「草枕」冒頭の一節

昨日から、有馬のかんぽの宿に湯治に来ています。泊り客は年寄りばかり、実にのんびりします。湯上がりに、びん牛乳をラッパ飲みしながら、10分間100円のマッサージチェアに横たわっていると、至福を感じます。

いまだに戦争するなんてと思いつつ、児童虐待と同じで、これも人間の性でしょうか。そっと後ろから振り上げた拳を掴んでくれる人がいれば、大事に至らないでしょうに。周囲の人間は、制裁、制裁と煽り立てるだけで、本気で和平を望んでいるとは思えません。

文豪夏目漱石の1906年の作品「草枕」の冒頭の一節が、突然思い出されました。

智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る。

人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。矢張り向う三軒両隣りにちらちらする唯の人である。唯の人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はない。あれば人でなしの国へ行くばかりだ。人でなしの国は人の世よりも猶住みにくかろう。

越す事のならぬ世が住みにくければ、住みにくい所をどれほどか、寛容て、束の間の命を、束の間でも住みよくせねばならぬ。
ここに詩人という天職が出来て、ここに画家という使命が降る。あらゆる芸術の士は人の世を長閑にし、人の心を豊かにするだけに尊い。・・・・・・・

この小説が書かれた1906年といえば、日露戦争の直後です。1904年(明治37)2月より翌1905年9月まで、日本とロシアは朝鮮と南満州の支配をめぐって戦いました。日本は20万の死傷者を出し、戦費15億円(今の数兆円に相当)を費やしたそうです。

2022/3/7  明日は結婚58周年