武漢、広東省で確認されたNCP症例の時間的分布

パネルA:全国のNCP症例。 パネルB:武漢におけるNCP症例。 パネルC:広東省で確認されたすべてのNCP症例。 パネルD:広東省における二次NCP症例。赤棒グラフ:日別発生数、青棒グラフ:日別予測数、赤折れ線グラフ:累積患者数。

全国、武漢で2月4日以後は患者数が減少し始めている。

図3. NCPの時変再生産数(Time-varying reproduction number, Rt)

全国 武漢

時間軸は上の図と一緒。

表1. 全国、武漢、広東省で確認されたNCP症例の特性


小児におけるSARS- CoV-2感染が流行の初期に起こっていた

Detection of Covid-19 in Children in Early January 2020 in Wuhan, China. The New England Journal of Medicine on March 16, 2020. By Weiyong Liu, Ph.D. Tongji Hospital of Huazhong University of Science and Technology , Wuhan, China


論文要旨と私のコメント

この論文は、中国武漢の病院に、Covid-19 アウトブレイクの初期段階の2020年1月7日から2020年1月15日までに、入院していた366人の小児入院患者を対象にした後方視的研究です。

その間に、最も頻繁に検出された病原体は、インフルエンザAウイルス(23人の患者[6.3%])およびインフルエンザBウイルス(20 [5.5%])で、Covid-19を引き起こすウイルスであるSARS-CoV-2は、6人の患者(1.6%)で検出されました。

その感染ルートを調べていると、患者またはその家族の誰も、Huanan Seafood Wholesale Market(Covid-19の症例が最初に関連付けられた場所)または互いに直接的な接触がありませんでした。 1人の患者は武漢の外に住んでおり、予期せず発見されたそうです。彼らの調査結果は、小児におけるSARS- CoV-2感染が流行の初期に起こっていたことを示していますが、その意義については触れられていません。

Zunyou Wu らがまとめた中国CDCのレポート[1]では、10歳未満児、10-19歳児ともに1%とコロナウイルス病2019(Covid-19)の小児発症例は極めて限られています。私が推測するに、小児発症例が少ないのは、小児では感染していても無症状だったり、極めて軽症で経過し、検査対象になっていなかったことが一番考えられます。SARSにおいても、小児発症例は限られていました。

[1] Zunyou Wu . Summary of a Report of 72 314 Cases From the Chinese Center for Disease Control and Prevention, JAMA Published online February 24, 2020


2020.3.17

コレラの世界的流行は続いている

現在までにコレラの世界的流行は7回にわたって記録されています。1817年に始まった第1次世界流行以来、1899年からの第6次世界大流行までは、すべてインドのベンガル地方から世界中に広がり、原因菌はO1血清型の古典コレラ菌であったと考えられます。

しかし、1961年にインドネシアのセレベス島(現スラワシ島)に端を発した第7次世界大流行は、O1血清型のエルトールコレラ菌です。この流行が現在も世界中に広がっていて、終息する気配がありません。WHOに報告されている世界の患者総数は、ここ数年20~30万人に上っています。


コレラとは

最も重要な感染源は、患者の糞便や吐瀉物に汚染された水や食物です。消化管内に入ったコレラ菌は、胃の中で多くが胃液のため死滅しますが、少数は小腸に到達し、ここで爆発的に増殖してコレラ毒素を産生します。

コレラ菌自体は小腸の上皮部分に定着するだけで、細胞内には全く侵入しません。しかしコレラ毒素は上皮細胞を冒し、その作用で細胞内の水と電解質が大量に流出し、いわゆる「米のとぎ汁様」の猛烈な下痢と嘔吐を起こします。

私が小児科医になった頃は、コレラは法定伝染病のひとつであり、重症下痢患者の鑑別診断には、赤痢、腸チフスと並べて、必ず挙げていました。今の日本では、下水道が完備され、コレラの国内発生はなくなっていますが、時々は海外から持ち込まれることもあるようです。現在、日本で承認されているコレラワクチンはありませんが、DUKORALという経口(飲むタイプのワクチン)の不活化ワクチンが輸入され、トラベルクリニックで取り扱っている場合が多いようです。アフリカや東南アジアの汚染国に出かける時には、ワクチン摂取をお勧めします。


後藤新平とコレラとの戦い 「もう一つの戦争」

さて、我が国においても、1858年と1862年に、外国船から持ち込まれたコレラが大流行しました。西南戦争時にもコレラが大流行しており、政府軍の兵士たちが船で神戸港に戻ってきたことから、国内に広がるのを阻止すべく、神戸港には検疫所ができました。しかし、その関所を破った保菌者が、東海道を上り、京都で次々と発病したと言います。この年にコレラによる死者は全国で8,000人、2年後には年間死亡者が10万5千人に及んだそうです。

当時の日本では、平時でも数万人の患者が発生しており、その大半が死亡していたようです。とりわけ、戦場での衛生環境は劣悪で、多くの兵士がコレラで死亡していました。1895年に日清戦争で大勝利を収めた日本軍が中国大陸から凱旋する船にも、多くのコレラ患者が乗船しており、「もう一つの戦争」と呼ばれる伝染病との戦いが、広島の似島の検疫所で繰り広げられていました。凱旋してきた兵士23万人の検疫、隔離、非感染者の衣類等の消毒が、たったの3ヶ月で行われたと欧米諸国からも高く評価されました。それをなし遂げえたのは豪腕後藤新平の力によるものでした。後藤新平は医師であるとともに、その後内務官僚を経て内相、外相、東京市長を務めた。特に関東大震災後の帝都復興でその辣腕を振るったことでよく知られています。

(山岡淳一郎:後藤新平、日本の羅針盤となった男、草思社文庫、2014)


検疫事業とCost Performance

今、日本では新型コロナの大流行で、学校、イベントが中止され、経済活動も低下しています。ダイアモンド・プリンセス号での船内感染への取り組みを見ていると、決して想定外の出来事ではなく、起こるべくして起こった大流行の波及です。不適切な対策が700人に及ぶ感染者(乗船者の6人に1人)と10名近い死者を出したのです。もっと死者数が増えていてもおかしくない状況だったと思います。

今日のような経済活動重視の社会では、絶えずコスト・パーフォンマンスが求められ、それが医療にまで及んでいます。今回のように非日常的な事件が起こると、もはや立ち向かえなくなってしまいます。

今回のような膨大な経済的損失を考えると、平時から検疫システムとマンパワーの質と量の充実への投資をもっとすべきであったことがよくわかります。周辺国と隣接していない島国日本は、各港での検疫体制さえ完備しておれば、容易に水際作戦が成功するはずです。


2020.3.16

身近に迫ってきたCOVID-19

今日、2020年3月11日は東北大震災からまる9年目の記念日である。津波からの復興の様子がテレビで報道されている。莫大な量の汚染水の処理が大きな課題となっており、改めて原発事故の凄まじさを痛感する。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が、国の内外で猛威を振っており、厳しい局面に入ってきた今日一日の出来事を整理してみた。


WHOがパンデミック(世界的流行)であると表明

世界保健機関(WHO)は3月11日、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はパンデミック(世界的流行)である」と表明した。流行中のCOVID-19は、この2週間で中国以外の国における患者数が13倍に増加し、感染者が確認された国の数も3倍に増えており、現在のCOVID-19患者数は114カ国で、11万8,000例を超え、4,291例が死亡している。今後数日〜数週間で患者数、死亡者数、影響を受ける国の数がさらに増加することが予想されている。

身近に迫ってきたCOVID-19

我が家から2 kmしか離れていない認定こども園で集団発生4名。高齢の私も、家内も、このところ家に引きこもっている。休校で家にいる孫娘も所在なげに。でも、塾のWEB授業を真面目に受けていた。早く収まるのを祈るのみ。

死後のRT-PCR検査で陽性が判明

集団発生している伊丹市の介護施設に通所していた利用者の80代男性の死亡が初めて報じられた。県の発表によると、2月28日に発熱、医療機関に入院後、3月10日に亡くなられた。死後のRT-PCR検査で陽性が判明したとのこと、なぜもっと早く、検査を行わなかったのか?という疑問が残る。

70歳以上の高齢者11万人が肺炎で毎年死亡

毎年70歳以上の高齢者では、全死亡のうちの10%、11万人が肺炎で死亡している。うち、千百人余りがインフルエンザによる死亡である(2016年度人口動態統計より)。


高齢者における肺炎、インフルエンザ死亡数 2016年度人口動態統計より


肺炎で死亡した高齢者にはRT-PCR検査を

このように、肺炎で死亡する高齢者はたくさんいるが、RT-PCR検査が行われていないと推測される。クラスターに属さないと検査をしないという方針をそろそろ改めないと。今のままでは、100年前と変わらず、医療者は長期にわたり無防備に感染者と接することになる。


2020.3.11

胸部CTはRT-PCR検査よりも感度がよい

COVID-19の1,014症例の解析から

 Correlation of Chest CT and RT-PCR Testing in Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) in China: A Report of 1014 Cases. Tao Ai *, Zhenlu Yang *, Hongyan Hou, Chenao Zhan, Chong Chen, Wenzhi Lv3, Qian Tao, Ziyong Sun, Liming Xia     *Department of Radiology, Tongji Hospital, Tongji Medical College, Huazhong University of Science and Technology Wuhan, Hubei, 430030, China Radiology. 2020 Feb 26:200642.


中村のコメント:

RT-PCRアッセイは、COVID-19の診断に特異的ではあるが、その感度が低く、False positiveが出やすいと指摘されている。この論文は、COVID-19の診断において、RT-PCRアッセイと胸部CT検査所見との一致性を調べた論文です。結論として、胸部CTイメージング法は​​COVID-19の診断により高感度であることから、疾患の検査前確率が高い流行地域では、COVID-19のスクリーニング、包括的な評価、およびフォローアップには胸部CTが有用と述べています。

胸部CTがRT-PCR検査よりもウイルス感染を高感度で迅速に検出できることは、ウイルスの拡散をより適切に制御するのに役立つと考られます。我が国のように、RT-PCR検査を迅速にできない地域では、胸部CTをもっと活用したスクリーニングが行われてもいいのではないかと思います。

因みに、近年の日本では、高齢化の進展により肺炎による死亡者数が増加しています。2016年における肺炎死亡者数(男女合計)は119,300人に達し,死亡総数:1,307,748人に占める割合も9.4%、インフルエンザによる超過死亡者数は2018/19シーズンは3,276人となっています。胸部CTを使ったCOVID-19の死亡数はどうなのでしょう。


論文の要約

COVID-19の診断において、RT-PCRアッセイと比較して、胸部CT検査所見との一致性を調査した論文です。調査は、2020年1月6日から2020年2月6日まで、中国・武漢同済病院で新型コロナウイルス感染症の疑いで胸部CT検査とRT-PCR検査の両方を受けた患者1014人です。

患者1014人のうち、59%(601/1014)がRT-PCR陽性であり、88%(888/1014)が胸部CTスキャンで陽性を示した。COVID-19の診断において、RT-PCR結果を基準にすると胸部CTの感度は97%(95%CI、95-98%、580/601患者)。 RT-PCRの結果が陰性でも、胸部CT所見陽性者が75%(308/413)いる。この 308例のうち、48%は臨床症状および胸部CT所見からCOVID-19である可能性が非常に高い症例と、33%が可能性の高い症例です。

RT-PCRを4日以上の時間間隔で複数回施行した患者(258例)において、初回陰性から陽性に転じるまでの期間は平均5.1±1.5日、初回陽性から陰性に転じるまでの期間は平均6.9±2.3日でした。胸部CTでCOVID-19陽性所見の確認が、初回RT-PCR陽性と同時またはそれよりも早かった症例の割合は、サブグループにより差はあるものの60~93%でした。一方、RT-PCRが陰性に転じる前に胸部CTで改善が見られた症例は42%(57例中24例)でした。

結論として、胸部CTイメージングは​​COVID-19の診断にRT-PCR検査より高感度である。特に、流行地域においては、COVID-19のスクリーニング、包括的な評価、およびフォローアップのために胸部CTをも考慮する必要性を指摘している。


  2020/3/11