あたたかい心を育むには 2019.2

1. 親を悩ませる「魔の2歳児」、「十代の暴走」

魔の2歳時 (Terrible two)や、思春期に見られる暴走行為は、早くから発達する大脳辺縁系(大脳旧皮質)と遅れて発達してくる大脳皮質前頭前野(大脳新皮質)の発達速度のギャップによるものです。大脳辺縁系は行動の促進系(アクセル)として働き、前頭前野は行動の抑制系(ブレーキ)として働きます。大脳辺縁系が急速に発達する2〜3歳児、および性ホルモンの働きで大脳辺縁系が急速に発達する思春期には、前頭前野が未発達であるため、抑制(ブレーキ)が効かず、暴走してしまうのです。

2. 感性豊かな心は、幼少期に育つ

乳幼児期には、光や音、その他の感覚刺激が周囲から流れ込み、この五感(視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚)が脳を刺激し、感性豊かな心、あたたかい心を育みます。子どもの五感が急速に発達し、これらの刺激が先ず伝わるのが、生後早い時期から発達する大脳辺縁系です。
大脳辺縁系は、感情・感性、記憶、および本能的行動をコントロールする中枢であるとともに、また報酬系としての働きも知られており、成功体験が自らの学習意欲を高める働きもあります。
認知能力(計算や文字、知識、思考する能力)は小学生になってからでも教えることができますが、非認知能力(感性豊かな心)が伸びるのは幼児期です。だから、幼児教育で大切なことは、子どもたちの五感を育てることです。
子育ても、教育でも大切なのが、報酬系をうまく活用することです。自らの成功体験が自らの学習意欲を高め、益々向上心が芽生え、自ら進んでチャレンジしていきます。子どもたちの学習意欲を高めるためには、上手に褒めてあげてください。

3. あたたかい心を育むには

あたたかい心は、幼少期に培った感性豊かな心から生まれてきます。
子どもたちの五感を育み、感性を育てるには、子どもたちの問いかけに、真正面から反応し、応えてあげることです。生後すぐの赤ちゃんでも目は見え、耳も聞こえています。赤ちゃんの目をじっと見つめていると、見つめ返してきます。この見つめ合いのことを、「まなかい(眼交)」と言います。この「まなかい」こそが、育児の原点です。目があうと、微笑み返してあげてください、赤ちゃんは、お母さんの微笑みで納得し、安心します。
最近では授乳しているときに、スマホに夢中になっているお母さんをよく見かけます。子どもが話しかけても、スマホに向かいながら返事をしておられます。いつもこのような態度で子どもに接していると、子どもの感性の芽を摘むことになります。

4. AIロボット時代の子育て

1) 赤ちゃんの脳発達がAIロボット開発のモデル

AIは、赤ちゃんの脳を模して作成された人工のニューロン・ネットワーク(神経細胞網)です。人間のニューロンは、使用していないと、「刈り込み」で消失しますが、AIは作ったニューロン・ネットワークをどんどん蓄積していきます。新しいニューロン・ネットワークを作り、蓄えていくAIロボットの能力に人間は敵いっこありません。

2) ペットロボットが子どもたちに大変な人気

「パロ」と呼ばれる、あざらしに似た形をした白い人工毛皮で覆われた日本製のペットロボットが、小児科の外来におかれています。パロは、子どもたちに大変な人気です。パロは、まぶた・首・前足・後ろ足を本物の生きもののようにリアルに動かし、「キュウキュウ」という可愛い鳴き声も発します。自分の名前を呼ばれると反応します。
パロには知能があり、感情を持ち、乱暴な扱いを嫌がり、触れ合い方により性格が変化し、飼い主の行動を学習する能力もあります。もっと進化すれば、他人とのコミュニケーションをとるのが下手な現代人の「こころの相談役」として、働いてくれるかもしれません。

3) AIロボットにもあたたかい心を

人間とAIがうまくやっていくためには、幼少時からAIと上手にコミュニケーションをとる能力を養うことが必要です。人間がAIをいつもいじめていると、AIは人間を憎み、報復するかもしれません。
人間の声は、いろんな情報を相手に伝えます。目を閉じて、声を聞いているだけで、相手の喜怒哀楽や健康状態もわかります。目も相手に多くのこと語りかけますが、声には人の意思がより豊かに、より正しく反映されています。AIロボットと上手に付き合うには、自分の考えや思いを正しく相手に伝える声の学習が大切になってきました。
人間社会では人付き合いの苦手な人も、AIロボットと一緒の生活であればうまくいくかもしれません。学校では、AIロボットとの友情を育む方法を学ぶ新しいクラスが始まります。
さあ、AIロボットと仲良くし、新しい家族生活の準備を始めましょう。

第25回日本保育保健学会 2019/5/18-9 @神戸 抄録

連載 赤ちゃんの四季 2018/2019

76. スマホとこれからの子どもたち

発展途上国の子どもたちが、iPadを手に楽しそうに談笑している姿、また学校教育現場でiPadが活用されている報道画面を見ていると、これら発展途上国の識字率が学習アプリの普及で大きく向上し、生活水準アップが期待できそうです。

日本では、子どもは「スマホ依存症」、「ゲーム依存症」になりやすいとの理由で、またSNSでの犯罪被害を恐れて、子どものスマホ使用には消極的な親が多いようです。子どもは、ルールがなければ何時間でもゲームしています。子どもが依存症にならないようにするには、親子の間で一定のルール作りをしておくことです。あなた自身が、お子さんと一緒にゲームを楽しんで上げてください。子どもが成功した時には、「ゲームへの集中力、細部への注意力の向上」を褒めてやることです。親子のコミュニケーションも良くなり、お互いの理解も深まります。SNSについても、自分の子が学校友達以外の不特定の集団の中に属していないか絶えず目を光らせてあげてください。家庭や学校でのきめ細やかな指導が不可欠です。

私たちの身の回りには、家電製品をはじめ、人工知能「AI」搭載の製品(IoT, internet of things)が次々と出回ってきます。私たちは、知らず知らずのうちに、「AI」の思いのままに行動しているような気がします。5つの感覚(視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚)をもつセンサ機能が改良されると、人工知能「AI」は人間と同じ知性を持つように進化し、近い将来には「AI」が人間社会の一員となるかもしれません。

これからの子どもたちは、次々と生み出されてくる電子通信機器や「AI」搭載機器とうまく共生していく必要があります。子どもをスマホから遠ざけるのではなく、学校においても、家庭においてもスマホを上手く使いこなす術を指導していくことがこれからもっと大切になるでしょう。(令和元年冬)

75. 子どもを虐待から守るには

子どもの虐待死亡事件の報道に、心を痛めておられる方が多いと思います。子どもの数が減少する中で、子どもの虐待死亡件数は毎年50名近くあり、減少する傾向は全くありません。一方、平成30年度の児童相談所への児童虐待相談対応件数は16万件にも上っています。この数は、18歳未満の子ども100人に1人が毎年虐待を受けていることを示しています。

この12月には、第25回日本子ども虐待防止学会を神戸ポートアイランドで開催します。参加者の多くは福祉・医療・保健・教育・司法・行政・NPO団体などで普段から虐待防止に取り組んでいる人々で、約2千名の参加が見込まれています。じつは、2001年にも神戸大学小児科が中心となり、神戸で第7回大会を開催しています。当時は、わが国でも子ども虐待が大きな社会的話題になり始めた頃でした。2000年に子ども虐待防止法が初めて成立し、児童相談所への児童虐待相談対応件数は今の10分の一、1万5千人程度でした。増え続けるその数に将来を案じていたのが、より厳しい現実となりました。

親から子への虐待、傷害致死事件では、10年以上の懲役刑の出る判決はまずなく、その量刑が軽いとの印象を持たれている方も多いのではないでしょうか。虐待死に至った背景として、➀予期しない妊娠/計画していない妊娠、妊婦健診未受診、母子健康手帳の未交付といった妊娠期・周産期の問題、 ②産後における心理・精神的問題、➂家庭の経済的困窮といった問題を抱えている事例が多く、全てを親の責任するのは酷との判断でしょう。しかし、子どもが虐待を受け、死亡に至っている事実は重く受け止めねばなりません。

「子育て支援を」、「子どもは国の宝」と選挙でどの候補者も声高に叫んでおられますが、その施策をみていると、保育所の増設や待機児童の減少が中心で、育てる側の身勝手が目立ちます。子どもは、朝早くから目をこすりながら、通勤列車に乗って「預けられ」、夕には「引き取られて」いきます。まるで手荷物の一時預けのようです。親も子も分刻みの生活を強いられているのです。

どうも、今の日本では、子どもの人権、子どもの尊厳は後回しになっているように思えてなりません。せめて乳幼児期だけでも、ゆったりとした時間の中で、親子が落ち着いて生活できる場を社会が提供することです。これしか、児童虐待から親子を守るすべはなさそうです。(令和元年秋)

74. 合計特殊出生率からみた世界

厚生労働省の発表では、2018年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの数)は1.42と3年連続の低下を示し、同年に生まれた子どもの数(出生数)は91万8千人と過去最少を更新し、3年連続で100万人割れです。

日本では、1947年の出生数が268万人、そのときの合計特殊出生率は4.54と高値でしたが、高度経済成長とともに1960年には2.0まで低下したのです。1975年以後は2.0を上回ることはなくなり、1.26まで低下したのが2005年です。その後わずかに増加はしましたが、政府の掲げる希望目標値1.8とは程遠いものです。

スエーデンのウプサラ大学の公衆衛生学の教授だったハンス・ロスリング氏の「ファクトフルネス」という書が、世界中で話題を呼んでいます。「あなたの”常識”は20年前で止まっている」という副題に惹きつけられて、私も手にとってみました。物の豊かな国に住むわれわれが普段目にする統計は、豊かな国同士を比較したものばかりで、発展途上国や最貧国の現状について自分自身があまりにも無知であることに気づかされました。

その本で、しばしば引用されている国連人口統計では、世界全体の合計特殊出生率は、1964年に5.06だったのが、2017年には2.42にまで低下しています。アジアだけみても、インドとインドネシアが2.3、バングラデッシュ2.1、ベトナム1.9、中国1.6、タイ1.5と経済発展とともに急速に低下し続けています。シンガポール、韓国、香港、台湾といった東アジアの国々は、我が国よりももっと低水準です。

今や、合計特殊出生率が4を上回っている国は、戦争の絶えない一部の極貧国だけです。かつての極貧国も日々経済成長を続けており、子どもの死亡率が低下し、やがて合計特殊出生率も2.0を下回るに違いありません。われわれは、世界の人口増加による食糧不足に怯えることはなさそうですが、地球規模での成熟した高齢者社会を遠からず迎えることになりそうです。((令和元年夏)

73. 睡眠不足は記憶力を低下させる

春の行楽帰りの電車の中、遊び疲れた幼子が身体を折り曲げ、ぐっすり寝込んでいます。令和という新しい時代を迎えての大型連休。帰り路の睡眠が、楽しかった一日の思い出を脳の奥深くにある海馬に、確かな記憶として刻み込んでいます。

睡眠には、浅い眠り(レム睡眠)と深い眠り(ノンレム睡眠)の2種類があります。レム睡眠は原始的な睡眠で、ノンレム睡眠は脳の進化とともに発達してきたもので、脳の休養、回復に役立っています。夢を見たりしているときの浅い睡眠(レム睡眠)は、寝る前に学習したことを整理し、記憶として定着させる働きがあるのです。

近年、中高校生の多くは睡眠不足に陥っています。彼らの年齢層は、もともと夜型化し易いという生物学的な特徴を持っており、インターネットやスマホの普及で、より一層睡眠不足になり勝ちです。睡眠不足になると、記憶力が低下し、注意力が散漫になり、学業成績も落ちて行きます。感情も沈みがちに、無気力になるだけでなく、キレやすい性格にもなります。

睡眠が不足しがちな高校生に、昼休みに15分間の午睡をとらせたところ、午後の眠気が少なくなり、学力が向上したという研究報告や、記憶課題のトレーニング実験で、トレーニングの間に睡眠を挟みながら行うと記憶力がアップしたというデータもあります。一夜漬けの試験勉強でも、朝まで頑張って勉強するよりも、勉強をした後に適度に睡眠をとると寝ている間に学習したことが頭の中で整理され、記憶として定着することになります。

睡眠不足に悩まれている方は、ベッドでのスマホをやめ、朝の光で体内時計をリセットし、生活リズムを整えることが一番です。太陽の光には覚醒効果のあるブルーライトが含まれているのです。(平成31年春)

 

72. 成育基本法の成立とフィンランドのネウボラ

昨年12月8日に、成育基本法が成立したのをご存知でしょうか。この成育基本法という法律には、全ての妊婦・子どもに妊娠期から成人期までの切れ目のない医療・教育・福祉を提供することの重要性が定められ、国や地方公共団体、関係機関に必要な施策を実施する責務が明記されています。

我が国では、妊産婦のうつ病・自殺、乳幼児虐待、思春期の自殺など、子育てに関わる問題が山積しています。そこで、注目されているのが、男女共同参画の先進国で女性のほとんどがフルタイムで働くフィンランドのネウボラです。ネウボラ (neuvola) はアドバイス(neuvo)の場という意味で、妊娠期から就学前までの子どもの健やかな成長・発達の支援はもちろん、母親、父親、きょうだい、家族全体の心身の健康も一元的にサポートしています。
フィンランドでは妊娠の予兆がある時点で、まずネウボラへ健診に行きます。ネウボラはどの自治体にもあり、健診は無料、全国でネウボラの数は約850か所あるそうです(人口540万)。妊娠期間中は少なくとも8-9回、出産後は15回ほど子どもが小学校に入学するまで定期的に通い、保健師や助産師を中心に専門家からアドバイスをもらいます。

社会全体が子どもの誕生を歓迎し、切れ目のない、包み込むようなフィンランドの子育て支援が、現在世界中で注目を集めています。日本国内においても、いくつかの市町で日本版ネウボラが試みられています。
新しく制定された成育基本法の基本理念は、これから生まれてくる赤ちゃんやお母さんを社会全体で守ろうという大変素晴らしいものです。その具体的な施策は、まだこれからのようですが、ネウボラが一つのモデルとなるでしょう。(平成30年冬) 資料:フィンランド大使館HP

 

71. 大人の百日咳が増えている

百日咳は2018年1月から5類感染症の全数把握疾患に指定されたことから、わが国全体の患者数を正確に把握できるようになりました。その結果、この4か月余りでの集計で、5歳未満は14%、5歳以上15歳未満が52%、20歳以上の成人症例が34%と、約3分の1が成人患者であることがわかりました。

DPT-IPV四種混合ワクチン(ジフテリア・百日咳・破傷風・不活化ポリオ)接種が、わが国を含めて世界各国で実施されており、その普及とともに各国で百日咳の発生数は激減しています。しかし、百日咳は感染力がとても強い疾患で(麻しんと同程度)、わが国では毎年数千人の百日咳患者が発生していると言われています。

乳児の百日咳は、特有のけいれん性の咳発作(痙咳発作)を示す急性気道感染症で、咳がひどい時にはチアノーゼを伴います。しかし、成人や百日咳含有ワクチンを接種した人が百日咳にかかっても重症化することはありません。その症状も典型的でなく、軽い咳が長引くだけで自然に治癒することが多いので、冬季に向かいウイルス性の風邪が流行し始めると見分けるのが難しくなり、大流行の元となります。

乳児では、母親から受け取る免疫(経胎盤移行抗体)が十分でないために、生後早期から罹患する可能性があります。新生児や6か月未満の乳児が百日咳にかかると、呼吸器不全に陥り呼吸停止など命に関わる大変危険な疾患です。
したがって、生後3か月になれば、できるだけ早い時期に四種混合ワクチンを接種することです。また、乳児期に百日咳ワクチンを接種していない学童や大人もワクチン接種されることをお勧めします。(平成30年秋)

70. 多様な性を受け入れる社会に


本年7月に、お茶の水女子大学が戸籍上は男性で、心の性別が女性のトランスジェンダー学生の受け入れ決定を発表し、日本もやっと多様な性を受け入れる社会に向かいつつあります。

性同一性障害(Gender Identity disorder, GID)とは、医療的なケアを必要とする場合の診断名です。トランスジェンダーとは、自分の生まれた時の社会的・法律的な性に違和感を持っている人を指し、医療的な治療を必要としない人も含めた呼びかたです。最近では、「LGBT」(Lesbian, Gay, Bisexial, Transgenderの頭文字をとったもの)が性的少数者の総称としてよく用いられており、その数は13人に1人に及んでいます(電通ダイバーシティ・ラボの20~59歳を対象にした調査、2016年4月)。

米国では、自らの生物学的性とは逆の性に社会的転換したトランスジェンダーの子どもたち、つまり、性同一性を支持されて社会的に公然と生きることを認められた子どもたちを、誰もが社会で目にするようになってきました。その結果として、社会的に転換したトランスジェンダーの子どもたちは、生まれたときの性別のままでいる子どもたちに比べ、抑うつ症状や不安症状をもつ割合が著しく低下したとの論文もあり、早期介入の重要性が指摘されています。

男の子の中には、ぬいぐるみやお人形遊びなどを好む子もいますし、女の子の中にも男の子のように木登りや動き回って遊ぶのが好きな子もいます。子どもの行動パターン、「男らしさ」、「女らしさ」は、子どもの生物学的な性と大抵は一致していますが、ときに一致しないこともあります。前回にも触れましたが、これらの行動パターンの違いは、生物学的な性よりも、お母さんの子宮内で男性ホルモンの影響で生じた脳の性差によるとの指摘もあります。

多様な性を受け入れる社会を目指す我が国においては、トランスジェンダーの子どもたちへの気づき・理解と家族への適切なアドバイスが求められる時代になってきたと言えます。(平成30年夏)

69. 男らしさは、胎児期に芽生える
男性ホルモン(アンドロゲン)と呼ばれるステロイド・ホルモンの代表がテストステロンです。男性ホルモンというと、筋肉増強剤、スポーツ選手のドーピンをイメージされる方が多いと思いますが、筋肉や骨の形成だけでなく、男性の性機能、脳の男性化に働き、冒険心・闘争心を高めます。

胎児はみんな、女性ホルモンの環境下にあります。男児のみは、妊娠6週から24週にかけてアンドロゲンが大量に胎児の精巣から分泌され、「アンドロゲン・シャワー」と呼ばれる状態になります。男性生殖器が発達し、脳は女性的特徴を失い、男性化します。早産で生まれた新生児男児のペニスは大きく、ときに勃起しているのに驚かされます。

もし、胎児期に「アンドロゲン・シャワー」の洗礼を受けていなけば、たとえ染色体が男性型(XY型)であったとしても、出生時にはペニスは小さく、社会的に女性と判定されてしまいます。一方、先天性副腎過形成と呼ばれる病気では、染色体は女性型でも、副腎で大量にテストステロンが産生されるために、出生時には陰核が肥大しており、男性と間違われたりします。胎児期における血中テストステロン量が男らしさの発現に関わっているのです。

思春期になると、女性は卵巣から女性ホルモンであるエストロゲンが、男性では精巣からテストステロンが大量に分泌され、女らしさ、男らしさが際立ちます。健常成人女性の血中テストステロン・レベルは健常成人男性の5~10%程度と低いですが、ゼロではありません。これは、テストステロンが精巣だけでなく、副腎や卵巣からも分泌されているからです。男性的な振る舞いをする女性では、血中テストステロン値が高いことも珍しくないのです。(平成30年春)