4月7日の「緊急事態宣言」の発令に及んで

危機的な東京都のグラフ」から、東京はしばらくの間、増加パターンをとりますが、恐らく600人から1,000人程度をピークに減少するのではないかと思います。

その根拠は、私の東京都の感染者数の7日間移動平均のグラフ(対数メモリ)です。3月14日~15日頃から直線的に緩やかに増加しています。

東京都は1日の感染者数が10人から100人になるまでの日数として14日かかっていますが、USAでは7日間です。100人から1,000人になるまでの日数もほぼ7日間です。中国のデータを見ても、7~8日間です。USA、中国ともに増加のピークは1~2ヶ月で訪れます。


大阪も東京と似たパターンを

大阪も東京と似たパターンを示しており、10倍に増加するのに14日かかると予測しています。

日本とUSA、中国のこのような差は、日本人が政府の指示、外出自粛をよく守っているからだと思います。特に、3月はじめの休校措置は国民の意識を高め、効果的だったと思います。今後の予測も日本人のこれまで通りの几帳面さを前提にしています。


さらにその先には大きな試練が

我が国が、積極的なパンデミック対策で、欧米諸国のような感染拡大・医療崩壊を免れたとしても、さらにその先には大きな試練が待っています。

多数の感染者と死亡者を出したイタリア、スペイン、アメリカでは、国民の抗体保有率が高く、今後大きな感染拡大はないと考えられますが、日本では今回の流行での抗体保有率はあまり上昇しておらず、今後も繰り返し流行の波に襲われると考えられます(専門家委員会の計画通りに)。

スエーデンのコロナウイルス研究者の予測では、コロナウイルスの中には11月頃から流行するタイプがあることが知られており、今回大流行に至らなかった日本のような国では、11月ごろに大流行が訪れる可能性が大です。早く、ワクチンの開発が待たれます。


2020.04.07 Tuesday

SARS-CoV-2子ども171人の臨床的特徴

SARS-CoV-2 Infection in Children By Xiaoxia Lu, et al. Wuhan Children’s Hospital, Wuhan, China, NEJMc2005073, March 18, 2020

中国武漢こども病院は、感染した16歳未満の子どもを治療するために中央政府から割り当てられた唯一のセンターです。ここで、治療を受けていた子どものうち、SARS-CoV-2感染者と濃厚接触のあった既知の症候性および無症候性の子ども171人の臨床的特徴が報告された。


主な特徴

  • 2020年1月28日から2月26日までに評価された1391人の子どものうち、171人(3%)がSARS-CoV-2感染であることが確認された。表参照
  • 感染した子どもの年齢の中央値は7歳でした。
  • 子どもたちの5%に発熱が見られ、他の一般的な兆候と症状には、咳と咽頭紅斑が含まれていた。
  • 27人の患者(8%)は、感染症の症状も肺炎の放射線学的特徴もなかった。12人の患者が肺炎の放射線学的特徴を有していたが、感染の症状はなかった。
  • 最も一般的な放射線所見は、両側のすりガラス状陰影(7%)であった。
  • 2020年3月8日現在、死者は1人で、3人の患者が集中治療のサポートと侵襲的な人工呼吸を必要とした。

進行中のパンデミックを制御するための対策を行う上で、これらの無症候性患者の多い子どもたちの感染動向を知ることが重要である。

日本の現状を見ると、無症候性患者を判定するには、もっと幅広いPCR検査実施が不可欠である。無症候性患者の見落としが、院内感染を招き、医療者に感染者の多い原因となっていることは自明である。


2020.4.4

11月には二つ目の大きなパンデミックの山が

SARS-CoV-2のパンデミックシナリオモデル予測

Potential impact of seasonal forcing on a SARS-CoV-2 pandemic by Neher Richard A.ab, et al., Published 16 March 2020, Swiss Med Wkly. 2020;150:w20224

4つの固有のコロナウイルス(229E、HKU1、NL63、OC43)の季節変動に関するこれまでのスエーデンにおける研究から、SARS-CoV-2の pandemicの発生パターンの解析データを発表している。

図3に示されたパンデミックのカーブは、感染者数の多いイタリア、スペイン、アメリカでは黄色線のパターンをとり、比較的感染者数の少ないドイツ、イギリス、日本では、11月にもっと大きなピークが来る紫色のパターンをとるのかもしれない。ただし、これらのパターンは社会的介入の程度によっても左右される。


図1. スウェーデンのストックホルムにおけるCoV陽性検査の割合の季節変動。4つの固有のコロナウイルス(229E、HKU1、NL63、OC43)の2010年から2019年までのデータを使用。12月、2月、3月にピークが見られる。


図3. パンデミックシナリオの温帯におけるSARS-CoV-2ケース番号のモデル予測。

SARS-CoV-2の伝達率のピークが11月、1月、または3月にあると仮定した場合の軌跡の例を示しています。北ヨーロッパ(「NE」)でのこれらの集団発生は、湖北省での集団発生(モデルの軌跡が破線で示されている)によって発生したと想定。平均基本再生産率(R0) = 2.2および季節的強制ε= 0.5に基づき算出。


 

休校中の子どもたちを健康に保つためのヒント from CDC

COVID-19から子どもを守る。CDCガイドライン 3月28日付

子どもは成人よりもCOVID-19の重症化リスクは高くないと言われてきましたが、子どもや若年者の重症例や死亡例が各国から報告されてきました。CDCは、 子どもをCOVID-19感染からまもる手順、及び、学校が休校のときの子どもの問題と対処法についてガイドラインを出しています。

1. 子どもを病気から守るための手順

  • 石鹸と水またはアルコールベースの手の消毒剤を使用して、頻繁に手をきれいにします。
  • 病気の人(咳やくしゃみ)を避けてください。
  • 家庭の共有エリア(例:テーブル、ハードバックの椅子、ドアノブ、ライトスイッチ、リモコン、ハンドル、机、トイレ、洗面台)のハイタッチ面を毎日清掃して、消毒します。
  • メーカーの指示に従って、必要に応じて洗えるぬいぐるみなどは洗濯。物品に適した最も暖かい水の温度設定をして、洗濯し、完全に乾燥させます。 病気の人の汚れた洗濯物と、他人の物と一緒に洗うことができます。

子どもは軽い症状を示すことがあります

COVID-19の症状は子どもも大人と似ています。 ただし、COVID-19が確認された子どもは、一般的に軽度の症状を示します。 子どもの報告されている症状には、発熱、鼻水、咳などの風邪のような症状が含まれます。 嘔吐や下痢も報告されています。 基礎疾患や特別なヘルスケアの必要性がある子どもといった一部の子どもが重症のリスクが高いかどうかはまだわかっていません。

子どもはフェイスマスクを着用する必要はありません。

お子様が健康であれば、フェイスマスクを着用する必要はありません。 マスクを着用するのは、病気の症状を持っている人、または病気の人をケアしている人だけです。

2. 学校が休校のとき ー 子どもとその友達

社会的相互作用を制限する:

COVID-19の拡散を遅らせる鍵は、接触をできるだけ制限することです。 学校が休んでいる間、子どもたちは他の世帯の子どもたちと遊び場を持つべきではありません。 子どもが自分の家の外で遊んでいる場合、自分の家にいない人なら、2メートル離れていることが重要です。

社会的距離をおく:

他の家族や友人と一緒の時には、他人との距離(社会的距離)をとるようにしてください。

頻繁に手をきれいにする:

せっけんと水で少なくとも20秒間頻繁に手を洗うなど、子どもが日常の予防行動を練習するようにします。 これは、公共の場所にいる場合は特に重要です。

春休みと旅行の計画を見直してください:

重要でない旅行が含まれている場合は、春休みと旅行の計画を修正します。

子どもが大きなグループで学校の外で会うと、誰もが危険にさらされる可能性があることを覚えておいてください。

子どものCOVID-19に関する情報は多少限られていますが、現在のデータでは、COVID-19の子どもには軽度の症状しかない可能性があります。 ただし、高齢者や深刻な基礎疾患を持つ人々など、リスクが高い他の人にこのウイルスを感染させることは可能性があります。

自宅で学習するためのスケジュールとルーチンを作成します。柔軟性を持たせて。

  • 月曜日から金曜日まで、就寝時刻を統一し、同じ時刻に起きます。
  • 学習の日、自由時間、健康的な食事とスナック、および身体活動を行うように。
  • スケジュールに柔軟性を持たせる。状況に応じて調整してもかまいません。

お子様の年齢グループに見合ったニーズと調整を考慮してください。

  • 在宅でのニーズは、未就学児、小学生、中学生、高校生で異なります。 在宅学習への期待と、在宅にどのように適応しているかについて、子どもと話し合いましょう。
  • 直接顔を合わせることなく、子どもが友達と連絡を取り合う方法を検討してください。

どうすれば楽しく学習できる?

  • パズル、絵画、描画、物作りなどの実践的な活動をする。
  • 独立した遊びは、構造化学習の代わりに用いることができます。 シートから砦を作るか、ブロックを積み重ねて数える練習をするように、子どもたちに勧めます。
  • 家族に手紙を書いて、手書きや文法を練習する。 これは、対面時間を減らして、連絡を取り合う優れた方法です。
  •  お子様と一緒に日記を作成します。当日の記録を作成し、共有した体験について話し合いましょう。
  • オーディオブックを使用するか、あなたの地域の図書館が仮想イベントやライブストリーミングの読書イベントをホストしているかどうかを確認してください。

学校給食サービス

休校中も食事サービスを継続する計画については、学校に確認してください。 多くの学校では、家族が食事を受け取ったり、中心的な場所で持ち帰り用の食事を提供したりできるように、学校施設を開いたままにしています。

3. 子どもを健康に保つ

病気の兆候がないか子どもを見守ってください。

  • COVID-19の症状と一致する病気の兆候、特に発熱、咳、または息切れが見られた場合は、医療提供者に連絡し、子どもをできるだけ家に置き、他の人から遠ざけてください。

子どものストレスの兆候に注意してください。

  • 注意が必要な一般的な変化として、過度の心配や悲しみ、不健康な食事や睡眠の習慣、注意や集中力の低下などがあります。
  • COVID-19の流行について、子どもや10代の若者と時間をかけて話し合いましょう。 子どもや10代の若者が理解できる方法で、COVID-19に関する質問に答え、事実を共有しましょう。
  • 詳細については、CDCの「子どもたちの緊急事態への対処」または「COVID-19について子どもたちと話す」を参照してください。

毎日の予防行動を教え、強化する。

  • 親や世話する人は、子どもに手を洗うように教える上で重要な役割を果たします。 手洗いは健康を維持し、ウイルスが他の人に広がるのを防ぐことができることを説明します。
  • 良い手本になる — 親が頻繁に手を洗うと、同じように洗う可能性が高くなります。
  • 家族で手洗いをする。

あなたの子どもが活動的でいるのを手伝ってください。

  • お子様に屋外で遊ぶように勧めましょう。身体的および精神的健康に最適です。 お子様と一緒に散歩したり、自転車に乗ったりしてください。
  • 室内での活動休憩(ストレッチ休憩、ダンス休憩など)を1日中行い、子どもが健康で集中力を維持できるようにします。

あなたの子どもが社会的につながりを保つのを助けます。

  • 電話やビデオチャットを介して友人や家族に連絡します。
  • 訪問できない家族にカードや手紙を書く。
  • 一部の学校や非営利団体の外部アイコン、Yale Center for Emotional Intelligenceの外部アイコンなどには、社会的および感情的な学習のためのリソースがあります。 学校に、子どもの社会的および感情的なニーズをサポートするのに役立つヒントとガイドラインがあるかどうかを確認しましょう。

4. 高齢者、親戚、深刻な基礎疾患を持つ人々との接触機会を制限する

高齢者や基礎疾患が深刻な人は、COVID-19で病気になるリスクが最も高いグループです。

  • 家庭内にCOVID-19による重症化リスクが特に高い人がいる場合には、子どもをそれらの人から引き離すための特別な予防策を検討してください。
  • 休校中に子どもと一緒に家にいることができない場合は、誰が育児を提供するのに最適な位置にいるかを慎重に検討してください。 COVID-19のリスクが高い人が世話をする場合(祖父母や慢性病の人などの高齢者)には、子どもとの接触機会を制限します。
  • 家族や祖父母に会うために、訪問や旅行を延期することを検討してください。 仮想的な対面、または手紙を書いてメールで送信します。

最適な緩和策は、ピークの医療需要を2 / 3に、死を半減させる 

英国のthe Imperial College COVID-19 Response Teamが、公衆衛生対策の疫学モデリングを紹介し、社会的隔離などの一時的な緩和策を長期的に繰り返し、ピーク時の医療需要を2 / 3に抑えることができると、死を半減させると述べています。

Impact of non-pharmaceutical interventions (NPIs) to reduce COVID- 19 mortality and healthcare demand by Neil M Ferguson, Imperial College COVID-19 Response Team 16 March 2020.  DOI: https://doi.org/10.25561/77482

論文の要旨

COVID-19ワクチンが存在しない現在、集団内の接触率を減らし、それによってウイルスの感染を減らすことを目的とした公衆衛生対策(いわゆる非医薬品介入(NPI))に依らざるを得ません。

疑わしい事例の自宅隔離、疑わしい事例と同じ世帯に住む人々の自宅検疫、および高齢者と重症疾患のリスクが最も高い人々の社会的隔離の組み合わせた緩和策は、ピーク時の医療需要を2 / 3に抑え、死を半減させると考えられます。

この抑制策は、ワクチンが利用可能になるまで(18か月以上?)継続する必要があります。症例数の動向によって、社会的隔離などの介入を一時的に緩和したり、症例数が増えると、介入を再開します。

図 英国での抑制戦略の適応トリガーON/OFF

1週間のICU症例が100になると「ON」トリガー、ICU症例が50になると「OFF」トリガーを。毎週のICU患者発生率はオレンジで表示、青線は介入ON/OFFです。

社会的隔離と学校/大学の閉鎖がONになるのは全体の約2/3の間、他の緩和策は期間全体を通して行われます。予想される総死亡数は、トリガー閾値が低いほど減少します。

まとめ:

「急激な感染数増大」による死亡率の急増対策として、ICUベッド、レスピレーター台数を含む救命医療施設、スタッフの供給などを要します。我が国では一体どの程度準備されているわかない点が国民を不安に陥れています。(行政サイドでは把握しているが、公表していないだけか、少なすぎて言い出せないか?)いずれにしろ、長期戦だから、日々の府県別のICUベッド、レスピレーターの所有台数、稼働数を示していただくと医療現場のモチベーションが上がる?

COVID-19肺炎の母親から生まれた新生児に特異的IgG、IgMが

RESEARCH LETTER: Antibodies in Infants Born to Mothers With COVID-19 Pneumonia. JAMA Published online March 26, 2020

中村コメント:中国では、SARS-CoV-2に対するIgGおよびIgM抗体のテストが2020年2月に利用可能になりました。武漢大学中南病院に入院し、COVID-19が確認された6人の妊娠中の女性の新生児について、感染のより詳細を明らかにするために、IgG、IgMとIL-6の調査を行いました。これまでは、Chen Hらの9人の妊娠中の女性とその乳児に関する以前の研究では、RT-PCRに基づくSARS-CoV-2の母子間感染は見られなかったという報告があるだけです。

新生児の咽頭スワブと血液サンプルはすべて、RT-PCR検査結果が陰性でした。 IgG濃度は6人中5人の乳児で上昇していました。1人の乳児のIgGレベルは125.5、IgMレベルは39.6 AU / mLでした。 2人目の幼児は、IgGレベルが113.91 AU / mL、IgMレベルが16.25 AU / mLでした。彼らの母親もIgGとIgMのレベルが高かった。6人ともに臨床的異常症状はなかった。

SARSのある母親を対象としたこれまでの研究では、妊娠後期にSARS-CoV感染から回復した女性の胎盤に異常な重量と病理が認められたという報告はありますが、今回の研究における女性の胎盤に損傷、異常があったかどうかは不明です。乳児2名で検出されたIgMは、その分子構造が大きいため、通常は母親から胎児に移行しません。ウイルスが胎盤を通過した場合、IgMは乳児によって産生された可能性があります。


同じJAMAにもう一つの母子酢直感染の論文が出ています。

Possible Vertical Transmission of SARS-CoV-2 From an Infected Mother to Her Newborn. By Dong L. 武漢大学人民病院産科婦人科、中国、JAMA online March 26, 2020

この論文も、COVID-19と診断されてから出産まで23日間暴露された可能性がある母親から生まれた新生児に関する症例報告で、出生後2時間でIgG, IgM抗体レベルが上昇し、異常なサイトカイン検査結果が出ています。 生後複数回調べた鼻咽頭スワブでのPCR検査は絶えず陰性でした。生後早期のIgM抗体レベルの上昇は、新生児が子宮内で感染したことを示唆しています。


March 26, 2020

なぜ、医療者にCOVID-19感染が多い?

兵庫県だけでなく、和歌山県や大分県のようにOutbreak には医療機関が発端になっていることが少なくありません。しかも、医師や看護師が数多く感染しています。この現象は、中国武漢でも、韓国でも見られました。2002年のSARSが流行した発端者も医師であったと言われています。

医療者はみんな感染症対策の専門的なトレーニングを受けているのに、なぜ罹るのか一般人には理解できないようです。医療者にCOVID-19感染が多い理由を考えてみました。

  • 医療者のガードが甘くなっている?

中国、シンガポールではSARSの流行を、韓国ではMERSの流行を21世紀に入ってから経験しており、対処も迅速に行われていますが、新型ウイルスの流行に遭遇するのは日本国内では初めての経験です。この差が、政府、専門家、国民だけでなく、医療者自身の危機意識に油断があったのも事実でしょう。私が小児科医になった昭和30年代には、ポリオ、結核、赤痢、腸チフスの流行がまだありました。

  • 無症状、軽症者と無防備な接触が?

COVID-19感染者では無症状、軽症であることが多いので、全く病識を持たない患者が受診する可能性が高く、また医師が初期に疑いを持っても迅速に検査を行えない状況にあったので、診断が遅れ、十分な防備もなく対応していたツケが、医療者に回ってきたように思える。

  • 病院の防疫体制に問題が?

今回は重症になるまで診ないという一貫した国の方針が、医療混乱をこれまで回避できたが、一方で軽症者が、複数医療機関を受診するという事態も招いており、検査もしないので感染状況の把握もできていません。

地域の基幹病院ですら、マスク、手袋、ガウンの十分な配布がないそうで、感染防御に対するモチベーションの低下を招いているように思えます。3月19日の専門家会議では、いつオーバーシュート(爆発的な感染拡大)が起こっても不思議ではない。というコメントがいきなり出されたが、恐らく医療現場では対応策に苦慮しているのではと案じています。行政では収容ベッド確保に躍起ですが、中国、イタリアでも一番の問題は医療者の確保です。不安です。

オーバーシュートが起こらないことを、後輩の医師たちが安心して医療ができることを念ずるのみ。備えあれば、憂いなし。


    2020/3/23

中国のNCPとSARSのRo(基本再生産数)と比べて今の日本は

Liuらの論文に比べて、今の日本は?

今後の流行を占う上で、Rt値、doubling time が一つの指標になると考えられており、武漢では、12月29日に第一例が出て以来1月12日まではOutbreakは見られていませんが、その後急激に増加しており、Ptが6以上、Doubling timeは2.8日です。

日本の現状を見ると、3月21日現在、患者数が1,060人、死亡37人、直近3日間の患者数は131人です。武漢ほど急峻ではありませんが、トレンドとして決して減少しておらず、予断許さない事態であることが理解できます。


NCPとSARS時症例のDoubling times, Ro(基本再生産数)

Time-varying transmission dynamics of Novel Coronavirus Pneumonia in China.  By Tao Liuら:Guangdong Provincial Institute of Public Health, Guangdong Provincial Center for Disease Control and Prevention, Guangzhou, China


中国全土でのNCPの時変的な感染動態を推定し、SARSと比較することを目的とした研究成果です。2020年2月7日現在、中国では34,598のNCP(Novel Coronavirus Pneumonia)症例が確認され、2月4日以降、毎日確認される症例は減少した。これらの症例を対象にした研究です。その結果、

  • NCPの倍増時間は全国(2.4日)、武漢(2.8日)、で、SARS時の広東省(14.3日)、香港(5.7日)、北京(12.4日)のよりも短かった。
  • 全国および武漢のNCP症例のRo(基本再生産数)はそれぞれ4.5および4.4であり、SARS時の広東省(Ro = 2.3)、香港(Ro = 2.3)、および北京(Ro = 2.6)のRoよりも高かった。因みに、インフルエンザのRo は2-3とされている。

結論:NCPはSARSよりも高い感染率を持ち、アウトブレイクを封じ込める努力が効果的であった。ただし、経時的に変化する基本再生産数を1.0未満に抑えるには、以後も努力を続ける必要がある。

図2. 全国、武漢、広東省で確認されたNCP症例の時間的分布

パネルA:全国のNCP症例。 パネルB:武漢におけるNCP症例。 パネルC:広東省で確認されたすべてのNCP症例。 パネルD:広東省における二次NCP症例。赤棒グラフ:日別発生数、青棒グラフ:日別予測数、赤折れ線グラフ:累積患者数。

全国、武漢で2月4日以後は患者数が減少し始めている。

図3. NCPの時変再生産数(Time-varying reproduction number, Rt)

全国 武漢

時間軸は上の図と一緒。

表1. 全国、武漢、広東省で確認されたNCP症例の特性


小児におけるSARS- CoV-2感染が流行の初期に起こっていた

Detection of Covid-19 in Children in Early January 2020 in Wuhan, China. The New England Journal of Medicine on March 16, 2020. By Weiyong Liu, Ph.D. Tongji Hospital of Huazhong University of Science and Technology , Wuhan, China


論文要旨と私のコメント

この論文は、中国武漢の病院に、Covid-19 アウトブレイクの初期段階の2020年1月7日から2020年1月15日までに、入院していた366人の小児入院患者を対象にした後方視的研究です。

その間に、最も頻繁に検出された病原体は、インフルエンザAウイルス(23人の患者[6.3%])およびインフルエンザBウイルス(20 [5.5%])で、Covid-19を引き起こすウイルスであるSARS-CoV-2は、6人の患者(1.6%)で検出されました。

その感染ルートを調べていると、患者またはその家族の誰も、Huanan Seafood Wholesale Market(Covid-19の症例が最初に関連付けられた場所)または互いに直接的な接触がありませんでした。 1人の患者は武漢の外に住んでおり、予期せず発見されたそうです。彼らの調査結果は、小児におけるSARS- CoV-2感染が流行の初期に起こっていたことを示していますが、その意義については触れられていません。

Zunyou Wu らがまとめた中国CDCのレポート[1]では、10歳未満児、10-19歳児ともに1%とコロナウイルス病2019(Covid-19)の小児発症例は極めて限られています。私が推測するに、小児発症例が少ないのは、小児では感染していても無症状だったり、極めて軽症で経過し、検査対象になっていなかったことが一番考えられます。SARSにおいても、小児発症例は限られていました。

[1] Zunyou Wu . Summary of a Report of 72 314 Cases From the Chinese Center for Disease Control and Prevention, JAMA Published online February 24, 2020


2020.3.17

コレラの世界的流行は続いている

現在までにコレラの世界的流行は7回にわたって記録されています。1817年に始まった第1次世界流行以来、1899年からの第6次世界大流行までは、すべてインドのベンガル地方から世界中に広がり、原因菌はO1血清型の古典コレラ菌であったと考えられます。

しかし、1961年にインドネシアのセレベス島(現スラワシ島)に端を発した第7次世界大流行は、O1血清型のエルトールコレラ菌です。この流行が現在も世界中に広がっていて、終息する気配がありません。WHOに報告されている世界の患者総数は、ここ数年20~30万人に上っています。


コレラとは

最も重要な感染源は、患者の糞便や吐瀉物に汚染された水や食物です。消化管内に入ったコレラ菌は、胃の中で多くが胃液のため死滅しますが、少数は小腸に到達し、ここで爆発的に増殖してコレラ毒素を産生します。

コレラ菌自体は小腸の上皮部分に定着するだけで、細胞内には全く侵入しません。しかしコレラ毒素は上皮細胞を冒し、その作用で細胞内の水と電解質が大量に流出し、いわゆる「米のとぎ汁様」の猛烈な下痢と嘔吐を起こします。

私が小児科医になった頃は、コレラは法定伝染病のひとつであり、重症下痢患者の鑑別診断には、赤痢、腸チフスと並べて、必ず挙げていました。今の日本では、下水道が完備され、コレラの国内発生はなくなっていますが、時々は海外から持ち込まれることもあるようです。現在、日本で承認されているコレラワクチンはありませんが、DUKORALという経口(飲むタイプのワクチン)の不活化ワクチンが輸入され、トラベルクリニックで取り扱っている場合が多いようです。アフリカや東南アジアの汚染国に出かける時には、ワクチン摂取をお勧めします。


後藤新平とコレラとの戦い 「もう一つの戦争」

さて、我が国においても、1858年と1862年に、外国船から持ち込まれたコレラが大流行しました。西南戦争時にもコレラが大流行しており、政府軍の兵士たちが船で神戸港に戻ってきたことから、国内に広がるのを阻止すべく、神戸港には検疫所ができました。しかし、その関所を破った保菌者が、東海道を上り、京都で次々と発病したと言います。この年にコレラによる死者は全国で8,000人、2年後には年間死亡者が10万5千人に及んだそうです。

当時の日本では、平時でも数万人の患者が発生しており、その大半が死亡していたようです。とりわけ、戦場での衛生環境は劣悪で、多くの兵士がコレラで死亡していました。1895年に日清戦争で大勝利を収めた日本軍が中国大陸から凱旋する船にも、多くのコレラ患者が乗船しており、「もう一つの戦争」と呼ばれる伝染病との戦いが、広島の似島の検疫所で繰り広げられていました。凱旋してきた兵士23万人の検疫、隔離、非感染者の衣類等の消毒が、たったの3ヶ月で行われたと欧米諸国からも高く評価されました。それをなし遂げえたのは豪腕後藤新平の力によるものでした。後藤新平は医師であるとともに、その後内務官僚を経て内相、外相、東京市長を務めた。特に関東大震災後の帝都復興でその辣腕を振るったことでよく知られています。

(山岡淳一郎:後藤新平、日本の羅針盤となった男、草思社文庫、2014)


検疫事業とCost Performance

今、日本では新型コロナの大流行で、学校、イベントが中止され、経済活動も低下しています。ダイアモンド・プリンセス号での船内感染への取り組みを見ていると、決して想定外の出来事ではなく、起こるべくして起こった大流行の波及です。不適切な対策が700人に及ぶ感染者(乗船者の6人に1人)と10名近い死者を出したのです。もっと死者数が増えていてもおかしくない状況だったと思います。

今日のような経済活動重視の社会では、絶えずコスト・パーフォンマンスが求められ、それが医療にまで及んでいます。今回のように非日常的な事件が起こると、もはや立ち向かえなくなってしまいます。

今回のような膨大な経済的損失を考えると、平時から検疫システムとマンパワーの質と量の充実への投資をもっとすべきであったことがよくわかります。周辺国と隣接していない島国日本は、各港での検疫体制さえ完備しておれば、容易に水際作戦が成功するはずです。


2020.3.16