「子どもの権利」の保障を明記した「こども基本法」が新しく施行され、こども家庭庁が2023年4月に発足します。異次元の予算がつくそうですが、未だに、全貌が見えません。
医療的ケア児支援法が2021年3月に成立、昨年9月18日に施行されました。子ども・家族に具体的に反映されているのでしょうか? 法ができても、実践を伴わねば子どもたちへの真のアドボカシー(Advocacy, 擁護)とは言えません。
子どもの健康に与える社会的影響
我が国では、子ども政策といえば、まるで少子化対策のような取り上げられ方ですが、本来子どもの健康に影響を与える社会的影響に対して、より大きな注意が向けられるべきです。
子どもの貧困、ひとり親家庭、児童虐待、障害児医療などの要因は、学歴の低下、子どもの精神的健康、肥満につながり、医療政策と見なすことができます。これらの課題に小児科医が対応するには、小児科研修医時代から健康の社会的原動力に触れ、理解し、アドボカシー・スキルを開発することが求められます。
子どものアドボカシーと小児科医
子どもたちに代わって政策目標を前進させる役割を担っているのが小児科医、というDr. Shetal Shahの論文「Going Farther by Going Together: Collaboration as a Tool in Advocacy」(Pediatr Clin N Am, 2023)が最近発表されました。本論文のキーポイントとして、次の5つの項目が挙げられています。
- アドボカシーは、健康の社会的決定要因を対象とした小児科ケアの重要な要素である。
- 小児科医は、協力することにより、子どもたちに代わって政策目標を前進させることができる。
- 主要な組織・パートナーと連携する。
- 連携を成功させるには、作業を開始する前に、具体的な目的、役割、および責任を確立する必要がある。
- 連携の構築を促進するには、年齢とアドボカシーに関する潜在的な協力体制を組織しておく。
私が新生児学を志した動機
私が新生児医療に専念し始めた時に出会い、バイブルとして読み返した本が、当時の最先端の新生児医療の考え方や医療手技についての特集、「THE NEWBORN」(Pediatr Clin N Am, 1970)です。
その巻頭言の一節、「小児科の目標は、個々の子どもが成熟し、生産的で幸せな大人になる可能性の限界まで成長するのを助けることである。この目標は、新生児期に最も危険にさらされる。」に感動し、折に触れて引用させて頂きました。その内容には、最新の近代医療技術の大切さだけでなく、新生児のアドボカシーの考えが随所に含まれていました。
半世紀という歳月を経た今、期せずして同じ雑誌に小児のアドボカシーに関する論文が特集されていることに、その大切さを改めて痛感します。
小児科医が連携構築の核になれ
子どもの健康アドボカシーに不可欠なのが、健康への脅威を軽減する医師の行動です。さらに、個々の患者・子どもの健康アドボカシーには、臨床現場に限定されない仕事、とりわけ医師の専門的な仕事の旗印の下で行われる社会的・経済的・教育的、政治的な働きが求められています。
子どもたちを対象とした多くのコミュニティ・グループは、互いの提携を求めています。幸いなことに、小児科医は比較的尊敬されており、小児科医が中心となり、主要な組織・パートナーと連携・協力することにより、子どもたちに代わって政策目標を前進させる働きが期待されています。
2023.2.14.
小児科同門会誌投稿文