新型コロナによる死亡率、大阪・兵庫は東京の3倍も高い

大阪の新型コロナによる死亡率が他の府県に比べて異常に高いのが、これまでから気になっていた(図1)。

12月に入り、感染者数の増加とともに、大阪・兵庫の死亡数は他府県に比べ急に増加し、人口当たりの死亡者数の割合および感染者数当たりの死亡者数の割合が、全国平均や東京・神奈川に比べて、ほぼ3倍近く高いレベルを示している(図2)。




年明けとともに、首都圏での感染者数の増加で緊急事態宣言が取り沙汰されているが、死亡者数をみていると、大阪・兵庫の方がはるかに危機的状況だと思うが、あまり問題視されていないのが不思議でもある。

報道の数字だけしか手元にないので、細かい分析はできていないが今後も注視していきたい。


参考

 


2021-01-04


 

子どもが新型コロナ流行の潜在的な伝染源に

Pediatric Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 (SARS-CoV-2): Clinical Presentation, Infectivity, and Immune Responses.

By Yonker LM、J Pediatr 2020; 227 (December): 45-52 .


論文の要旨

マサチューセッツ総合病院小児科のYonker博士らは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS- CoV-2)感染が疑われる、0〜22歳の子どもが緊急治療クリニックに来院するか、SARS-CoV-2感染の確認/疑いまたは小児の多臓器炎症症候群(MIS-C )の児192人を登録、解析した。うち、49人の子ども(26%)が急性SARS-CoV-2感染症と診断され、さらに18人の子ども(9%)がMIS-Cの診断基準を満たしていた。 急性SARS-CoV-2感染症49人のうち、25人の子ども(51%)だけが発熱を示した。

  • 鼻咽頭ウイルス量は、症状の最初の2日間で最も高く、子どもは重度の疾患で入院した成人よりも有意に高かった(P = .002)。
  • 年齢はウイルス量に影響を与えませんでしたが、10歳未満の子どもは年長の子どもよりもアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)の発現が低かった(P = .004)。
  • SARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメインに対する免疫グロブリンM(IgM)および免疫グロブリンG(IgG)は、重度のMIS-C(P <.001)で増加しており、体液性反応の調節不全が観察されました。

この研究は、軽度の病気や症状の欠如にもかかわらず、子どもがSARS-CoV-2パンデミックの潜在的な伝染源となり得る可能性を示している。


2020-12-30

2020年を振り返って

今年は、社会的にも、個人的にも、大変な一年でした。

新型コロナという疫病は、まるで、情報ネットワークに乗っかって、あっという間に世界中に蔓延してしまいました。第一波における緊急事態宣言で、巣篭もり生活を送っていたところ、宣言が解除された6月初めには自らの病で入院する羽目になりました。3か月余りの入院生活で、幸い病は克服できました。

その後も、新型コロナ感染者数は増え続け、私のような持病を持つ高齢者は不要不急の外出を自粛せざるを得ず、精神的に厳しい生活を余儀なくされています。

同年輩の友人とメールや電話でお互いの巣篭もり生活を慰め、励まし合い、1日も早いワクチン接種を心待ちにする日々です。天気の良い日には、できるだけ外出し、物理的距離を十分に保ちながら、サルコペニアやフレイルにならないように気をつけています。

日本の新型コロナ対策は、防疫と経済の両立という方針が取られています。11月から12月にかけての第3波に対して、首都圏以外で感染者数が増えていても、GoToトラベルは継続され、国として積極的な感染抑制対策は取らない、模様眺めのウイズコロナです。

東京都で一日の感染者数が千人を超えるまでは、経済優先で、感染抑止策を取らないのが、国の当初からの基本方針のようです。

感染者数は一旦増加し始めると、指数関数的に増えます。米国のCAやNYといった都市では、一日千人を超えてからでは有効な手立てがなくなっています。感染対策は、その見極めが勝負です。

正月明けに、収拾のつかない状態になっていないことを念ずるのみです。

年末年始だけでなく、ワクチンの接種が始まる3月までは、駄文でも書きながら、静かな日々を過ごす覚悟です。

2020年12月28日


 

コロナワクチン有効率95%の意味

米製薬大手ファイザーは11月18日、独バイオ医薬ベンチャーのビオンテックと共同開発する新型コロナウイルスワクチンの臨床試験で95%の予防効果が確認され、重篤な副作用も見られなかったとする最終結果を発表しました。(2020年 ロイター/DADO RUVIC)

ファイザーによると、4万3000人を超える治験参加者のうち、170人が新型ウイルス感染症(COVID-19)に感染。感染者のうちワクチンの接種を受けていたのは8人にとどまり、残りはプラセボ(偽薬)の接種を受けていた。このことから、有効率が95%だったとされました。


ワクチンの有効率の計算式


ワクチンの有効率とは(1-接種者罹患率/非接種者罹患率)×100

=(1-0.0004/0.0075)×100  =  94.7%です。すなわち、もしワクチン接種をしていたら、発病せずにすんだ人(=非接種の罹患率 ー 接種の罹患率)のワクチン接種をせずに発病した人(=非接種の罹患率)に対する割合です。

ワクチンを接種した人が、発病せずにすむ比率(=接種者非罹患率)ではありませんので間違わないように。このワクチンの接種者非罹患率は99.96%となります。


  • ファイザーとビオンテックが開発するワクチン「BNT162b2」はメッセンジャーRNA(mRNA)技術に基づくもの。遺伝子を人工的に合成するため、短期間で大量のワクチンを製造できる利点があります。ファイザーは今月9日、同ワクチンの有効率が90%を超えたと発表していました。
  • 感染して重症となった被験者10人のうち、プラセボではなくワクチンの接種を受けていたのは1人のみでした。
  • 副作用については、おおむね軽度ですぐに解消したと報告。ワクチン接種を受けた被験者の2%超が疲労感を訴えていました。
  • 因みに、インフルエンザワクチンの有効率は、健常成人で発病予防を指標とした時に70〜90%、小児で発熱を指標とした時に20〜30%というデータがあります。(CDC, 2004)

202011.30

新型コロナ感染、9人に1人が子ども

新型コロナ感染、9人に1人が子ども。失われた世代を生まないために。ユニセフ報告書発表20201119 NY発】 https://www.unicef.or.jp/news/2020/0238.htmlより


ユニセフ(国連児童基金)は本日、報告書を発表し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが2年目に入ろうとする中で、子どもたちへの重大かつ拡大する影響について警鐘を鳴らしました。

9人に1人が子ども新型コロナ感染

11月20日の「世界子どもの日」を前に発表された『COVID-19による失われた世代を生まないために」(原題:Averting a Lost COVID Generation)は、パンデミックの長期化に伴い、子どもたちへの悲惨で拡大しつつある影響を包括的に概説した初めてのユニセフ報告書です。

「パンデミックを通して、子どもたちはほとんど感染していないという神話が今も根強く残っていますが、それは見当違いです」と、ユニセフ事務局長のヘンリエッタ ・フォアは述べています。報告書によると、11月3日現在、年齢別データのある87カ国では、20歳未満の子どもと青少年がCOVID-19感染者の9人に1人、これらの国で報告された2,570万人の感染者の11パーセントを占めています。

COVID-19による子どもたちへの影響

COVID-19による重要な保健・社会サービスの中断こそ、子どもたちにとって最も深刻な脅威です。140カ国におけるユニセフの調査から得られた新しいデータを根拠に、報告書は次のように述べています。

– 分析対象国の約3分の1の国々で、定期予防接種、小児感染症の外来ケア、妊産婦保健サービスなどの保健サービスへのカバレッジが少なくとも10パーセント低下。感染症への恐怖が主な理由です。

報告書には、さらに以下の驚くべきデータが含まれています。

  • 2020年11月時点で、30カ国にわたる休校によって5億7,200万人の生徒が影響を受けており、これは世界の学校に在籍する子どもの33パーセントに相当する。
  • 12カ月の間に、子どもの死亡が推定200万人増え、死産が20万人増えるおそれがある。
  • 2020年、消耗症や急性栄養不良になる5歳未満の子どもたちが、600万人から700万人増え、これは14パーセントの増加となる。
  • 教育、保健、住居、栄養、衛生、水へのアクセスがない多次元の貧困の中で暮らす子どもの数は、2020年半ばまでに15パーセント急増し、1億5,000万人増えたと推定されている。

ユニセフは失われた世代を生まないように、各国政府とパートナーに向けて呼びかけています。


世界こどもの日:困難を乗り越えて・・・【関連動画】

世界子どもの日に際し、ユニセフは政府、パートナー、民間部門に向けて、子どもたちの声に耳を傾け、子どもたちのニーズを優先するよう呼びかけています。ともに未来を再創造し、パンデミック後の世界に目を向けるとき、子どもたちを最優先に考えなければなりません。


2020/11/24

重度のCOVID-19危険因子にネアンデルタール人由来の遺伝子が関与

人類遺伝学がご専門の西尾久英教授(神戸学院大学)から、英国科学雑誌Nature, 2020 Sep 30. doi: 10.1038に掲載されたZeberg H, Pääbo S.: ”The major genetic risk factor for severe COVID-19 is inherited from Neanderthals.”の話を伺いましたので紹介します。

スバンテ・ペーボ教授は、人類誕生の過程でネアンデルタール人とホモサピエンスの間での交雑説を、遺伝子解析からはじめて唱えられた博士で、ドイツのマックス・プランク進化人類学研究所の教授で、沖縄科学技術大学院大学の兼任教授もされています。

ペーボ教授らは、ネアンデルタール人から受け継がれた、3番染色体上の約50キロベースの遺伝子領域が、重症化リスクと関係していることを指摘しています。この領域は、南アジアの人々の約50%、ヨーロッパの人々の約16%が担っていますが、日本・韓国・中国など東アジアではほとんどの人が当該遺伝子を持っていないとのことです。

東アジアと欧米の国々では、SARS-CoV-2感染の重症化に差のあることはこれまで謎でしたが、ネアンデルタール人由来の遺伝子の有無が関与しているとのペーボ教授らの説は納得のいくものです。

南アジアと東アジアの間のハプロタイプ頻度のこのような違いは、過去の自然選択によって影響を受けた可能性が指摘されています。すなわち、南アジアでは、このハプロタイプを有する対立遺伝子の存在が病原体から人々を守るように働き、ハプロタイプの頻度が高いままになっているのかも知れません。

しかし、東アジア地域では、このハプロタイプを有する対立遺伝子を持つ人々が、コロナウイルスあるいは他の病原体に対して高い感受性を持つことになり(すなわち、感染して、死亡するために)、このハプロタイプの頻度が減少した可能性があります。

人類の歴史において、今回のコロナウイルス流行と同じような流行で遺伝子の選択が繰り返されてきたようです。

参考文献

[1] Ellinghaus, D. et al. Genomewide association study of severe COVID-19 with respiratory failure. N. Engl. J. Med. https://doi.org/10.1056/NEJMoa2020283 (2020). 重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染した後の呼吸不全のリスク遺伝子座として3番染色体上の遺伝子クラスターが特定された。

[2] COVID-19 Host Genetics Initiative. The COVID-19 Host Genetics Initiative, a global initiative to elucidate the role of host genetic factors in susceptibility and severity of the SARS-CoV-2 virus pandemic. Eur. J. Hum. Genet. 28, 715–718 (2020). コロナウイルス病2019(COVID-19)の入院患者3,199人と対照者を含む研究で、3番染色体上のクラスターがCOVID-19感染および入院後の重篤な症状の主要な遺伝的危険因子であることを示した。

新型コロナウイルスワクチンで懸念される副反応

新型コロナウイルスワクチンでもっとも懸念される副反応は、ワクチンによって逆に感染が悪化してしまう病態、すなわち、抗体依存性感染増強現象 (Antibody-dependent enhancement: ADE)ワクチン関連増強呼吸器疾患 (Vaccine-associated enhanced respiratory disease: VAERD)です。

ADEは、ワクチンによって産生された抗体が、ウイルス感染を防ぐのではなく、逆にFc受容体を介してウイルスが人間の細胞に侵入するのを助長し、ウイルス感染を悪化させてしまう現象です。これは、ウイルスに対する中和作用の低い抗体が多く産生される場合に生ずる現象です。

VAERDも、また同じくワクチンによって中和作用の低い抗体が多く産生される場合に生ずる現象です。この中和作用の低い抗体は、ウイルスと免疫複合体を形成し、補体活性化を惹起して、気道の炎症を引き起こします。

ADEやVAERDといった副反応を防ぐには、高い中和作用を持つ抗体を産生させ、かつTh1細胞優位の免疫反応を惹起するワクチンの開発でなくてはなりません。1日も早い供給が待たれますが、安全供給のための臨床試験、ワクチンの供給体制の整備、認可後の予防接種有害事象のモニタリング体制の整備が重要なようです。

2020-11-9

新型コロナワクチンの開発状況 Krammer Fの論文から

Krammer F. Review: SARS-CoV-2 vaccines in development. Nature. 2020 Oct; 586(7830): 516-527. PMID: 32967006. の抄訳です。

SARS-CoV-2に対するワクチンの開発は、ウイルスの遺伝子配列が2020年1月初旬に利用可能になったときに開始され、前例のない速度で進んでいます。2020年3月に第I相試験が開始され、現在、180を超えるワクチンが開発途上のさまざまな段階にあります。

著者は、効果的で安全なワクチンが、数年単位ではなく数ヶ月以内に入手可能になる可能性があること述べています。

ここでは、第III相臨床試験まで開発が進んでいるワクチンのいくつかについてのみ邦訳しましたので、参考にしてください。

開発中のワクチンの種類

ワクチン開発のプラットフォームとしては、

  1. 従来からのアプローチ(不活化ワクチンまたは生ウイルスワクチン)、
  2. 最近認可されたワクチン(組換えタンパク質ワクチンおよびベクターワクチン)のプラットフォーム、
  3. 認可されたワクチンがまだないプラットフォーム(RNAおよび DNAワクチン)

の3つに大別されます。

1。不活化ワクチンの開発状況

不活化ワクチンは、細胞培養、通常はベロ細胞でSARS-CoV-2を増殖させた後、ウイルスを化学的に不活化することによって、比較的簡単に製造できます。ただし、それらの収量は、細胞培養におけるウイルスの生産性とバイオセーフティーレベル3の生産施設の要件によって、制限される可能性があります。

不活化ワクチン候補には、中国のSinovac Biotechによって開発中のもの以外に、CoronaVac(当初はPiCoVaccとして知られていた)、および他のいくつかの候補も中国で開発中です。インドのBharat Biotech、やカザフスタンの生物学的安全性問題研究所のもあります。

これらのワクチンは通常筋肉内に投与され、ミョウバン(水酸化アルミニウム)または他のアジュバントを含んでいます。ウイルス全体が免疫系に提示されるため、免疫応答は、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質だけでなく、マトリックス、エンベロープ、および核タンパク質も標的になっている可能性があります。

いくつかの不活化ワクチンの臨床試験が進められており、中国から3件が第III相試験に、インドから1件、カザフスタンから1件、中国から2件が第I相または第II相臨床試験に参加しています。


2。非複製型ウイルスベクターワクチンの開発状況

非複製型ウイルスベクターワクチンは、最も大規模に開発が進められているワクチンです。 この種のワクチンは通常、スパイクタンパク質を発現するように設計されており、そのゲノムの一部が削除されているためにin vivoでは複製できないようになっています。

大部分は、アデノウイルス(AdV)ベクターに基づいていますが、改変ワクシニアアンカラ(MVA)、ヒトパラインフルエンザウイルスベクター、インフルエンザウイルス、アデノ随伴ウイルス、センダイウイルスも使用されています。

これらのベクターの大部分は筋肉内投与されます。ワクチン接種を受けた個体の細胞に入ったベクターは、次にスパイクタンパク質を発現し、これに宿主の免疫系が応答する仕組みです。

これらのアプローチには多くの利点があります。 ワクチン生産中に、生きたSARS-CoV-2を処理する必要がないこと。これらのベクターのいくつかを大量に生産した豊富な経験があることです(エボラウイルスに対するワクチンが最近欧州連合で認可されています)。また、これらのベクターは、B細胞およびT細胞応答の両方に良好な刺激を示します。

不利な点は、これらのベクターのいくつかが、すでに体内で生じているベクターに対する免疫によって影響を受け、部分的に中和されることです。この反応は、ヒトでは稀なウイルスか、動物に由来するウイルスか、あるいはあまり免疫を誘導しないウイルス(例えば、アデノ随伴ウイルス)を使用することによって回避できます。

さらに、prime–boost regimensを使用する場合、ベクター免疫が問題になる可能性がありますが、これは、あるベクターでプライミングし、別のベクターでブーストすることで回避できます。 SARS-CoV-2に対するいくつかの非複製型ウイルスベクターワクチン候補は、臨床開発において一番進歩しています。

the University of Oxford—AstraZeneca のワクチン、ChAdOx1nCoV-19(チンパンジーAdVに基づく)については、NHP試験およびヒトでの臨床試験の結果がすでに報告されています。 Janssen(AdV26ベースのベクターを使用)およびCanSino(AdV5); さらに、ガマレヤ研究所(Ad5 / Ad26)のワクチンは第III相臨床試験中であり、ReiThera(gorilla AdV)は第I相試験中です。


3。RNAワクチンの開発状況    2020-11-9に追加

RNAワクチン(図3l)は比較的最近の開発されたものです。DNAワクチンと同様に、抗原自体の代わりにRNAを介して抗原の遺伝子情報が配信され、ワクチン接種を受けた個体の細胞内で抗原が発現します。

mRNA(修飾あり)または自己複製RNAのいずれかを使用します。mRNAを用いる場合には、それ自体を増幅する自己複製RNAよりも高用量が必要であり、RNAは通常脂質ナノ粒子(LNP)を介して伝達されます。RNAワクチンは近年大きな期待を担っており、ジカウイルスやサイトメガロウイルスのためのワクチンが開発中です。

SARS-CoV-2に対するワクチンとして、数多くのRNAワクチン候補の研究が進められており、前臨床試験で有望な結果が報告されています。ファイザーとモデルナは現在第III相試験を、CureVacとArcturusはフェーズI / II、インペリアルカレッジロンドンと中国解放軍からのワクチン候補はフェーズI試験中です。これらの技術の利点は、ワクチンを完全にin vitroで製造できることです。しかし、その技術は新しく、冷凍保存が必要なため、大規模生産や長期保存の安定性に関してどのような問題が発生するかは不明です。さらに、これらのワクチンは注射によって投与されるため、強い粘膜免疫を誘発する可能性は低いようです。

ファイザーのBNT162b1およびBNT162b2

ファイザーは、ドイツの企業BioNTechと共同で、18〜55歳の健康な成人45人を対象としたBNT162b1の進行中の第I / II相ランダム化プラセボ対照オブザーバーブラインド用量漸増試験のデータを最近発表しています(NCT04368728)。

BNT162b1は、脂質ナノ粒子(LNP)で伝達されるmRNAベースのワクチン候補で(図3l)、受容体結合部位(receptor-binding domain, RBD)の三量体を発現させたものです。

10μg、30μg、100μgのRNAの3つの用量を、3週間間隔で接種しました(プライムブーストワクチン接種レジメン)。RBDに対するELISA結合とSARS-CoV-2レポーターウイルス(IC80)の中和反応をテストしました。

1回目投与の3週間後の中和力価は一般的に低かった(ワクチン候補mRNA-1273のものと同様に)。 2回目投与の7日後においては、2つの異なる用量で1:168および1:267の幾何平均抗体価(geometric mean titer:G.M.T)が検出され、安全性プロファイルが好ましくなかったため、100μg群には追加免疫投与を行いませんでした。

ブースト後14日で、力価はそれぞれ1:180と1:437にまで達しており、回復期の血清でも1:94の力価に達していました。しかし、これらの結果が代表的なものであったかどうかは不明です。

初回投与後の全身性有害事象は用量依存的であり、発熱が含まれており、特に100μg群では50%の被検者に見られ、また倦怠感、頭痛、悪寒も見られました。 mRNA-1273と同様に、追加免疫投与後の副作用はより一般的であり、30μgグループでは被検者の70%以上が発熱を認めました。 30μgグループの被検者1名でグレード3の発熱が、100μgグループの1名で睡眠障害がみられ、重篤な有害事象として報告されました。100μgグループの参加者は、プライム後の100μg用量とブースター用量試験を受けていません。

追加の研究で、ファイザーは最近、BNT162b1とBNT162b2の直接比較を報告しています(NCT04368728)。BNT162b2はBNT162b1に似ていますが、2つの安定化プロリン残基を持つ完全長のスパイクタンパク質をコードしています。 2つの候補間の抗体価は同等でしたが、BNT162b2はより好ましい安全性プロファイルを示しました。 この試験には、高齢者(65〜85歳)のグループも含まれています。両方のワクチンの反応原性は、高齢者グループの方が若い人に比べて低かったようです。しかし、抗体価も低く、GMTは若い人の約40%でした(表2)。 BNT126b2は、現在、健康な成人および高齢者グループを対象とした第III相試験中です(NCT04368728)。


NHP (nonhuman prime study) のまとめ

2020-11-3に追加

参考メモ:ワクチンで懸念される副反応

新型コロナウイルスワクチンでもっとも懸念される副反応は、ワクチンによって逆に感染が悪化してしまう病態、すなわち、抗体依存性感染増強現象 (Antibody-dependent enhancement: ADE)ワクチン関連増強呼吸器疾患 (Vaccine-associated enhanced respiratory disease: VAERD)です。

ADEは、ワクチンによって産生された抗体が、ウイルス感染を防ぐのではなく、逆にFc受容体を介してウイルスが人間の細胞に侵入するのを助長し、ウイルス感染を悪化させてしまう現象です。これは、ウイルスに対する中和作用の低い抗体が多く産生される場合に生ずる現象です。

VAERDも、また同じくワクチンによって中和作用の低い抗体が多く産生される場合に生ずる現象です。この中和作用の低い抗体は、ウイルスと免疫複合体を形成し、補体活性化を惹起して、気道の炎症を引き起こします。

ADEやVAERDといった副反応を防ぐには、高い中和作用を持つ抗体を産生させ、かつTh1細胞優位の免疫反応を惹起するワクチンの開発でなくてはなりません。

1日も早いワクチン供給が待たれますが、安全供給のための臨床試験、ワクチンの供給体制の整備、認可後の予防接種有害事象のモニタリング体制の整備が重要なようです。

COVID-19 2020/2022

2020 December

2020 November

東京、NY、CA のCOVID-19感染者数推移の比較

2020.05.29 Friday

日本においては、COVID-19感染の爆発的広がりもなく、押さえ込みに成功したようです。

2月末から続けてきた「COVID-19を追って」も今回を最後とします。再拡大のないことを念じて、筆を置きます。

2月末から5月29日までの記事は http://covid19.hajime.boy.jp  で閲覧できます


2020.05.29 Friday

東京、NY、CA のCOVID-19感染者数推移の比較のまとめ

東京都では他の2州に比べて、感染者数、死亡者数ともに100分の1という極めて低い水準です。その背景には、1)NYに比べてCAおよび東京はまだ1日感染者数が100人未満の時に緊急事態宣言が出された。2)CAおよび東京では当初の感染者数の増加速度には大差がなかった。CAではその後の増加を抑えられなかった理由としては、日本人の規律を従順に遵守する国民性が、CAのような増加が持続する事態に至らなかったと考えられます。

  • 東京都、兵庫県、および米2州、ニューヨーク州(NY)とカリフォルニア州(CA)のCOVID-19感染者数の推移を比較した。日々の感染者数は変動が大きいので、前7日間の移動平均でプロットした(図1)。
  • いずれの都市においても3月6日の時点では、感染者数は人口1千万人あたり10人以下であった。
  • NYでは100人前後に達した3月16日頃より急峻な増加を示し、Doubling timeは2日未満であった。1日100人から1,000人に増加するのに7日未満であった。
  • CAで倍増に要した最速日数は3日、東京都で4日と、NYに比べてなだらかな増加を示した。
  • NY州の3月22日(ロックダウン開始日)の感染確認は1万5168件、死者114人であったが、5月6日(ロックダウンから46日後)の感染確認 32万6,659件、死者2万5,028人と増加、その後も増加が続いている。



日本における緊急事態宣言

2月27日 全国の小中高校に休校要請が出された。不要不急の外出自粛が求められた。

3月11日 WHOがパンデミックを表明した。

3月19日 政府専門家会議は オーバーシュートの恐れありと警鐘を鳴らした。関西では、大阪府と兵庫県の間の不要不急の往来自粛の呼びかけがなされた。

3月24日 東京五輪・パラリンピック、2021年夏までの開催延期決定。

3月25日 小池都知事が「感染爆発の重大局面」と緊急会見。

4月7日 緊急事態宣言が出され、外出自粛が要請された。5月21日に解除された。


NY州, CA州におけるLockdown宣言

NY州では3月22日にロックダウンが開始日された。感染者数は1万5168人、死者114人で、1日の新規感染者数は500人を超えており、医療崩壊が起こっていた。

5月6日(ロックダウンから46日後)の感染確認 32万6,659人、死者2万5,028人と増加、その後も増加が続いている。

CA州では3月19日にロックダウン開始。NY州に比べて、当初の増加速度は比較的穏やかであったが、ロックダウン開始1ヶ月後には一時減少傾向にあったが、その後再び増加に転じ、今でも増加している。