「おいで、アラスカ」 

アンナ・ウオルツ作、野坂悦子訳、フレーベル館 2017年作

【2021年青少年読書感想文全国コンクール課題図書 小学校高学年の部】


12歳の少女パーケルと13歳の少年スフェンが主人公の物語で、ふたりをつなぐものとして一頭のてんかん発作に対応できる介助犬ゴールデンレトリバー、アラスカが登場します。

てんかんという病をもつ少年スフェンは、「いつなのが起こるかわからない」という不安な毎日を送っています。また、少女パーケルには、注意欠陥多動障害(ADHD)の3兄弟がいます。

この話は、これらの疾患をもつ子どもたちが社会生活を送る上での困難さを赤裸々に描写されており、小児科医であった私にも改めて気づかされる点が数多くあります。と同時に、今日の新型コロナ禍、戦争と不安定な社会を生きる少年・少女たちが、未来に向けて力強く歩み出すきっかけになればと願います。

今春、小学6年生になる孫娘が、この本を読んでどんな反応を示すか興味深いものがあります。

2022/3/29

戦争で苦しむのはいつも国民

毎日、テレビに映し出されてくるウクライナの惨状には目を覆いたくなります。

昨日は、昭和20年3月17日の神戸大空襲から77年ということで、犠牲になった人たちを追悼する慰霊祭が神戸市で行われました。昭和20年2月~8月にかけてのアメリカ軍の空襲により、神戸では8千人以上が亡くなり、中でも、3月17日の大空襲では神戸の市街地全域が一夜にして廃墟と化し、ウクライナの比ではありませんでした。当時5歳であった私の脳には、真っ赤に染まった神戸の夜空が今でも焼きついています。

欲しがりません勝つまでは

 戦時中の有名な標語に、「欲しがりません、勝つまでは」というのがありました。これは、1942年(昭和17年)に大政翼賛会と新聞社が「国民決意の標語」を募集した「大東亜戦争一周年記念」の企画で、国民学校5年の少女の作だそうです。

男性たちは戦場に駆り出され、残された女性たちは「もんぺ」を穿き、竹槍を手にし、バケツリレーと銃後を守るべく、一致団結していました。今のウクライナでは手製の火炎瓶を作成し、通りには土のうを積むという話を聞かされると、80年前の日本人と何ら変わらない感じです。

政治家や軍幹部のメンツの陰で、犠牲となり、悲惨な日々を送るのは市民たちです。

地勢学的にみたウクライナ

これまで、ウクライナという国名を知っているだけで、実はよく知りませんでした。東欧諸国の中でも、最も東に位置し、地勢的にウクライナは日本と全く違うことを今回知りました。

東にロシア、西にポーランド、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、モルドバ、北にベラルーシと隣接していて、南には黒海を挟んでトルコが位置しています。ウクライナ人には、多人種の血が混じっており、ウクライナ女性には美人が多いそうです。
国土面積は約60万平方キロメートルと日本の2倍。人口は約4,400万人と日本の3分の1です。国土の大半が肥沃な平原・高原地帯に覆われており、小麦、トウモロコシなどは世界有数の輸出国です。
身軽な動きと複雑な跳躍を含み、早いテンポで演技されるコサックダンスは、ロシア舞踊とばかり思っていましたが、ウクライナ・コサックの踊りに由来するウクライナの伝統舞踊の一つだそうです。

今回の戦争がなぜウクライナで起こったのか、その必然性が納得いきました。ここは、世界の潮流、東西対立の渦が最もできやすい地域のようです。アメリカと政治的に対立する国ロシアにとっては、国境を接する国、同じ東スラブ系民族の兄弟国であるウクライナが、アメリカ軍の支援を求めて軍備を拡大するのは自国にとって大いなる脅威と感じ、その芽を早く積みたいというのが狙いだったのでしょう。

何があっても戦争に巻き込まない、巻き込まれない

四方を海で囲まれた島国日本は、他国と直接国境を接しておらず、ヨーロッパの国々と比べると、地上の楽園のような気がします。でも、変に欲を出すと、大東亜戦争のようなことになるのです。

戦争で得をするのは、死の商人と呼ばれる武器商人、軍需資本家だけです。戦争に勝っても負けても、犠牲となるのはいつも市民です。一度、戦が始まると、あとは憎しみの連鎖です。為政者は何があっても戦争に巻き込まない、巻き込まれないように振舞って頂きたいと念じます。

経済的制裁も戦争と同じです。経済的弱者への虐待です。困窮するのは市民です。制裁という言葉を聞くだけで、子どもへの虐待と同じで、小児科医として心が痛みます。

世界中には、いろんな主義・主張の人たちが住んでいます。周りの国々とうまく接するには、互いにレスペクトし、ほどほどが一番のような気がします。

2022/3/18

「草枕」の冒頭の一節

文豪夏目漱石の1906年の作品「草枕」の冒頭の一節が、突然思い出されました。

智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る。

人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。矢張り向う三軒両隣りにちらちらする唯の人である。唯の人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はない。あれば人でなしの国へ行くばかりだ。人でなしの国は人の世よりも猶住みにくかろう。

越す事のならぬ世が住みにくければ、住みにくい所をどれほどか、寛容て、束の間の命を、束の間でも住みよくせねばならぬ。
ここに詩人という天職が出来て、ここに画家という使命が降る。あらゆる芸術の士は人の世を長閑にし、人の心を豊かにするだけに尊い。 ・・・・・・

「草枕」は、100年以上も前の日露戦争直後の作品です。 2022/3/7掲載

春の訪れ(3)

我が家の近くには、2本の川が流れています。住吉川と天上川です。いずれも500メートルくらいのところにあり、春の陽気に誘われて、散歩に出かけました。住吉川にかかる橋の上から、川面に眼をやると、1羽の白鷺が餌を啄ばんでいます。長年、この地に住んでいますが、これまでゆっくりと川面に眼を向けることもなかったせいか、このような光景を目にすることはありませんでした。

さらに、昨日は、我が家から東に1キロのところにある神戸市の東部療育センターに西尾先生、岡田先生を訪ねて行った帰りです。途中に流れている天上川の橋の上から、ある老夫婦が河を覗き込んでいます。このところの日照り続きで、水の流れはほとんどなく、飛来してきたコンビニのビニール袋が一面に散乱いています。

よく眼を凝らすと、雌のカモが2羽、足首までしか流れのない川底で、ビニールぶくろに付着する残飯でも焦っているのか、周りの人間に気を止める様子は全くありません。2、3年前までは、この辺りにはいつもイノシシの家族がのんびりと生活していたのですが、駆除され、今では全く見かけることがなくなりました。

人間社会では、地球温暖化、新型コロナ、戦争・制裁と騒々しい世の中になっていますが、鳥たちが我々の身近に寄ってきて生活するさまを見ていると、なんだかホッとした気持ちになります。

2022/3/11

「草枕」冒頭の一節

昨日から、有馬のかんぽの宿に湯治に来ています。泊り客は年寄りばかり、実にのんびりします。湯上がりに、びん牛乳をラッパ飲みしながら、10分間100円のマッサージチェアに横たわっていると、至福を感じます。

いまだに戦争するなんてと思いつつ、児童虐待と同じで、これも人間の性でしょうか。そっと後ろから振り上げた拳を掴んでくれる人がいれば、大事に至らないでしょうに。周囲の人間は、制裁、制裁と煽り立てるだけで、本気で和平を望んでいるとは思えません。

文豪夏目漱石の1906年の作品「草枕」の冒頭の一節が、突然思い出されました。

智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る。

人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。矢張り向う三軒両隣りにちらちらする唯の人である。唯の人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はない。あれば人でなしの国へ行くばかりだ。人でなしの国は人の世よりも猶住みにくかろう。

越す事のならぬ世が住みにくければ、住みにくい所をどれほどか、寛容て、束の間の命を、束の間でも住みよくせねばならぬ。
ここに詩人という天職が出来て、ここに画家という使命が降る。あらゆる芸術の士は人の世を長閑にし、人の心を豊かにするだけに尊い。・・・・・・・

この小説が書かれた1906年といえば、日露戦争の直後です。1904年(明治37)2月より翌1905年9月まで、日本とロシアは朝鮮と南満州の支配をめぐって戦いました。日本は20万の死傷者を出し、戦費15億円(今の数兆円に相当)を費やしたそうです。

2022/3/7  明日は結婚58周年

春の訪れ(2)

3月に入ると、日中は随分と暖かい日差しに誘われて、衰え気味の筋力を少しでも回復させようと、身体を動かすようにしています。
半年振りに、垂水ゴルフに行ってきました。途中にある池には、毎年冬にやってくるマガモの夫婦が気持ちよさそうに水面に浮かんでいました。 

雌に比べ、雄のマガモは、優美な色合いをしています。雌の嘴は黒っぽく、ふちがオレンジ色で、全体に茶色い羽をしています。雄の頭は緑色。光に当たるといろんな色に輝いて見えます。首に白い線が入っているのも特徴の一つです。

間もなく、春の訪れとともに、彼らは遠く、東北地方や北海道、シベリアまでこれから飛んでいくのです。今、ロシアが戦争を引き起こしているとも知らずに。

2022/3/3

北京パラリンピック2022

2月24~25日(日本時間)にかけて、ロシアが隣国のウクライナに全面的な侵攻を開始した中で、北京パラリンピック2022が、3月4日から行われています。

パラリンピックの歴史

パラリンピックの起源は1948年、医師ルードウィッヒ・グッドマン博士の提唱によって、ロンドン郊外のバーギンガムにあるストーク・マンデビル病院内で開かれたアーチェリーの競技会です。第2次世界大戦で主に脊髄を損傷した兵士たちの、リハビリの一環として行われていたこの大会が、1952年に国際大会になりました。

さらに、1960年のローマ大会からはオリンピック開催国で、1988年のソウル大会からはオリンピックの直後に同じ場所で開催されるようになります。昨年8月には東京で夏季大会が、いま2022年冬季大会が中国北京で開催されています。

このシンボルマークは「スリーアギトス」と呼ばれています。「アギト(agitō)」とは、ラテン語で「私は動く」という意味で、困難なことがあってもあきらめずに、限界に挑戦し続けるパラリンピアンを表現しています。赤・青・緑の三色は、世界の国旗で最も多く使用されている色ということで選ばれたそうです(日本パラリンピック委員会ホームページより) 。「仮面ライダーJ」の登場人物として、架空の人名アギトが用いられています。

共生社会を目指すパラリンピックが、隣国同士の戦さの最中とは、世界に平和が訪れるにはまだまだ時間が必要なようです。

2022/3/4

春の訪れ

陽気に誘われて、毎年、春の訪れを実感させてくれるのが、岡本梅林公園です。
日曜日の午後に、コロナ禍の中ですが、多くの方が見物に来ておられました。

桜と梅と桃の3つの花は、すべてバラ科の植物。いずれもバラの仲間であることから見た目がとてもよく似ています。
お花見や入学・卒業を象徴する花として親しまれている「桜」、松や竹と並んで縁起が良い花とされる「梅」、桃の節句とも呼ばれるひな祭りに飾る習慣がある「桃」。
梅だけは、一足先にこの時期に咲くので、最も春を感じさせてくれます。
私は、桜よりも梅の方が好きです。いかにも冬の寒さに耐え抜いてきた感のあるゴツゴツとしているが力強く伸びた枝、そのひと節にひとつの花だけを整然と咲かせています。

2022.2.27.

のんびりと梅見をしているときに、ウクライナではロシアとの戦闘が繰り広げられています。同じスラブ民族であるのにと思いますが、兄弟喧嘩のようなもので、近過ぎてかえって憎しみにが増幅するのかもしれません。

西側諸国も、ロシアに経済的制裁を科していますが、一方で武器弾薬を供与し、戦争を煽っているようでもあります。頭を冷やして、1日も早く戦闘が停止されることを望みます。