21 世紀の周産期医療を考える

20世紀後半四半世紀における医療技術の進歩は、「新生児科」、「新生児集中治療室」 といった新しい医療分野を築き上げ、とくに、昭和50年代にみられた新生児医療技術の進歩は歴史的にみても特筆すべきものであった。高度経済成長の波に乗って、我が国の新生児死亡率は欧米先進国に追いつき、あっという間に世界一の水準になった。近代医療の中で、最も著しい進歩を遂げたのが新生児医療ではなかったかと思う。その我々がいま新たな問題に直面している。

第1点は、新しいマンパワーの確保
新生児医療をこれまで支えてきた世代から次の世代への交代期に入ったが、新しいマンパワーの確保が困難な状況となり、新生児医療、否小児医療の存続さえ危ぶまれる状況下に陥っている。この8月に日本医師会から出された「2015 年医療のグランドデザイン」をみても、高齢者医療のみに視点を当て、21 世紀の日本国民の健康政策から、小児医療、新生児医療は欠落している。

第2点は、魅力的な教育プログラムを提供
ようやく達成できた高度な医療水準が、一般社会では当たり前のごとく受け入れられ、標準化されている。我々が、今後もその国民のニーズに応え、高度な医療を安定して提供し続けるには、医療従事者の質の保証(Quality assurance)、危機管理教育・トレーニングプログラムの開発・訓練が不可欠である。それには、新しいHuman resource の獲得、新生児医療の重要性を若い医師に理解させ、彼らに魅力的な教育プログラムを提供する必要がある。

第3点は、地域社会と連携した支援体制
周産期医療の究極の目的である「障害なき成育」を追及するには、 NICUでの救命医療とともに、退院後のフォローアップを通じて家族への支援が不可欠である。 ハイリスク新生児には、これまでのように病院内での医療活動だけでは解決できない問題が多く、地域社会と連携した支援体制なくしては子どもたちの健全な成育を保障できなくなっている。
以上の3点を解決できるようなプログラムの作成・実行が、これからの新生児学の教育と研究の課題である。
21 世紀の周産期医療「新生児学の教育と研究」 周産期医学、2001 年 1 月号掲載