我が国の医療費は46兆円を超え、毎年3%以上の増加を続けていることから、政府は今国会に、「高額療養費の負担割合の引き上げ」の予算化を提案しました。しかし、その根拠が不透明との指摘から一旦見送られることになったようです。
高齢化に伴って医療費が高騰することは明白ですが、防衛費と同様に、国民医療費が税収の何%までが受け入れられるかが問題です。政府がその算定根拠を明白にしないところから議論が沸騰したのです。
医療界に身を置いていた私は、ネット検索を駆使して、私なりに今の日本の医療費の現状を分析してみました。
国民医療費は46兆 6,967億円。 厚生労働省HP(R6.10.11.)より
令和4年度の国民医療費は46兆 6,967億円、前年度の45兆359億円に 比べ1兆6,608億円、3.7%の増加となっています。 人口一人当たりの国民医療費は、37万3,700円です。
令和3年度について、年齢階級別国民医療費の割合をみると、70歳以上が全体の52%、75歳以上が全体の38%を占めています。因みに、15歳未満の小児では全体の5.4%、2千4百億円です。
国民医療費の4分の一が医薬品費です。
製薬業界に関するさまざまなニュースをわかりやすく解説するニュースメディア、AnswersNewsは、今週の3月3日の民間調査会社IQVIAの資料をもとに、2024年の国内医療用医薬品市場は前年比2.0%増の11兆5037億円だったと発表しています。これは、国民医療費の25.5%に当たります。
医療用医薬品市場の内訳をみると、病院(病床数100床以上)が5兆4110億円、開業医(100床未満)が2兆1691億円、薬局その他が3兆9237億円(0.8%増)となっています。
高額な医療用医薬品は、がん治療薬。
同時に、製薬企業が決算で公表した製品別売上高などをもとに、2022年度の国内売上高が50億円以上の医療用医薬品185品目のランキングを紹介しています。
1位は小野薬品工業の「オプジーボ」1,423億円。2位がMSDの「キイトルーダ」1,346億円、3位はアストラゼネカの「タグリッソ」1,111億円と、いずれも抗がん剤です。4位に新型コロナウイルス感染症治療薬「ベクルリー」(ギリアド・サイエンシズ)1,077億円が上がっています。
開業医市場では、糖尿病治療薬やワクチン、アトピー性皮膚炎向け新薬の拡大があります。
全国のがんの専門医らで作る「日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)」は、17種類のがん患者15,564人を対象に、薬剤費を分析しています。
その結果では、59%の患者が1か月あたり50万円以上の薬剤治療を受け、17%の患者が100万円以上の薬剤治療を受けています。 10年前と現在の標準的な治療の薬剤費を比較すると、10倍から50倍も高くなっています。高額ながん治療薬の投与状況を把握するためには、さらなる詳細な全国調査データが必要です。
これまで、医師は患者に医療費についてほとんど触れることがなかったと思います。今後は、患者負担の割合についてわかりやすく説明する必要があるでしょう。
2025.3.7.
参考> 年齢階級別がん死亡率推移 (1980年、2000年、2022年)
1980年、2000年、2022年の死亡率の変化をみると、全がんでは男女とも50歳~70歳代の死亡率は減少しているが、 高齢者(85歳以上)では増加している。80歳以上のがん死亡率の増加は診断精度の向上も一つの原因だと考えられる。
部位別の動向は、 [食道がん] 男性では一貫した傾向はなく、女性では65歳~84歳で死亡率が減少している。 [胃がん] 男女ともほぼすべての年齢階級で死亡率が減少している。 (資料:国立がん研究センターがん情報サービス 「がん登録・統計」)(https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/dl/index.html)