「子育てを楽しむ」特別対談

この対談は、マザーシップ保育園理事長葛西得男氏とのリモートでの対談です。理事長のご尊父葛西健蔵氏が主宰されていたアップリカ育児研究会の「あたたかい心を育てる運動」を一緒に行っていました。写真をクリックするとPDF版です。2021-3-14

新生児学・新生児医療と私 ― 新生児を通じての出会い ―

あおぞら講演会 2019.12.09 山梨 あおぞら講演会スライド

<講演要旨>

生まれた時代背景が新生児医療へ導く

私は、1940年生まれ、戦後の民主主義教育の第1期生です。小学校入学時は教科書がなく、日々の生活に何の規範もないことから、新しいことに全く抵抗感のない世代として育ってきました。

自分が卒業した神戸医大には全国でも数少ない未熟児室がありました。当時は、新生児用の人工呼吸器もなく、静脈確保も容易でない時代でしたが、先輩の小児科医がコットの側に佇み、新生児を見つめ、創意工夫しながら必死に医療に取り組む姿に感動し、仲間に加えて貰いました。

海外留学で得たもの

全国的な学園闘争の最中の1970年春から、私はフランス政府給費留学生としてパリ大学新生児研究センターへ2年6ヶ月間留学する機会を得ました。

私が着任するや否や、大きなカルチャー・ショックを受けました。日本では、見たこともない人工呼吸器がところ狭しと並び、頭からビニール袋を被せてCPAPが行われていました。その医療内容は神戸で経験したものとは全く異次元のものでした。

センター長のMinkowski 教授は、新生児学の創始者であるClement A. Smith(Harvard大学小児科教授)の門下生で、スタッフには、新生児病理学のLaroche 博士を始めとする多数の高名な新生児学者が在籍しており、米国からはLeo Stern教授を始め、世界をリードする気鋭の新生児学者が絶えず訪れてきました。

今思えば、このセンターは、新生児医療イノベーションの最先端を走る欧米でも特異なところであったようです。私は、ここで黄疸の研究をしていましたが、最先端の新生児医療に触れることができたこと、また、世界中の新生児学の高名な研究者と知り合いになれたことが、のちに研究活動をする上での大きな財産となり、日本に持ち帰ることができました。

なぜ、新生児医療は素晴らしい

「小児医療の目標は、子ども一人一人が自らの能力の限界まで発達するのを助け、それにより、成熟し、生産的で、幸せな大人になるチャンスを増やすことである。この目標は、新生児期に最大の危険にさらされている。」これは、1970年出版のThe Pediatric Clinics of North America 、新生児特集の巻頭言として記された、Richard E. Behrman博士の言葉です。私は、これを自らへの励ましの言葉としてきました。

この本には、NICUのあり方、新生児医療の地域化、新生児医療の各種手技など、近代新生児医療の幕開けを告げる内容の特集が組まれており、新生児臨床のバイブルとして活用させていただきました。

日本における新生児医療イノベーション

パリ大学留学より帰国した1972年には、まだ新生児用の人工呼吸器は日本で使われておらず、途方に暮れていたところ、1973年に麻酔科に岩井誠三教授が赴任され、新生児用人工呼吸器Baby birdや各種モニタ類を使用する機会に恵まれ、近代新生児医療のスタートラインに立つことができました。1976年には六つ子が誕生、全国ニュースとして報道され、唯一620g女児が生存退院しました。

その後、わが国でも新生児医療革命が起こり、あっという間に欧米の医療水準に追いつき、追い越しました。その原動力は、大学の枠を超えて、全国の新生児科医が一丸となって、絶えず連携を取りながら、情報交換するネットワークにあったと言えます。小川雄之亮先生、多田裕先生、仁志田先生らと組んで、産科と対峙できる「新生児科のアイデンティティ」確立を目指していたことも結束力のエネルギーとなっていたと思います。

日本発の新生児学研究成果

1980年代に入ると、日本発の新生児学研究成果が欧米でも評価されるようになりました。藤原哲郎教授らの「人工肺surfactant補充療法」がLancetに掲載され、世界中の注目を集め、1996年にはキング・ファイサル国際賞を受賞されました。

1980年には、山内逸郎先生、山内芳忠先生の「経皮ビリルビン測定器の開発」がPediatricsに、次いで1995年には私たちの「UB自動測定器の開発」が同じくPediatricsに掲載されました。私の研究がPediatricsに取り上げられたのは、山内逸郎先生のおかげです。先生からAPSの事務総長をされていたAudrey Brown教授を紹介していただき、彼女からまた、Stanford大学のStevenson博士や米国の著名な黄疸研究者のいる大学を訪問する機会を得ました。

私自身、1984年以来、毎年APSには演題を出し、欧米の研究者が日本の新生児医療を次第に注目していくのを実感しました。

新生児科医はひとつのファミリー

新生児医療は、医師として最もロマンに満ちた仕事として、いつも誇りに思っています。なぜなら、新生児医療には、人生の始まりの最も大切な時期に立ち会えるという大きな役割があります。国の内外を問はず、新生児科医の結束力が強いのは、仕事はハードであっても、ロマンを追い求める純な心にあるのでないでしょうか。これが周産期医療システム確立の原動力となったと思います。

国内、国外の同じ思いをもつ先達、同僚、後輩との出会い・協働が、自らの夢を叶えてくれたことに感謝いたします。以上

<中村肇の略歴> 神戸大学名誉教授、兵庫県立こども病院名誉院長、社会福祉法人「芳友」会長。1940年生まれ。1964年神戸医科大学卒業、小児科入局。神戸大小児科教授、神戸大学医学部附属病院長、2003年に兵庫県立こども病院長、2008年に財団法人阪神北広域救急医療財団理事長などを歴任。2001年には、「新生児黄疸の研究」で兵庫県科学賞、2017年に米国小児科学会Bilirubin Club Award を受賞。著書には『新生児学』、『小児の成長障害と栄養』、『子育て支援のための小児保健学』、エッセイ集「赤ちゃんの四季」など。

子どもの脳を知り、あたたかい心を育む

日本保育保健学会 2019-5 神戸 2019.05.19  日本保育保健学会スライド

<講演要旨>

1. 親を悩ませる「魔の2歳児」、「十代の暴走」

魔の2歳時(Terrible two)や、思春期に見られる暴走行為は、早くから発達する大脳辺縁系(大脳旧皮質)と、遅れて発達してくる大脳皮質前頭前野(大脳新皮質)の発達速度のギャップによるものです(図1)。大脳辺縁系は行動の促進系(アクセル)として働き、前頭前野は、思考・判断・分析を司り、行動の抑制系(ブレーキ)として働きます。

大脳辺縁系が急速に発達する2〜3歳児、および性ホルモンの働きで大脳辺縁系が急速に発達する思春期には、前頭前野が未発達であるため、抑制(ブレーキ)が効かず、暴走してしまうのです。大脳辺縁系は、大脳の奥深くに存在する尾状核、被殻からなる大脳基底核の外側を取り巻くようにあり、生命維持や本能行動、情動行動に関与しています(図2)。

脳辺縁系は、内分泌系と自律神経系に影響を与えることで機能しており、海馬と扁桃体はそれぞれ記憶の形成と情動の発現に大きな役割を果たしています。大脳の快楽中枢として知られている、前脳に存在する神経細胞の集団、側座核とは相互に結合しています。このように考えると、子どもの示す不可解な行動も、少しは理解でき、親のイライラも軽減するのではないでしょうか。

2.  感性豊かな心は、幼少期に育つ

乳幼児期には、光や音、その他の感覚刺激が周囲から流れ込み、この五感(視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚)が脳を刺激し、感性豊かな心、あたたかい心を育みます。子どもの五感が急速に発達し、これらの刺激が先ず伝わるのが、生後早い時期から発達する先述の大脳辺縁系です。

大脳辺縁系は、感情・感性、記憶、および本能的行動をコントロールする中枢であるとともに、また報酬系としての働きも知られており、成功体験が自らの学習意欲を高める働きがあります。

認知能力(計算や文字、知識、思考する能力)は小学生になってからでも教えることができますが、非認知能力(感性豊かな心)が伸びるのは幼児期です。だから、幼児教育が人生で最も大切であり、子どもたちの五感を育てることです。

子育てにおいも、教育においても、報酬系をうまく活用することが大切です。自らの成功体験が自らの学習意欲を高め、益々向上心が芽生え、自ら進んでチャレンジしていきます。子どもたちの学習意欲を高めるためには、上手に褒めることです。昔からよく、「子育て上手は、褒め上手」、「褒められ上手は、褒め上手」と言われてきました。

子育てにおける褒めかたのコツは、子どもの学習意欲をいかに高めるかです。子どもへの難しすぎる課題では、子どものヤル気を削いでしまいます。少し手を伸ばすと届くような課題を与えることです。焦りは禁物です。子どもが目標を達成したとき、子どもはきっと得意げに、あなたの様子を見つめています。間髪入れずに言葉をかけてあげてください。抱きしめてあげてください。

3.  あたたかい心を

あたたかい心は、幼少期に培った感性豊かな心から生まれてきます。子どもたちの五感を育み、感性を育てるには、子どもたちの問いかけに、真正面から反応し、応えてあげることです。生後すぐの赤ちゃんでも目は見え、耳も聞こえています。赤ちゃんの目をじっと見つめていると、見つめ返してきます。この見つめ合いのことを、「まなかい(眼交)」と言います。この「まなかい」こそが、育児の原点です。目があうと、微笑み返してあげてください、赤ちゃんは、お母さんの微笑みで納得し、安心します。

 

最近では授乳しているときに、スマホに夢中になっているお母さんをよく見かけます。子どもが話しかけても、スマホから目を離さず、なま返

事をしておられます。いつもこのような態度で子どもに接していると、子どもの感性の芽は一つ一つ摘みとられていくことなります。

4.  AIロボット時代の子育て

1)  赤ちゃんの脳発達がAIロボット開発のモデル

人工知能AIは、赤ちゃんの脳を模して作成された人工のニューロン・ネットワーク(神経細胞網)です。人間のニューロンは、使用していないと、「刈り込み」で消失しますが、AIは作ったニューロン・ネットワークをどんどん蓄積していきます。新しいニューロン・ネットワークを作り、蓄えていくAIロボットの能力に人間は敵いっこありません。

2)  ペットロボットが子どもたちに大変な人気

「パロ」と呼ばれる、あざらしに似た形をした白い人工毛皮で覆われた日本製のペットロボットが、小児科の外来におかれています。パロは、子どもたちに大変な人気です。パロは、まぶた・首・前足・後ろ足を本物の生きもののようにリアルに動かし、「キュウキュウ」という可愛い鳴き声も発します。自分の名前を呼ばれると反応します。

発達障害のある児には、人とのコミュニケーションが苦手な子がいます。でも、パロとはうまくコミュニケーションが取れ、外来に来る日を楽しみにしておられるそうです。

パロには知能があり、感情を持ち、乱暴な扱いを嫌がり、触れ合い方により性格が変化し、飼い主の行動を学習する能力もあります。もっと進化すれば、他人とのコミュニケーションをとるのが下手な現代人の「こころの相談役」として、医療スタッフの仲間入りしているかもしれません。

3)  AIロボットにもあたたかい心を

人間とAIがうまくやっていくためには、幼少時からAIと上手にコミュニケーションをとる能力を養うことが必要です。人間がAIをいつもいじめていると、AIは人間を憎み、報復するかもしれません。

人間の声は、いろんな情報を相手に伝えます。目を閉じて、声を聞いているだけで、相手の喜怒哀楽や健康状態もわかります。目も相手に多くのこと語りかけますが、声には人の意思がより豊かに、より正しく反映されています。AIロボットと上手に付き合うには、自分の考えや思いを正しく相手に伝える声の学習が大切になってきました。

人間社会では人付き合いの苦手な人も、AIロボットと一緒の生活であればうまくいくかもしれません。学校では、AIロボットとの友情を育む方法を学ぶ新しいクラスが始まります。

さあ、AIロボットと仲良くし、新しい家族生活の準備を始めましょう。

My lectures 2010〜2018

2018年

赤ちゃんの脳を知り、あたたかいこころを育む @日之出福祉会 、加古川 2018/9/27 講演要旨

赤ちゃんの脳を知ることにより、子育てをもっと楽しむ 講演要旨 @聖ミカエル幼稚園 2018/6/25

子育てをもっと楽しく @神戸市ユネスコ協会談話会 2018/6/2 講演要旨

あたたかいこころを育むために @アプリカ育児研究会於大阪 2018/5/19

現代の育児不安の解消には、 地域ぐるみの支援が不可欠 @東播磨消費者団体協議会のひろば展 2018/2/20

乳幼児虐待未然防止には地域子育て家庭応援活動がいかに大切か @子育て応援ネット全県大会 兵庫県公館 2018.2.8.

2017年
こどもを取り巻く環境と医療 @疫学学生講義 2017.7.

2015年
「平井乃梅」、神戸における小児医療の生い立ちを訪ねて@10TH KOBE UNIVERSITY HOMECOMING DAY
2015.10.
新生児医療の進歩に対応した黄疸管理はどうあるべきか?いま、なぜ核黄疸か?@近畿新生児研究会 奈良2015.3.
阪神淡路大震災から20年@第118回日本小児科学会大阪 2015.4.

2011年
災害時における家族支援 阪神淡路大震災と私から 2011,11,
子どもの健康と環境 @東はりま地域子育てネットワーク交流会, 2011.10.
子どもを守ろう「生命」と「こころ」@地域児童育成環境フォーラム2011.9.三田市
初期小児救急医療 iPad を利用した診療(療育)業務の効率化 @姫路市総合福祉通園センター、 2011.09.
小児初期救急医療施設におけるiPod touchを用いたトリアージシステム@医療情報学会 2011.7. 神戸
「温故知新」Unbound bilirubin 測定の歴史 @第13回新生児呼吸療法モニタリングフォーラム 2011.2. 大町市文化会館

2010年
現代育児講座 〜今と昔の子育て状況の違い〜 @孫育て推進事業 2010.12.中山台コミュニティーセンター
新生児黄疸におけるUnbound Bilirubin の測定意義 @第9回UB研究会教育講演2010.6.日大駿河台講堂
近代新生児医療黎明期の栄養を振り返る@第10回新生児栄養フォーラム 2010.5. 東京