この夢は、コロナ禍でずっと家に籠りきりでいる私が、以前に勤めていた神戸大学病院に朝出かけて行くという話です。
ゆったりとしたらせん階段を、登って行くところから始まります。その建物は、明治時代に建てられたもので、4階に小児科医局があった当時とよく似ています。私が小児科教授に就任した1990年頃の光景のようでもあります。
4階に辿り着くと、そこにはなぜか大きなホールがあり、百人近い子どもと大人が集い、賑々しく話す声が響き渡っています。そこへ看護師と思しき私服の女性たちが足早にその輪の中に入って行きます。何かこれから朝のラジオ体操が始まるような雰囲気です。
その人込みの端をすり抜けて行くと、数人の医師たちが不安そうな面持ちで佇んでいます。私の姿を見つけるや、「先生、僕たちはこれからどうなるのでしょうか?」と詰め寄ってくるのです。どのように応えようかと思案していると、ハッと目が覚め、夢だったのかと現実に戻り、安堵しました。
「Chinatech中国デジタル革命の衝撃」
恐らく、前の晩に読んでいた本のせいであろうと思います。それは、今月出版されたばかりの「Chinatech中国デジタル革命の衝撃」(趙瑋琳著、東洋経済新報社)という本です。
中国では、新型コロナウイルス対策にAI技術が活用されていることはマスコミの報道を通じてある程度は知っていましたが、この本によると、今日の中国のデジタル技術の進歩、現実生活へのデジタルのとり込みのスゴさには、ただ唖然とするばかりです。
ほんの10年余り前には、私自身が上海の大学に招かれて、新生児医療の講演に行っていたのです。教室には数多くの中国人留学生を迎え入れ、小児科の研究室には中国語が飛び交っていたのです。
この本では、米国のGAFAと並び称される「アリババ」や「テンセント」といった電子商取引、ECサイト面での進化の様子が主に述べられていますが、5G分野での世界のトップランナーである「ファーウエイ」についても、自動運転やスマートシティーなどとともに、遠隔医療面でのイノベーションについて紹介されています。
遠隔医療面でのイノベーション
その1例として、昨年2月には、新型コロナの震源地である武漢の臨時専門病院に5Gネットワークが設置され、遠隔医療により、武漢にいながらでも、北京や上海のような大都市の病院にいる専門医の診療や手術を受けられるようになっていたそうです。
また、テンセントは5Gスマートフォンを用いて、日々の健康状態をモニタリングするスマート・ヘルスケアのサービスを個人向けに提供し始めています。何しろ5Gは、これまでに比べて100倍のスピードで大量のデータを一度に送信できるとのこと、日本の5年先を見ているようです。
話は再び夢に戻ります。
若いドクターたちの不安に対して、当時の私は、ただ一人一人に地域医療の担い手として社会に貢献してくれるようにとお願いしていたと思います。
今回の新型コロナウイルスの流行を機に、国民の医療ニーズの変化が浮き彫りになったように思います。新型コロナウイルス対策における感染症医学専門家と称される人たちが、しかめっ面をして、素人と変わらぬ話を毎回テレビでするのを目の当たりにしていると、近い将来、同じ光景が日常診療の場においても起こり得るように思えてなりません。
医療のデジタル化が進むと、過去の経験がデジタル化され、人工知能AIにより処理され、公になります。医師も素人も同じ情報量を手にすることになり、経験だけでは説得力がなくなります。とりわけ今日の専門分化されている分野ほどデジタル化が容易でしょう。
小児科医にとって幸いなことは、
小児科医にとって幸いなことは、今後増加するであろう精神的な異常や発達の異常、時々刻々変化する子どもの身体とこころは、多様性が尊重され、最もデジタル化が難しい領域です。AIといえども、当分の間は限界があります。
人智とAIは、いたちごっこをしながら進化していくことでしょう。これからの医師は、デジタルとノンデジタルの狭間を、AIに負けないように生き抜かねばなりません。
夢でよく分からなかったのは、なぜ病棟のホールと思しき処に、多数の大人と子どもがいたのかです。いろんな悩みを持つ親や子どもたちの集団合宿による療育がトレンドとなるのでしょうか。
2021-2-18