桂林訪問の思い出

唐招提寺障壁画展で水墨画を観ていると、2012年9月に訪れた桂林のことが思い出されました。

反日デモの渦中での中国訪問
2012年9月11日に日本政府が尖閣諸島3島の国有化を宣言したために、中国の各都市では反日デモが行われていました。9月15日の土曜日には、日中国交正常化以降最大規模の2005年の中国における反日活動を超える規模となる反日デモが中国各地で発生し、日本企業への大規模な襲撃が引き起こされている最中でした。

上海婦幼保健院との医学交流
2012年9月16日から、上海婦幼保健院において、新生児医療の日中医学交流のために私たち一行は上海を訪れました。上海婦幼保健院は、宋慶齢元国家副主席 (上海出身)が、設立された産科小児科病院で、年間数千の分娩を扱い、近代的なNICUも完備されていました。2日間にわたり、学術講演会、意見交換会を行い、上海郊外での地域周産期医療提供体制についても見学することができました。
会議では、中国側の手厚い配慮のおかげで、反日活動とは縁のない雰囲気で、私どもは普段通りに振る舞うことができていました。

ただ事ではない桂林訪問
会議終了後、現役で働いている医師たちは、直ちに帰国の途につきましたが、私と仁志田先生は、すでに現役を退いており、自由な活動が可能な身でしたので、かねてから望んでいた桂林に行くことにしました。
上海から桂林に向かう国内便に乗ると、隣の座席の中国人が大きく広げた新聞には、「打倒小国日本」というバカでかい活字が目に飛び込んできました。
ここで初めて、「これはただ事ではない。」と感じました。でも、仲間が五人いるし、うち一人は中国人で大変親日家の通訳顧振申さんなので、さほど不安感はありませんでした。
その顧振申さんも、事態の異常さに気づいたのか、私たちに「あまり大きな声で日本語を話さないように」と耳打ちしてくれました。

それでも幻想的な桂林の水墨画風景
観光船やイカダによる漓江下りでは、カルスト地形による特徴的な形の山々と、その間を縫って流れる川の風情を、象が水を飲んでいるような象鼻山、コブのあるラクダのような駱駝岩などユニークな桂林の水墨画風景を満喫できました。
陽朔での夜は、中国で有名な映画監督、張芸謀がプロデュースする、陽朔の美しい自然をバックに繰り広げられる1時間ほどのショーまで観ることができました。

中国滞在中は、さほど私自身には危機感がなかったのですが、帰国すると家内からものすごい非難の言葉を浴びせかけられました。

2021.6.4記