太平洋戦争末期の神戸市街の惨状 従兄の記述より

中村和成著 わが母校誕生のころ;本学の神話時代

本文は、私の従兄で、神戸医科大学の第1回卒業生の中村和成が、医学部の同窓会、「神緑会学術誌」に書き遺した「わが母校誕生のころ : 本学の神話時代 (2)」の引用です。

ここには、昭和20年の2月から3月にかけての神戸大空襲の様子が細やかに、1926年生まれの彼にしか書けない神戸市街の惨状が生々しく記述されています。

神戸医大は、神戸駅の北側、湊川神社の更に北の高台に建っています。隣の大倉山には高射砲台がありました。ほとんど敵機に命中することがなかったそうです。私が高校生になった時にも、その台座は残っており、その周囲は永らく家を失った被災者の住み家となっていました。

和茂兄さんとは、父・母が、兄弟・姉妹というダブル従兄弟で、小学生の頃からよく可愛がってくれていました。中学生ごろから夏休みには、することがないので、彼のいる解剖学の研究室によくついて行きました。帰り道、三宮の生田筋にあるロシア料理店「バラライカ」で、食べさせてくれたピロシキとボルシチスープの味は今でもよく覚えています。

私が同じ神戸医大に進み、フランス留学したのも彼のお陰です。私は、13歳から63歳まで、じつに50年間お世話になった学舎です。

2022.6.15.

 

武器ではなく、心と脳を使った生き方を

今のウクライナを見ていると、何か100年前にタイムスリップした感じです。鬼畜米英と騒わぎ、大東亞戦争に突入した昔の日本が思い出されます。

人種の多様性が問題視される時代となり、これまでの白人優位の時代もそろそろ終わり、一方通行でない折り合いのつけ方が問われる新しい時代入ったようなきがします。これも、自然の流れでしょう。その中で、G7とか、クアッドとか、既得権益をもつ欧米諸国に、最近の日本はうまく利用されている気がしないでもありません。

赤穂岬の公園で出会った青年

先般、赤穂岬の灯台近くにある「かんぽの宿赤穂」に、夫婦で久方ぶりに出かけました。午後のひととき、散歩に出ると、灯台の周りにある広場で、テントを張っている一人の二十歳すぎと思える好青年と出会いました。今夜はここで仲間と一緒に花見をするのだと、目を輝かせて応えてくれました。

宿に戻り、部屋の窓を覗くと、先ほどのテントが見え、テントを支えるロープには、「日の丸の旗」と「旭日旗」が掲げられていました。旭日旗は、普段街中で目にするのは、右翼団体の街宣車くらいです。何となく違和感を覚え、夜になると大騒ぎをするのではと案じていました。

私の予想に反し、音楽が聞こえてくることもなく、数人の男性青年たちが、静かにテントの周りで食事をし、一晩静かに過ごし、翌朝いつの間にか立ち去っていました。

あの澄み切った青年の瞳をみていると、鹿児島の知覧特攻平和会館に展示されていた若い特攻隊員たちの知的で、澄み切った瞳の写真を思い出しました。恐らく、人並み以上に愛国心に溢れた若者です。

日本が、ウクライナや80年前の日本に後戻りしないことを願うばかりです。愛国心に満ちた若者を戦場に送ることがないように。

2022.6.14.

老いを楽しく生きるには 1.身体を動かすこと

海洋冒険家の堀江謙一さん、83歳が、米サンフランシスコを出航、69日間の単独無寄港太平洋横断を終え、新西宮ヨットハーバーに6月4日に無事帰港されました。彼の勇気と決断に拍手喝采です。

体力的な衰えのある中で達成されたこの偉業は、培われたスキルと強い精神力が原動力のように、一つ歳下の私には思えます。同世代のものの中には、自分もやってみたいと思っている連中がいるに違いありませんが、いくら精神力があっても、スキルがないと難しいでしょう。

私は、いま月に数回ゴルフに行くのを楽しみにしています。70歳を過ぎ、平日でもプレーできる時間的余裕が得られた時からゴルフを始めました。当時は、まだ十分な体力に恵まれていたので、何とかアベレージ・ゴルファーとして楽しめました。

ところが、昨年までの2年間は新型コロナ禍と入院生活が重なり、体重は10kg以上減り、筋力が低下しました。幸いゴルフにはさほどの体力を求められませんので、年齢に関係なく楽んでいます。

先日、神戸高校時代の同級生のゴルフの集まり、「さんさん会」に参加しました。私の組の3人は、いずれも彼岸の手前まで最近往ってきた仲間です。歳がいくと、歯目マラをはじめ、身体の随所に異変がおこります。でも、ゴルフで身体を動かしていると、全てを忘れてしまいます。同世代の連中と程々にプレーし、歓談する時間が至福のときです。

私の先輩は、正月明けの寒風の中でゴルフに行き、明朝ベッドで亡くなっていたそうです。私は、ピンピンコロリというほどに元気溌剌ではありませんが、これからも精一杯身体を使って生きたく思っています。
2022.6.10.

2021年の出生数が81万人と過去最低に

2021年の出生数が81万人に減少というニュースがありました。今更驚くことはありませんが、100万人を下回ったのが2016年であり、その速さは想定以上のものです。合計特殊出生率も1.30と6年連続で低下し続けているそうです。晩婚化が進み、初産年齢は30.9歳と過去最高、50歳時の未婚割合は、男性が約28%で、女性が約18%となっています。

政治家のコメントはいつも、日本経済を支えるための少子化対策です。今回も、同じです。何か視点がずれていますよね。若者が安心して子供を産める社会、経済的に安心して生活できる養育費を国家が保障することにつきるのに。

政府は、「こども家庭庁」を令和5年度のできるかぎり早い時期に創設する意向だそうですが、その中身はこれから考えるそうです。

政府は「女性の経済的自立を新しい資本主義の中核と位置づけ、女性の所得向上につながる施策を強力に進める」との報道がありました。また、女性活躍推進策(女性版骨太の方針)として、離婚の増加や女性の長寿を念頭に「結婚すれば生涯、経済的安定が約束されるという『永久就職』は過去のもの」とし、昭和からの脱却を目指すそうです。

これからキャリアーを目指そうとする若い女性には、響きの良い言葉かもしれませんが、落とし穴もあります。ちょうどバブル崩壊後に、若者の新しい働き方として、フリーターがもてはやされた時代を思い出します。爾来、多くの職場で非正規労働者が多くを占めるようになったのです。

GDPが低迷する中で、女性の給料が上がっても、男性の給料が下がれば、若い世帯の収入は不変です。両親ともに家庭にいなくなる時間が増えるだけです。もう親が子育てする時代が終わりを告げようとしているのかもしれません。

今や就労の有無にかかわらず、母親一人での子育ては無理です。

これからの子どもたちを守るためには、保育師を高給、かつ定数の倍増です。学校の教師も。保育師や教師が目一杯働くと、しわ寄せは必ず子どもたちにきます。保育師や教師が、聖職者として、日本の将来を左右するカギを握っているようです。

夢として、幼少期には自然豊かな環境で過ごしたいものです。林立するマンションの鉄の扉で遮られた部屋での育児なんて、親も・子も狂いますよね。

2022.6.5.

わが回想記 電子書籍で発刊

これまで、ブログにあげていた『わが回想記 激動の昭和を駆け抜けて』を、Kindle 電子書籍として2022年5月に出版しました。自分自身で編集した本であるために、読みづらい点も多いかと思いますが、お目通しいただければ幸いです。

アマゾンから、『中村 肇』と『激動の昭和』で、検索していただくと容易に見つかります。単価200円と申し訳ありません。

戦中戦後の日本を体験したも限られてきました。日々報道されているウクライナと同じ光景が、日本でもあったのです。戦争は人間の脳を狂わせるようです。戦争に人道はありません。一日も早く終えてほしいものです。戦争で苦しむのはいつも国民

2022.6.3.

 

子どもの自殺が増えつづけている

令和2年における小中高校生の自殺者数は499人で、前年と比較して100人も増加しています。この数年、子どもの自殺者数は過去最悪の数字を更新しつづけています。小中高校生のいずれも増え、特に女子高校生は138人と倍増、コロナ下の長期休校が明けた6月や8月が突出して多かったそうです。(「コロナ禍における児童生徒の自殺等に関する現状について」の文部科学省資料、令和3年5月7日)

国全体の自殺死亡数は年々減少している。

過去10年間の自殺死亡数の推移をみると、総数ではこの間に2万8千人から約2万1千人と7千人近く減少していますが、唯一10歳代のみが増加トレンドにあります。
コロナが流行した令和2年に自殺死亡数が増加したのは10歳代及び20歳代の若者たちで、これまで自殺死亡率が最も高い50歳代や60歳代以上ではコロナ流行下でも下降し続けています。(警察庁:令和3年中における自殺の状況、令和4年3月15日)

コロナ禍での子どもの自殺の増加

コロナ禍での子どもの自殺の増加に関しては、家庭不和や親からの叱責がステイホームやテレワークで悪化したこと、友達と会うなどのストレス対処法が制限されこと、その両方が相まって増加したと考えられます。
友達との接触が極端に減るといった、子どもたちが置かれている状況は、大人が想像している以上にストレスだと改めて認識させられます。

コロナが終息しても増え続けないような対策を

今回のコロナ流行が子どもの自殺をクーズアップさせていますが、元々子どもの自殺だけが増加し続けていた背景にメスを入れ、コロナが終息しても増え続けないような対策をとらねばなりません。

 

さあ、新しい友達を作ろう

ユニセフ(国連児童基金)の最新報告書、レポートカード16では、日本の子どもの幸福度の総合順位は先進国38か国中20位となっています。

5歳~14歳の子どもの死亡率、および過体重・肥満である子どもの割合はいずれも平均より低く、「身体的健康」は第1位ですが、生活満足度の高い子どもの割合はトルコについで2番目に低く、自殺率も平均より高く、「精神的幸福度」は38か国中37位という結果です。

また、学力及び「すぐに友達ができる」といった社会的スキルのランキングは27位、とくに、「新しい友達を作る」という社会的スキルに自信を持っていないという子供の割合は、日本はチリについで2番目に高い国です。

新型コロナ流行も終息のきざしがあります。マスクを外した子どもたちの大声が、校庭や公園から響き渡ってくる日を心待ちしています。

2022/5/9

 

アリ社会と人間社会

新生児医療の盟友、仁志田博司先生からメールで、神戸大学大学院理学研究科の尾崎まみこ名誉教授を紹介されました。今も研究熱心な仁志田先生は、アリの行動とフェロモン・匂いの研究の第一人者である尾崎まみこ先生が、あかちゃんの頭の匂いの科学的解明から、親子の絆形成との関係の研究をされているという情報を提供して下さいました。

桜も満開近くになっていた3月末に、大倉山にある大学付属病院で、発達障害や児童虐待の専門家である永瀬教授にも同席してもらい、尾崎まみこ先生から直接お話を伺う機会を得ました。

クロオオアリの社会では、

クロオオアリは、日本では非常によく見ることができる大型のアリで、日本最大のアリの一種です。クロオオアリの社会では、10〜12mmの大型働きアリ(リーダー)と7〜9mmの小型働きアリ(フォロアー)、それと1つのコロニーにたった1匹だけいるのが、17〜18mmの大きさをした女王アリです。

女王アリは卵を産むだけ

女王アリは、コロニーから外に出ることはなく、毎日卵を産み落とし、仲間の働きアリを増やすのが任務で、仲間の長として政務を司ることはないそうです。

リーダーアリとフォロアーのアリ

働きアリは、女王の世話、卵と幼虫の世話、餌の運搬などの仕事を分担し、リスクの大きい外で餌を探す仕事は大抵老齢のアリだそうです。多くの働きアリは巣の中にとどまり、その中に食料を蓄えるなどの役目を果たしています。
大型のリーダー働きアリは、獲物を見つけると、尾端からフェロモンを出します。その後をフォロアー・アリたちが付いていくそうです。

同じコロニーのアリたちは、固有のフェロモンの匂いを

同じコロニーのアリたちは、固有のフェロモンの匂いをもつことから、他のコロニーの働きアリと識別してコロニーを守っているそうです。(参考:尾崎まみこ著、「アリ!なんであんたはそうなのか」化学同人、2017)

赤ちゃんのフェロモンの研究から平和な人間社会を

いま、ウクライナでは人間同士の激しい戦争が繰り広げられています。日本人も明治までは、日本人同士で絶えず戦を繰り返していました。人間社会でも、リーダーの出す好戦的なフェロモンに惹かれて数多くのフォロアーが戦場へと駆り出されていくのでしょう。

テレビの映像を見ていると、映し出される戦士たちの多くは中・高齢者で、何かアリ社会と似ているような気がします。リスクのある仕事は経験豊かな高齢者向きのようです。それとも、高齢者ほど愛国意識が高まっているのでしょうか。

赤ちゃんのフェロモン、匂いの研究を通じて、平和な人間社会の形成に役立てたいものです。
2022/4/21

「おいで、アラスカ」 

アンナ・ウオルツ作、野坂悦子訳、フレーベル館 2017年作

【2021年青少年読書感想文全国コンクール課題図書 小学校高学年の部】


12歳の少女パーケルと13歳の少年スフェンが主人公の物語で、ふたりをつなぐものとして一頭のてんかん発作に対応できる介助犬ゴールデンレトリバー、アラスカが登場します。

てんかんという病をもつ少年スフェンは、「いつなのが起こるかわからない」という不安な毎日を送っています。また、少女パーケルには、注意欠陥多動障害(ADHD)の3兄弟がいます。

この話は、これらの疾患をもつ子どもたちが社会生活を送る上での困難さを赤裸々に描写されており、小児科医であった私にも改めて気づかされる点が数多くあります。と同時に、今日の新型コロナ禍、戦争と不安定な社会を生きる少年・少女たちが、未来に向けて力強く歩み出すきっかけになればと願います。

今春、小学6年生になる孫娘が、この本を読んでどんな反応を示すか興味深いものがあります。

2022/3/29

戦争で苦しむのはいつも国民

毎日、テレビに映し出されてくるウクライナの惨状には目を覆いたくなります。

昨日は、昭和20年3月17日の神戸大空襲から77年ということで、犠牲になった人たちを追悼する慰霊祭が神戸市で行われました。昭和20年2月~8月にかけてのアメリカ軍の空襲により、神戸では8千人以上が亡くなり、中でも、3月17日の大空襲では神戸の市街地全域が一夜にして廃墟と化し、ウクライナの比ではありませんでした。当時5歳であった私の脳には、真っ赤に染まった神戸の夜空が今でも焼きついています。

欲しがりません勝つまでは

 戦時中の有名な標語に、「欲しがりません、勝つまでは」というのがありました。これは、1942年(昭和17年)に大政翼賛会と新聞社が「国民決意の標語」を募集した「大東亜戦争一周年記念」の企画で、国民学校5年の少女の作だそうです。

男性たちは戦場に駆り出され、残された女性たちは「もんぺ」を穿き、竹槍を手にし、バケツリレーと銃後を守るべく、一致団結していました。今のウクライナでは手製の火炎瓶を作成し、通りには土のうを積むという話を聞かされると、80年前の日本人と何ら変わらない感じです。

政治家や軍幹部のメンツの陰で、犠牲となり、悲惨な日々を送るのは市民たちです。

地勢学的にみたウクライナ

これまで、ウクライナという国名を知っているだけで、実はよく知りませんでした。東欧諸国の中でも、最も東に位置し、地勢的にウクライナは日本と全く違うことを今回知りました。

東にロシア、西にポーランド、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、モルドバ、北にベラルーシと隣接していて、南には黒海を挟んでトルコが位置しています。ウクライナ人には、多人種の血が混じっており、ウクライナ女性には美人が多いそうです。
国土面積は約60万平方キロメートルと日本の2倍。人口は約4,400万人と日本の3分の1です。国土の大半が肥沃な平原・高原地帯に覆われており、小麦、トウモロコシなどは世界有数の輸出国です。
身軽な動きと複雑な跳躍を含み、早いテンポで演技されるコサックダンスは、ロシア舞踊とばかり思っていましたが、ウクライナ・コサックの踊りに由来するウクライナの伝統舞踊の一つだそうです。

今回の戦争がなぜウクライナで起こったのか、その必然性が納得いきました。ここは、世界の潮流、東西対立の渦が最もできやすい地域のようです。アメリカと政治的に対立する国ロシアにとっては、国境を接する国、同じ東スラブ系民族の兄弟国であるウクライナが、アメリカ軍の支援を求めて軍備を拡大するのは自国にとって大いなる脅威と感じ、その芽を早く積みたいというのが狙いだったのでしょう。

何があっても戦争に巻き込まない、巻き込まれない

四方を海で囲まれた島国日本は、他国と直接国境を接しておらず、ヨーロッパの国々と比べると、地上の楽園のような気がします。でも、変に欲を出すと、大東亜戦争のようなことになるのです。

戦争で得をするのは、死の商人と呼ばれる武器商人、軍需資本家だけです。戦争に勝っても負けても、犠牲となるのはいつも市民です。一度、戦が始まると、あとは憎しみの連鎖です。為政者は何があっても戦争に巻き込まない、巻き込まれないように振舞って頂きたいと念じます。

経済的制裁も戦争と同じです。経済的弱者への虐待です。困窮するのは市民です。制裁という言葉を聞くだけで、子どもへの虐待と同じで、小児科医として心が痛みます。

世界中には、いろんな主義・主張の人たちが住んでいます。周りの国々とうまく接するには、互いにレスペクトし、ほどほどが一番のような気がします。

2022/3/18

「草枕」の冒頭の一節

文豪夏目漱石の1906年の作品「草枕」の冒頭の一節が、突然思い出されました。

智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る。

人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。矢張り向う三軒両隣りにちらちらする唯の人である。唯の人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はない。あれば人でなしの国へ行くばかりだ。人でなしの国は人の世よりも猶住みにくかろう。

越す事のならぬ世が住みにくければ、住みにくい所をどれほどか、寛容て、束の間の命を、束の間でも住みよくせねばならぬ。
ここに詩人という天職が出来て、ここに画家という使命が降る。あらゆる芸術の士は人の世を長閑にし、人の心を豊かにするだけに尊い。 ・・・・・・

「草枕」は、100年以上も前の日露戦争直後の作品です。 2022/3/7掲載