先日、後輩の医師岩谷壮太君が、米国の一流医学雑誌Pediatric Researchに掲載された論文を持って、自宅までわざわざ訪ねてきてくれました。
彼と私の出会いは、自分が後期高齢者となり、自由な時間ができ、ブラブラしていたときです。神戸大学の森岡一朗特任教授(現日本大学教授)から新生児黄疸研究グループへの誘いを受け、その時のパートナーに指名いただいたのが彼だったのです。
一度は消えた核黄疸が、いま再び問題に
1970年代には、赤ちゃんの重症黄疸は脳障害(核黄疸)を引き起こし、死亡・脳性麻痺の主要な原因でした。1982年に、私は核黄疸予知のためのUB測定用臨床検査機器(UBアナライザー)を、アローズ社生越義昌社長との共同開発に成功しました。広く実用化され、医療技術の進歩と相まって、核黄疸は激減したのです。
その後30年余り、核黄疸は日常診療現場で滅多に見られなくなり、若い新生児科医の間では過去の病気として、関心が薄れていました。
21世紀に入ると、新生児医療の進歩とともに、千グラム未満で出生した小さな超低出生体重児の生存率が著しく上昇しました。これまでのような成熟児ではなく、小さな未熟児において核黄疸の発生を耳にするようになったのです。
なぜ、再び私が研究室に戻ったか
開発時からすでに30年を経過し、UBアナライザーも限界かと不安になった時もありましたが、UBアナライザーで厳格に黄疸管理をしていた神戸大学では、核黄疸の発生がないことが分かり安堵したのを思い出します。
神戸大学の森岡グループが、超低体重出生児の黄疸管理の研究を再開したところへ、私も参加させて頂いたのです。私たちは、過去20年間、広く全国の医療施設で使用されていた神戸大学の治療基準の見直しにかかりました。多くの医療施設の協力を得て、2年足らずで、改訂版を作成することができました。
後輩への技の伝承
UBの測定原理は、多少難解なところがあります。UBアナライザーから打ち出されてくるデータの数字を利用できても、その原理を理解している新生児科医は限られていました。
私の研究室復帰の真の狙いは、UB測定原理を後進に伝承することです。白羽の矢を立てたのが岩谷壮太君でした。測定試薬作りから一緒に始め、ほぼ1年をかけて彼にすべて伝授することができました。
今回の彼の論文は、超低体重出生児の核黄疸予防に、UB測定の重要性を世に示したものです。多くの子どもたちが救われるに違いありません。素晴らしい後継者の誕生です。
生越義昌氏、仁志田博司氏へ捧げる
UBアナライザー開発者の生越義昌氏、UBアナライザーの普及啓発にご尽力いただいた仁志田博司氏が、最近相次いで他界され、心細い限りです。心より御冥福をお祈りするとともに、この論文を捧げたいと思います。
2023.04.16.