大人を癒してくれる“まなかい”

アリの嗅覚についての研究の第一人者である昆虫学者の尾崎まみこ教授から、予期せぬ原稿依頼がありました。先生が編集中の「動物の生きるしくみ図鑑」で、「愛着、養育」という章で、”まなかい”という言葉を是非とも取り上げたいとの思いから、以前私が「子育てをもっと楽しむ」の中で、この言葉を取り上げていたことを思い出され、執筆依頼が舞い込んだ次第です。

私自身も、この“まなかい”という語感が大好きです。赤ちゃんと見つめ合っていると思わず吹き出してしまいそうになります。お母さんと赤ちゃんが見つめ合い、微笑む姿を見ると、こちらまでつられて微笑んでしまいます。

ヒト新生児には表情の模倣という行為が生得的に備わっている

生まれて間もない赤ちゃんの目の前で、大人が舌を突き出したり、口を開閉しながら微笑みかけると、赤ちゃんはこちらの表情を鏡に映し出すようにまねます。ヒトの新生児は、他哺乳類と違って、自力で母親にしがみつけず、母親の手助けなしにはおっぱいを飲めません。

誕生したときから、他者、母親の関心を引き、世話をしてもらわないと生きていけないので、表情の模倣という行為が、ヒトでは生得的に備わったと考えられています。

育児の神様といわれる大先輩の小児科医、内藤壽七郎先生は、「育児の基本は、“まなかい”にある」と絶えず話されていました。広辞苑には、まなかい【目交ひ/眼間】とは、目と目の間、眼の前と記されているだけですが、先生は「目と目が合うこと」、アイコンタクトの意味で使っておられます。

単に目と目が合うというだけでなく、見つめ合いや微笑を通じての母と子の「快の情動」が、周りの人にまで伝わってきます。

尾崎まみこ教授は、ヒト乳児の頭の匂について神戸大学小児科の永瀬裕朗教授らと共同研究を行っておられます。研究室にはタイミングよく出産を間近に控えた女性医師が二人おられ、ご協力を得て現在研究が進行中です。母乳栄養児が離乳食を取り始めるとどのように変化していくのか、興味は尽きません。
2023.5.11.

試しにChatGPT君に英訳してもらいました。

“The Healing Power of ‘Manakai’ – How Babies Soothe Adults”

I received an unexpected manuscript request from Professor Mamiko Ozaki, a leading researcher in the field of ant olfaction. She is working on a section titled “Attachment and Nurturing” for the upcoming “Illustrated Guide to Animal Behavior” and wanted to include the term “manakai” which I had previously discussed in my book “Enjoying Child Rearing”.

I myself also love the sound of this word “manakai”. When I see a mother and baby looking at each other and smiling, I can’t help but burst into laughter. It’s contagious and makes me smile too.

Infants are born with an innate ability to mimic facial expressions. When an adult smiles or sticks out their tongue in front of a newborn, the baby mimics the expression back as if reflecting it in a mirror. Unlike other mammals, human newborns are unable to cling to their mothers or nurse without assistance.

From birth, infants require attention and care from others, especially their mothers, to survive. It is believed that the act of mimicking facial expressions is innate in humans because it is necessary for survival.

Dr. Jushichiro Naito, a senior pediatrician known as the godfather of child-rearing, constantly emphasized that “the basics of child-rearing are found in ‘manakai'”. While the dictionary simply defines “manakai” as “the space between the eyes”, Dr. Naito used it to mean “eye contact”.

Not only does “manakai” refer to the act of making eye contact, but it also refers to the “pleasurable emotional connection” between a mother and child through shared gazes and smiles, which can be felt by those around them.

気をつけるべきは感染症だけでない、 ~熱中症対策を忘れずに~

コロナ5類移行がようやく正式決定しました。マスク着用も個人の判断に任されることになりました。
これから気温が高くなる夏に向かいます。注意すべきは熱中症です。熱中症は真夏よりも、まだ暑さに身体が馴染んでいない夏の初めに多くみられます。

言葉が話せない乳幼児は、喉が渇いてもそれを訴えることができません。ベビーカーに乗せて外出するときは、注意が必要です。地面近くの温度は高くなっていますので、できるだけ日陰を通行するようにしましょう。また、子どもは喉が渇くのも忘れて遊びに夢中になります。脱水に十分注意して、こまめに水分補給をするように気をつけてください。

戸外で遊ぶ時や運動をするときには、必ずマスクを外すようにしてください。マスクをしていると、吐く息の体温がこもることになり、熱中症の原因になります。

ぐったりした様子や嘔吐、筋肉がつるなどの症状がみられたときは、熱中症の可能性が強いので、体を冷やしてすぐに病院を受診しましょう。

2023.5.5.

兵庫県地域子育てネットワークだより

「子育て支援」でなく、「子ども支援」を

日本は、1994年に国際条約「子どもの権利条約」を批准しており、その条約には「生きる権利」、「育つ権利」、「守られる権利」、「参加する権利」という4つの子どもの権利が定められていまが、日本国内ではこの条約についての関心が低いままで、子どもは「子ども扱い」されたまま、「子どもが主役」にはなりづらい状況が長らく続いてきました。

「子育て支援」でなく、「子ども支援」を

この4月から、「子どもの権利」の保障を明記した「こども基本法」が新しく施行され、こども家庭庁が発足しました。子どもにやさしい社会を目指すための法律であり、現政権の最重要課題として取り上げられており、大きな期待を寄せています。

これまでの我が国では、子ども政策といえば、超高齢社会対策の一環としての少子化対策、労働力確保のための経済対策として取り上げられてきたように思えてなりません。こども基本法ができても、従前のように少子化対策の一環として取り上げるのであれば、真の子ども中心の社会とは言えません。私は、「子育て支援」ではなく、「子ども支援」の政策がとられるように期待しているのです。

2023.4.9.

悠々と旅する無人探査機ボイジャー

NASAの無人探査機、ボイジャー1号とボイジャー2号は、1977年の秋に打ち上げられ、以来45年間宇宙の果てまでの旅を続けています。

木星、土星を相次いで訪れたボイジャー

ボイジャー1号とボイジャー2号が、打ち上げられたのは、宇宙船アポロ11号の月面着陸後8年目の1977年秋です。

打ち上げ後、ほぼ2年で木星を訪れ、さらに1年後に訪れたのが土星でした。元々この2つの惑星を探査するのがミッションでした。

当初の計画では、天王星と海王星を訪れるには、費用がかかり過ぎるということで、予定に入っていませんでした。ところが、2号が土星を訪れた時点で、計器類が十分に機能していたことから、天王星探査に向かうことになったそうです。

2機のボイジャーは、木星(写真1、写真2)と土星(写真5、写真6)のそばを通過し、クローズアップ写真を初めて撮影したのです。(日経サイエンス2023年1月号より引用)

今は200億キロ離れた星間空間を悠々と

ボイジャー1号とボイジャー2号が、木星、土星の探査で送ってきた美しい写真の記憶はありましたが、その後についての報道はあまりなく、忘れ去っていました。

その後、ボイジャー2号は天王星を1986年1月に、海王星を1989年8月に立ち寄り、今は、ボイジャー1号とボイジャー2号ともに太陽圏から飛び出して、200億キロも離れた星間空間を悠々と、機器に制御されながら、さらに遠くの未知の世界を目指して旅しています。
あまりにもロマンチック過ぎ、驚かされます。次の宇宙の果てからの便りが楽しみです。
2023.3.20.

さまざまなウイルスを保有する蝙蝠(コウモリ)

コロナウイルスの自然宿主として主要な動物種はコウモリです。COVID19の流行と中国武漢のコウモリとの関連性が当初指摘されていましたが、未だに定かではなさそうです。COVID19と関連付けられている重症急性呼吸器症候群(SARS)と中東呼吸器症候群(MERS)も、コウモリを自然宿主としています。

鳥なき里の蝙蝠(コウモリ)

コウモリは、空中を飛べる唯一の哺乳動物です。
今日では、稀有種は珍重されていますが、獣でもなく、鳥でもないコウモリを、昔は一段低く見ていたようです。
「鳥なき里の蝙蝠(こうもり)」とは、にせもの扱いの喩えで、すぐれた人がいないところでは、つまらない者がわが物顔をして威張ることを言います。

いろんなウイルスを保有するコウモリ

コウモリは、コロナウイルス以外にも、エボラウイルスやマールブルグウイルスなどさまざまなウイルスを保有しています。エボラウイルスとマールブルグウイルスは、エボラ出血熱とマールブルグ出血熱の原因ウイルスで、COVID19よりもはるかに致死率が高い病気です。
マールブルグ病は、ケニア、コンゴ、ウガンダなどのアフリカの国々で症例が確認されています。この名称の由来は、ドイツのMarburgで最初の症例が確認されたことによるものです。

A型インフルエンザウイルスがコウモリに

高病原性の鳥インフルエンザが、日本国内でも猛威を振るっています。鳥インフルエンザの原因ウイルス、A型インフルエンザウイルス「H5N1」は、鳥類で起きる感染症と考えられていましたが、最近、コウモリにおいても発見されています。
高病原性の鳥インフルエンザウイルスが、コウモリにおいて変異し、哺乳動物への伝播が起きないことを願っています。
2023.3.15. / 2023.5.19. 修正

目は口ほどに物を言う

子どもたちは、3年余りの長期間にわたり、友人のマスクを外した顔を見ることがなかったのと思いますが、私は、子どもたちがマスクを着けていても、対面で接している限り、コミュニケーションという点ではあまり心配していません。

「目は口ほどに物を言う」ということわざがあるように、相手のことを思っていれば、口には出さなくても眼差しだけで思いは伝わります。前にも書いたように、電車の中でベビーカーに乗っている乳児に、マスク越しに目だけで笑いかけても、今まで通り笑い返してくれます。

目は心の鏡

「目は心の鏡」は、「目を見れば、相手の心のようすがわかる」という意味のことわざです。良いことを考えていれば、相手の目は輝き、悪いことを考えていれば、相手の目は曇ります。目は人の心の状態を映し出します。
この3年間で、子どもたちには、相手の目を見て心を読む力が今まで以上についたに違いありません。
とはいえ、マスク越しの生活から解放されると、心が晴れやかになります。

2023.3.13.
2023.5.25.一部修正

子どもを守るには、職種間の連携を

乳幼児は大人に大きなエネルギーを与えてくれる

園児たちの元気にあふれた声が、保育園からそよ風に乗って響いてくると、大人の心を和ませます。電車の中でベビーカーに乗っている乳児は、マスク越しに目だけで微笑みかけても、微笑み返してくれます。
保育士の皆さんは、いつも乳幼児たちの元気な声と笑顔に接し、微笑み、抱きしめあえる本当に幸せな職業だと思います。私たち小児科医は、病院や診療所では発熱や下痢で元気を失った子どもたちを診ますが、健康診査の場で見る子どもたちの多くは元気一杯です。私たちは、子どもから大きなエネルギーをもらっています。

子どもの幸せには多職種間の連携が

小児科医も、保育士も目指しているのは、子どもの幸せです。保育士の皆さんは親に代わり育児を担い、小児科医は、子どもの健康を守るという役割を担っています。
子どもの健康には、遺伝的な要因もありますが、社会・経済的な要因も重要です。児童虐待・いじめ、事故、子どもの貧困など、乳幼児が直面している問題が無数あります。これらの問題は、医療者のみで解決できるものではなく、他の多くの職種の方々と連携して、はじめて子どもの幸せを達成できるのです。

こども基本法で何が変わるのか

この4月から、子どもたちの権利を守るために「こども基本法」が誕生しました。
「こども基本法」は、子どもの視点に立って、きめ細やかで、切れ目のない支援を行い、子どもにやさしい社会を目指すために成立した法律です。

女性の社会進出とともに、保育園・幼稚園・こども園の役割が今後ますます大きくなっていくものと考えられます。

保育園は、子どもたちの家庭です。

保育士は、子どもたちと最も長く過ごせる職種です。親や子どもたちに代わって子どもの幸せを守る上での重要な任務を担っています。

保育士が、子どもの幸せを守り、こどもの声の代弁者として情報発信するには、時間的なゆとりをもって働ける保育環境づくりが不可欠です。

2023.3.5.
本文985文字

Z世代に未来を託しては

Z世代はデジタル・ネイティブな世代

Z世代は、生まれながらにインターネットやパソコン・スマートフォンに囲まれている環境が当たり前のデジタルネイティブな世代です。YouTubeやSNSといったインターネットを介した情報収集、コミュニケーションに時間を割いている人が多く、その反面、TVの視聴時間は短いものとなっています。
Z世代は、明確に定義されているわけではなく、1995年から2012年頃までに生まれた世代を指すことが一般的です。

コスパよりもタイパのZ世代

Z世代は、コスパ(コスト・パフォーマンス)よりもタイパ(タイム・パフォーマンス)を選ぶ傾向にあります。この世代は、SNS用に簡略化された表現を用い、映画も倍速にして観るそうです。
限られた時間の中でどれだけ効率的に情報を取得するか、どれだけ満足感が得られたか、といった時間における成果に価値を見出しているそうです。彼らの会話を傍らで聞いていると、彼らが何の話をしているのか皆目見当がつきません。

Z世代が教え、Z世代が学ぶ学校現場では

コロナの流行で、リモート授業が増え、学校現場でのIT化が一気に進みました。小6の孫娘は、私よりはるかに器用にスマホを使いこなし、何の抵抗感もなく学校から配布されたパソコンで、宿題に取り組んでいます。
困っているのは若い担任の先生だと言います。Z世代であるにも関わらず、上からのお仕着せの時代遅れの教育法との板挟みにあっていると、生徒たちは冷ややかにみているようです。

Z世代が社会を動かす時代に

AI化が進んだ囲碁・将棋界では、仲邑菫(なかむら すみれ)さん、藤井聡太さんのような若者が活躍する時代です。
本年4月から施行されるこども基本法では、「全てのこどもについて、年齢及び発達の程度に応じ、自己に直接関係する全ての事項に関して意見を表明する機会・多様な社会的活動に参画する機会が確保されること」となっています。
今回の国会論議を聞いていると、その主役である子どもの意見が全く反映されておらず、岸田政権の「異次元」の子育て支援という曖昧な発言を聞いた途端に失望しました。
衆議院議員は満25歳以上、参議院議員は満30歳以上であるという縛りを削除し、18歳以上の若者が参加できるようにするのが、日本を活気ある国家にする最も効果的な策であるような気がします。

2023.3.2.

「こども基本法」って、どんな法律?

いよいよこの4月から、子どもたちの権利を守るために「こども基本法」が誕生します。この法律が、どんな内容で、これから何が変わるのか、よくわからないという方が多いのではないでしょうか。
日本は1994年に、国際条約「子どもの権利条約」を批准しました。その条約には「生きる権利」、「育つ権利」、「守られる権利」、「参加する権利」という4つの子どもの権利が定められていまが、日本国内ではこの条約についての関心が低いままで、子どもは「子ども扱い」されたまま、「子どもが主役」にはなりづらい状況が長らく続いてきました。
子どもたちが直面している問題として、児童虐待・ヤングケアラー・子どもの貧困・いじめ・個性や多様性を踏みにじる校則・教育格差など無数にあります。
「こども基本法」は、子どもの視点に立って、きめ細やかで、切れ目のない支援を行い、子どもにやさしい社会を目指すための法律です。

2023.3.1.

兵庫県地域子育てネットワークだより4月号

 

小児科医と子どものアドボカシー

「子どもの権利」の保障を明記した「こども基本法」が新しく施行され、こども家庭庁が2023年4月に発足します。異次元の予算がつくそうですが、未だに、全貌が見えません。

医療的ケア児支援法が2021年3月に成立、昨年9月18日に施行されました。子ども・家族に具体的に反映されているのでしょうか? 法ができても、実践を伴わねば子どもたちへの真のアドボカシー(Advocacy, 擁護)とは言えません。

子どもの健康に与える社会的影響

我が国では、子ども政策といえば、まるで少子化対策のような取り上げられ方ですが、本来子どもの健康に影響を与える社会的影響に対して、より大きな注意が向けられるべきです。

子どもの貧困、ひとり親家庭、児童虐待、障害児医療などの要因は、学歴の低下、子どもの精神的健康、肥満につながり、医療政策と見なすことができます。これらの課題に小児科医が対応するには、小児科研修医時代から健康の社会的原動力に触れ、理解し、アドボカシー・スキルを開発することが求められます。

子どものアドボカシーと小児科医

子どもたちに代わって政策目標を前進させる役割を担っているのが小児科医、というDr. Shetal Shahの論文「Going Farther by Going Together: Collaboration as a Tool in Advocacy」(Pediatr Clin N Am, 2023)が最近発表されました。本論文のキーポイントとして、次の5つの項目が挙げられています。

  • アドボカシーは、健康の社会的決定要因を対象とした小児科ケアの重要な要素である。
  • 小児科医は、協力することにより、子どもたちに代わって政策目標を前進させることができる。
  • 主要な組織・パートナーと連携する。
  • 連携を成功させるには、作業を開始する前に、具体的な目的、役割、および責任を確立する必要がある。
  • 連携の構築を促進するには、年齢とアドボカシーに関する潜在的な協力体制を組織しておく。 

私が新生児学を志した動機

私が新生児医療に専念し始めた時に出会い、バイブルとして読み返した本が、当時の最先端の新生児医療の考え方や医療手技についての特集、「THE NEWBORN」(Pediatr Clin N Am, 1970)です。

その巻頭言の一節、「小児科の目標は、個々の子どもが成熟し、生産的で幸せな大人になる可能性の限界まで成長するのを助けることである。この目標は、新生児期に最も危険にさらされる。」に感動し、折に触れて引用させて頂きました。その内容には、最新の近代医療技術の大切さだけでなく、新生児のアドボカシーの考えが随所に含まれていました。

半世紀という歳月を経た今、期せずして同じ雑誌に小児のアドボカシーに関する論文が特集されていることに、その大切さを改めて痛感します。

小児科医が連携構築の核になれ

子どもの健康アドボカシーに不可欠なのが、健康への脅威を軽減する医師の行動です。さらに、個々の患者・子どもの健康アドボカシーには、臨床現場に限定されない仕事、とりわけ医師の専門的な仕事の旗印の下で行われる社会的・経済的・教育的、政治的な働きが求められています。

子どもたちを対象とした多くのコミュニティ・グループは、互いの提携を求めています。幸いなことに、小児科医は比較的尊敬されており、小児科医が中心となり、主要な組織・パートナーと連携・協力することにより、子どもたちに代わって政策目標を前進させる働きが期待されています。

2023.2.14.

小児科同門会誌投稿文