セロトニン研究、50年の歴史から学んだこと

セロトニンという物質は、神経伝達物質として精神の安定や情動、記憶力に関わり、脳内で不足すると不安や気分の落ち込みを招きます。小児の発達障害や脳の老化、さらには認知症のリスクを高める可能性も指摘されています。

私が研究生活を始めた50年前、1970年代には小児てんかん発作とセロトニンの関連性が注目されていました。同僚の児玉壮一君が、セロトニンの主要代謝産物である尿中5-HIAAを薄層クロマトグラフィーで測定していたのを思い出します。

セロトニンは、時代ごとに注目される課題とともに再び話題になりますが、決定的な解明には至らないまま今日に至っています。

2000年代には、精神科領域でセロトニンと統合失調症やうつ病との関連性が明らかにされ、小児科領域でも自閉症や注意欠陥多動障害(ADHD)、乳児突然死症候群(SIDS)との関係が研究されました。


新しい発見(2020年代以降)

AIくんが教えてくれた最近の論文の中で、特に印象に残った3つを紹介します。

1. 皮質回路活動とセロトニンの関係(Nature, 2025)
遺伝的トランスポーター欠損、抗うつ薬曝露、ストレスなどの異なる要因が、生後早期の「皮質内セロトニン濃度変化」と「皮質ニューロン活動状態」のスイッチを引き起こす可能性を示しました。
従来の「低セロトニン=伝達障害」という単純な理解だけでなく、「早期の過剰シグナル → 将来の応答抑制」といったダイナミックな変化を考慮する必要があるとされています。

2. セロトニンと可塑性窓(critical period)(PNAS, 2023)
発達初期の感覚皮質において、可塑性が最も高い時期(sensitive period)におけるセロトニンシグナルの変化が、軸索誘導やシナプス形成を左右する可能性が報告されています。

3. ストレスとエピジェネティクスの経路(PLOS ONE, 2018)
NICUの未熟児が受けるストレス(侵襲処置・痛みなど)が、セロトニントランスポーター遺伝子のメチル化変化を誘導し、それが脳構造や情動発達に影響する可能性を示した縦断研究です。


おわりに

これらの研究は、未熟児の脳内で単に「セロトニン量が足りない」あるいは「受容体が未発達」という説明では不十分であり、時期依存的で、フィードバックを含む複雑なシステムとして理解する必要があることを教えています。

何事にも表と裏があります。どんなに健康に良いとされる物質でも、摂りすぎれば逆効果になります。私たちの身体は、絶妙なバランスの上に成り立っているのです。
乳幼児期の脳の発達は、その後の人生の礎を築くものです。これらの研究の歩みを教訓に、育児や医療のあり方をもう一度見直したいと感じています。2025.10.8