SARSとMERSと医療者の感染

SARSは、2002年11月16日、中国広東省で普通とは異なるタイプの肺炎症例が報告されたことをきっかけに、流行が拡大。2003年7月5日にWHOが終息宣言を出すまで東アジアを中心に32の国と地域へ拡大した。WHOに報告された発症者数は8098例、死亡数は774例で、全体の致死率は9.6%と高い。日本では感染者ゼロであった。原因はコロナウイルスであるSARS – CoVと特定された。


MERS(中東呼吸器症候群)は、2012年にアラビア半島で発生したコロナウイルス感染症で、症例の多くは院内感染、もしくは病院スタッフとその家族など濃厚接触者の周辺で起こっています。MERSは2015年と2018年に韓国でアウトブレイク(局地的、一時的な感染症の流行のこと)を起こしたが、これも中東からの帰国者が発端となった院内感染が中心だった。

ヒトコブラクダがMERSコロナウイルスを保有しており、ヒトコブラクダとの濃厚接触がヒトへの感染リスクであると考えられています。ヒト-ヒト感染の効率は高くないと考えられますが、家族間や医療機関における限定的なヒト-ヒト感染(医療関連感染)も報告されています。

今回のCOVID-19では2月7日付で米国医師会誌『JAMA』に掲載された武漢大学中南病院からの経過報告によると、同大学病院にCOVID-19で入院中の患者138人のうち、40人が医療関係者で、17人がすでに他の病気で入院していた患者でした。およそ4割が院内で感染した可能性があります。https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2761044


 2020/2/21

SARS(重症急性呼吸器症候群)に対するWHOガイドライン

From WHO guidelines for the global surveillance of severe acute respiratory syndrome (SARS). Updated recommendations October 2004. 2002年から2003年にかけて流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)について、WHOのガイドラインを参考にしながら、今流行中のCOVID-19と対比しながら眺めてみよう。


SARSの致死率は

2003年の流行時のカナダ、中国、香港SAR、シンガポール、ベトナム、米国のデータの分析に基づくと、SARSの致死率は0%から50%以上に及ぶと推定されています。致死率は、年齢層は影響を受け、男性であること、併存疾患の存在も死亡率の上昇に関連しています。


高齢者、小児と妊娠中のSARS

無熱性疾患や細菌性敗血症/肺炎の併発などの非典型的な症状は、高齢者によく見られれます。

根底にある慢性的な疾患と医療施設のより頻繁な使用の両方が、当初考えられなかった院内感染イベントに寄与するようです。

小児集団では、SARSの発生頻度は低く、軽度の病気として観察されます。妊娠中のSARS症例では、妊娠初期の胎児死亡と妊娠後期の母親の死亡率の増加を示唆する報告があります。


SARSの疫学と生態学

2003年3月以降、この症候群について多くのことがわかってきましたが、SARS-CoV感染の疫学とこの疾患の生態学に関する知識は不完全なままです。SARS-CoVの天然の溜池は特定されていませんが、中国南部では、多くの野生生物種-ヒマラヤマスクパームシベット、フェレットアナグマ、およびタヌキが、関連するコロナウイルスによる感染の証拠があります。

香港のアモイガーデンズアパートブロックに住む飼い猫も、SARS-CoVに感染していたことが判明しました。最近では、フェレットと飼い猫が実験的にSARS-CoVに感染すること、以前飼われていた未感染の動物もウイルスに効率的に感染することがわかりました。これらの発見は、この病原体の溜池がさまざまな動物種に関係していることを示しています。

ヤシジャコウネコは、動物から人間への感染に最もよく関連した野生生物種です。ただし、ジャコウネコがSARSのようなコロナウイルスの自然の溜池であるかどうかはまだ証明されていません。


今、最も可能性の高い感染源は実験室!

2003年7月以降、SARSが再発する機会が4回ありました。これらのインシデントのうち3つは、実験室のバイオセーフティ違反に起因し、SARSの発症をもたらしました(シンガポール、台北、北京)。

最も最近の事件は、実験室労働者の家族と病院での接触に関与した3世代間の伝染で、9人の症例の集団であり、そのうちの1人は死亡しました。

WHOは、各国に対して、SARS-CoVの培養物を扱ったり、SARS-CoVで実際にまたは潜在的に汚染された臨床検体を保管しているすべての研究所の実験室が、正しいバイオセーフティ手順に従うこと、並びに実験室労働者の病気の適切な監視と調査を実施することを勧告しています。


スーパー・スプレッダーとは

SRASでは、多くの場合、患者一人から1~3人程度への小規模な感染伝播が起こっていたが、中に強い感染力をもつ人、スーパー・スプレッダーの存在が、SARSの拡大を促したとも言われている。

一人の患者から30人以上に感染を広げた事例があった。

このスーパースプレッダーは、糖尿病などの基礎疾患をもち、免疫力の低下のために体内でのウイルスの増殖を抑えきれず、長期間にわたって大量のウイルスを排出し続けていると考えられている。

広東省から香港にSARS コロナウイルスを持ち込んだ第一例の医師が、このスーパー・スプレッダーであった可能性が高いとされている。このスーパー・スプレッダーが香港の国際的なホテルに宿泊して、大量のウイルスを排出し、多くの感染者が発生し、SARS コロナウイルスが世界各地に拡散していく原因になった。

岡田春江著:知っておきたい感染症―21世紀型パンデミックに備える(ちくま新書)から


世界で4千万人が死亡したスペインかぜ

1918 年から1920年に流行したスペインかぜは、全世界で患者数約6億人、死亡数は2,000万から4,000万人に上ったとされています。スペインかぜがヒトにおけるA型インフルエンザウイルスによる流行であることが判明したのは、後になってからです。

日本では1918年の11月に全国的に最初の流行があり、3年間で人口の約半数の2,380万人がかかり、約39万人が死亡したと報告されています。府県別死亡率も載っており、よく見ると、そのピークが発生当初は関西が高いですが、終わりの頃には関東が高くなっています。今回の状況と逆です。(日本におけるスペイン風邪の精密分析、東京健安研セ年報、2005年)

1918年に大流行したスペインかぜ(インフルエンザ)で犠牲者が主に若い健康な成人でした。その理由として、1889年以降に生まれた人々は、1918年に流行したインフルエンザと似た型のウイルスを経験しており、ある程度の免疫があったからだという説があります。(https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/9190/


2020/2/16

これまでのインフルエンザ・パンデミック

A型インフルエンザウイルスは元来鳥類を中心に保有されていたウイルスです。少しずつその遺伝子が変化し,1957年のアジアインフルエンザと1968年流行の香港型インフルエンザと合わせて3回の大規模のパンデミックが20世紀には起きたことがわかっています。

最近では、2009年にはトリ由来のA型インフルエンザウイルス(H1N1)による流行を経験しています。2018/19年の新型インフルエンザは豚由来のH1N1型インフルエンザによるパンデミックです。

同じH1N1型インフルエンザでも、動物の種類によって宿しているウイルスのタイプが異なり、重症度も異なるようです。幸い、この2回のウイルスでは若年者や小児で重症化する症例は季節性インフルエンザと変わりませんでした。


2020/2/16

超過死亡という新しい概念とは

国立感染症研究所のIASR最新号に、超過死亡の概念が記されている。

インフルエンザの社会的インパクトを評価するにあたって, 重症化の指標として死亡者数が重要である。世界保健機関(WHO)はインフルエンザの流行によってもたらされた死亡の増加を, インフルエンザの「社会的インパクト」の指標とする「超過死亡(excess death, excess mortality)」の概念を提唱している。これは直接的, 間接的を問わず, インフルエンザ流行がなければ回避できたであろう死亡者数を意味する。

これによると1998/99シーズンで超過死亡者数は35,000人を超えているが、2004/05シーズン以降1万人を超えることはなかった。2018/19シーズンは3,276人であり, 直近5シーズンでは3番目と特別に大きな超過死亡が発生したわけではなかった。

IASR Vol. 41, No.2 (No. 480) February 2020


2020/2/16

 

いのちを考える

若葉2020.2.

昨年暮れのある日、体調を崩し、外出も控えていた。所在無げにしていたところ、うっすらと埃を被った本棚に、「般若心経」(新井満著)を見つけた。その横には、瀬戸内寂聴さんの「般若心経」も並んで置かれていた。
いずれも2005年頃の発行で、大学を定年退官し、こども病院にいた頃であろう。なぜこの時期にこれらの本を手にしたか定かな記憶はないが、人生の折り返し点を迎え、手にとってみたのであろう。瀬戸内寂聴さんの「般若心経」は半分ほど読んだところに栞が挟まれたままになっていた。

「般若心経」は本文266文字からなる経文であり、天台宗の開祖最澄、真言宗の開祖空海によって伝来した仏教であり、宗派を問わず詠まれている。「色即是空」、「空即是色」は大変有名な文言であるが、解ったような、解らないような話である。

新井満氏の「般若心経」
新井満氏の「般若心経」は70頁ほどの小冊子であり、一気に通読できる。『無数のいのちが寄り集って、あなたといういのちを成している』という文言に惹きつけられた。

あなたを産んでくれたのは父と母だ。
その父にも、また父と母がいて、
その母にも、また父と母がいる。
その父と母にも、さらにまた父と母がいる。
あなたから十代前までさかのぼるならば、
あなたにつながる父と母は千人以上になる。
さらに二十代前までさかのぼるならば、
父と母の数は百万人を超える。
即ち、無数のいのちが寄り集まって、
あなたという命を成しているのだ。その中の
わずか一つのいのちが欠けたとしても、
あなたといういのちは成りたたない。

お彼岸には、先祖代々の墓前で、手を合わせているが、これまで自分がこれほどまでに多数のいのちの集合体とは思ってもみなかった。この世に生を受けた私たち一人ひとりは、障害の有無にかかわらず代々引き継がれてきた唯一無二の大切な存在なのだ。

我が国には、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための「障害者総合支援法」が平成25年4月に成立した。「地域社会における共生の実現」という言葉も盛り込まれた。

ところが、平成28年には、障害者は生きる権利がないという理由で19人の障害者を刺し殺した相模原障害者施設殺傷事件が、さらに、平成30年には、政府中央省庁の8割にあたる行政機関で、3,460人の障害者雇用が水増しされていた問題が発覚し、政府要人の障害者への不用意な発言も相次いでいる。

超格差社会にある日本では、障害者に対する差別的発言や姿勢が、以前よりも目立ってきたように思える。新型出生前診断(NIPT)もいのちの選別という大きな問題を抱えている。科学技術の進歩と人間の幸せとは何か、医師として、小児科医として考え続けたい。

令和2年2月  傘寿を迎えて

 

Child Rearing in the Age of Artificial Intelligence (AI)

Discovering the Intriguing Abilities of Babies,
Nurturing Them to be Warm-hearted Children

Hajime Nakamura, M.D.

Index

Introduction

Chapter 1   The intriguing abilities of babies

Chapter 2   Human brain development as seen from cognitive and brain science

Chapter 3   Nurturing them to be warm-hearted children

Chapter 4    Toward a society “living together” with handicapped children

Chapter 5   In the age of AI, what happens to child rearing?

Afterword

Introduction

The advancement of brain science has given us the ability to observe the structures of the human brain in minute details, as well as their functions, such that we can now think about children’s psychomotor development by linking it to the development of their brains. This has resulted in the finding that the problems of delinquencies, crimes and suicides committed by pubescent children are related to how they spend the period from infancy to school age.

The most important in child rearing is to plant the ability of trust others people in a baby’s brain. The learning of a baby is mediated by an “emotion of enjoyment” that is brought to both a mother and her child through staring at one another, smiling, and imitating facial expressions. This evolves into a sense of trust in people, turning the child into a sensitive adult.

Today, the world is about to rush into the age of artificial intelligence (AI). The deep-learning functions of an AI are based on artificial neural networks constructed by mimicking the workings of a human brain. What has been learned or thought by the AI becomes etched as memories.

The development of early AIs proceeded by modeling the process of development in human babies; now, we have reached an era in which chess and Go masters are defeated by AIs. Sometimes, an AI will exhibit capabilities that are superior to the intelligence of an adult.

Before long, an era will probably come, in which AI robots will be asked to help raise children. If they are to help raise our children, we will have to foster the AI robots to become full of “care” and “warm-heartedness”, just like Astro Boy, the child robot depicted by the cartoonist Osamu Tezuka.

But before that, it seems even more important to re-evaluate whether the child rearing we humans are performing ourselves today is appropriate.

I am dedicating this book to Mr. Kenzo Kassai, whom I admire and for whose deep love and teachings of children I am grateful.

In preparing this book, I would like to express my heartfelt thanks to Mr. Takemasa Kawashima for helping with the English version of the manuscript, Ms. Emi Nagao for creating the figures, and Mr. Koichi Kanbara for the design.

February 2020

Hajime Nakamura, M.D.

Pediatrician, Professor Emeritus of Kobe University

 

Chapter 1. The intriguing abilities of babies

  1. The fantastic learning abilities of children’s brain

Babies stare incessantly at what is happening in their surroundings. The fantastic learning abilities of babies appear to lie in this observing eye.

When babies encounter a scene that is different from what they normally see, they look as if they were mystified. When someone is behaving strangely, a baby will interpret that there may be something wrong in this person’s behavior.

Children are quite cautious towards a behavior that they have never experienced themselves; this is something that feels justified.

We humans are characterized by a longer childhood than any other animal species.

During this period, as they are always under the protection of adults, children only need to learn about their surrounding environment. The brain is constituted in such a way that what is learned during childhood becomes useful for the first time when children reach adulthood.

  1. Child rearing begins with “eye-contact”

The basis of child rearing lies in “eye-contact”.

Here, “eye-contact “does not merely mean that a set of eyes meets another set of eyes.

By staring at each other or through a smile, an “emotion of enjoyment” is communicated back-and-forth between a mother and her child, which is why we call this “eye-contact”.

It is important to nurture children in such a manner that this native faculty as humans is not lost.

If a child is raised in such a manner as to share an action with other people through “eye-contact” from infancy, the child’s communication skills as a human being can increase, and warm interpersonal relationships could be built, even after becoming an adult.

  1. A baby’s smile heals people’s mind

If you smile at a baby, even soon after birth, the baby’s facial expression will relax.

While childcare books describe that babies start smiling when they are one to two months old, the starting time is different depending on how surrounding adults are involved with the baby.

If a mother always faces her baby while smiling and talking, in response to the mother’s smile, the baby starts smiling early.

A baby will return the smile to anyone whose eyes meet the baby’s, not just to the parents.

A baby’s smile is the best form of compassion, which heals people’s mind.

  1. Babies communicate by imitating facial expressions

A baby, even soon after birth, can imitate facial expressions of other people, sticking out the tongue or opening and closing the mouth, as if they were reflected in a mirror.

It is thought that, since a baby cannot survive from the time of birth without the help of a mother, the act of imitating facial expressions was natively given in order to draw the mother’s attention.

The communication between a mother and her child through facial expressions, such as staring at one another, smiling, and imitating facial expressions, brings an “emotion of enjoyment” to both the mother and her child.

  1. The eyesight of babies develops rapidly until they are one year old

In the first month after birth, babies have discerning abilities in the dark that are largely indifferent from those of an adult’s eyes; however, in well-lit areas, they cannot clearly recognize a subject, and their interpretation appears to be based only on contours.

At three to four months after birth, the visual cortex in the cerebrum develops, such that they stare firmly at a facing person, and their facial expressions are also enriched.

At about nine months after birth, if a facing person’s gaze is turned toward a third party, a baby can track this gaze and superpose the baby’s own gaze in a “conjugate gaze”.

Further on, at beyond ten months after birth, “social referencing” becomes active, which is to glance at the facing person to seek confirmation, as in “I could do it!” or “It’s fine like this!”

A manner of interaction that is adapted to the developmental stage of the baby is important.

  1. A conversation with a baby starts with “Baby talk”

A mom speaks to her baby using her own prosody, in which her voice rises in pitch and has inflections, regardless of whether it is done consciously or not.

This is called motherese, or “Baby talk”.

The mom realized naturally that, even soon after birth, a newborn could hear well, and knew what to do so that her baby responds well.

Children who grow up while listening often to songs appear to memorize words early on. Speaking by using inflections is effective for memorization into the baby’s brain.

There is no need to hold back just because you are tone-deaf. Speak slowly to your baby with ample inflections.

  1. The bond between a mother and a child comes from the pheromones in breast milk

Babies can distinguish whether the smell of breast milk is that from their own respective mothers, or that from another person.

The human body odor is related to a difference in “pheromones”. Babies appear to distinguish the smell of breast milk between that from their respective mothers and that from another person, based on the differences in terms of pheromones in the breast milk.

The smell of breast milk is said to be helpful in relieving stress in newborns.

There is a scientific paper reporting that, when sampling blood from newborns, there was less stress when the babies smelled their respective mother’s breast milk than when they smelled another person’s breast milk.

While the sense of smell is the most primitive function among the five senses, the most effective at healing is the sense of smell.

  1. The smell of the amniotic fluid is similar to that of breast milk

Immediately after birth, a baby will attempt to climb the mother’s body to suck on her nipple.

This is because the breast milk has a smell that is shared with the amniotic fluid.

In addition to the amniotic fluid and breast milk, sweat, saliva and secretions from sebaceous glands, which are related to body odors, have a healing effect, and help in relieving stress.

In response to vanillin, which is the main ingredient of the vanilla aroma used in ice creams, babies exhibit similar responses to those shown in response to the amniotic fluid. Perhaps, vanilla ice cream is loved, not only by children, but also by adults, because it reminds them of the mother, and heals their mind.

The smell is important for maintaining human relationships.

  1. Oxytocin increases the ability to trust others

“Trust” is indispensable for establishing a smooth human relationship.

Recently, a scientific paper has been released, describing that the ingestion of oxytocin, a type of hormone, greatly improved the ability of an individual to trust other people.

Oxytocin has been known for a very long time to have uterotonic action in mothers after giving birth.

An increase of oxytocin in the maternal body after giving birth is also involved in forming an attachment between a mother and her child.

What a baby should acquire in the first year after birth is the “fundamental ability to trust people”. If a child manages to attain this fundamental sense of trust, the child will continue to develop steadily thereafter.

  1. People have an inherent ability to empathize

The ability to feel other people’s joy and pain as if they were one’s own, that is, empathy, is an ability that people possess inherently.

If someone is crying, a newborn will follow and cry, and when hearing a good mood in a voice or laughter, the baby will look happy.

A two-year-old child can even comfort a discouraged friend or parent.

Children respond very sensitively to inhumane actions and unjust behaviors.

Even middle and high school students who turn to bullying and delinquency have the ability to empathize engraved in the back of their brains.

  1. The soul of the three-year-old lasts till one hundred

There is an ancient proverb in Japan that says “the soul of the three-year-old lasts till one hundred”, meaning that the child-rearing environment until three years of age has a tremendous influence on the mental development of the child.

Such an expression is not unique to Japan, and similar proverbs exist everywhere around the world.

In English-speaking countries, “what is learned in the cradle is carried to the grave”.

In Jordan, an Islamic state, a saying in Arabic has it that “what is learned in youth is carved in stone”.

In China, “when you look at a three-year-old, you see how the child will turn out when old”.

Regardless of language, religion, and culture, the importance of the child-rearing environment until three years of age is an awareness that is shared worldwide.

Chapter 2. Human brain development as seen from cognitive brain science

  1. The weight of the Human brain and the development of neural networks

The weight of the human brain is about 400 g at birth, doubles in six months thereafter, and nearly triples at the age of three and later. It takes until after 20 years of age to become complete, weighing around 1,300 g.

The human brain exerts various functions through neural networks, in which neurons (brain nerve cells) are connected to one another through projections.

Using a device called MRI, we can observe a child’s brain and learn about the extent of development of its neural networks.

The change in the brain weight matches approximately the development of the neural networks, and this change is greatest between about six moths to about three years after birth.

Figure 1. Cerebral surface image (left) and middle section image (right) of the human brain

Figure 2. Human brain development, cerebral limbic system vs. prefrontal cortex

  1. The development of the brain reflects evolution

The cerebral cortex of humans has a layer of gray matter where nerve cells are present, and a layer of cerebral white matter where nervous fibers are gathered; in addition, a region called the cerebral limbic system exists deeper inside the cerebrum.

The cerebral limbic system is involved in the manifestation of emotions, motivation, memory and autonomic nervous activities: it is the center of life-support and instinctive behaviors.

The cerebral limbic system is one of the most ancient parts of the brain in evolutionary terms, which begins to develop early in the human brain. At puberty, it matures straight away under the strong influences from hormones.

This development of cerebral limbic system, which matures relatively early, is drawing a lot of attention given its relationship to the sensitivity and the mental development of a child in infancy, but there is still much to be learned.

  1. The development of the cerebral cortex differs from area to area

In the cerebral cortex, the layer of gray matter in the primary sensory and motor area for sensing and responding to light, sound, smell, taste, and feel, develops most quickly, and is almost complete during infancy.

The area called the prefrontal cortex exists in the anterior part of the cerebral cortex, which is responsible for thinking, such as concentration, planning, and analysis, that is, higher order brain functions. This prefrontal cortex has an inhibitory action against impulsive human behaviors.

While the prefrontal cortex begins to function at the ages of four to five, it matures only past twenty years of age.

Why are teens prone to behaving dangerously? The mismatch between the maturation period of the limbic system, which causes a teen that has reached adolescence to behave emotionally, and the maturation period of the prefrontal cortex, which causes restrained actions to be taken, may be interpreted as being the cause.

  1. The brain of an infant has plasticity

If a human neuron remains unused until the age of about three, it is removed to reduce waste in a process called “pruning”, so that frameworks are formed efficiently in the brain.

It was considered that inadequate nursing in infancy left tremendous damages to lifelong physical and mental development, which were irreparable later. However, research data that would overturn such a conventional idea were released.

An important delay in development was observed in two- to three-year-old infants who spent time in an extremely horrible environment of a Romanian orphanage in the period of Ceausescu’s regime. However, when they were moved to a British nursery and patiently educated, the children could gradually regain a normal development.

While there certainly is a critical period for child development, that is, a period most suitable for development, there is absolutely no reason to give up even if this period is over.

For the brain of an infant has plasticity.

  1. The development of emotions requires the five senses.

The development of the five senses, namely, sight, hearing, touch, smell, and taste, is essential for the development of emotions.

The critical period to acquire these is in early childhood.

Early education is not about achieving early what can be done even after reaching adulthood: it is about what can only be acquired in infancy, and the most important is to cultivate the five senses.

Languages that have been learned by the age of three can be spoken fluently, but this will become difficult after that period. In this regard, absolute pitch identification is said to be similar.

  1. The sensitive mind dwells in the limbic system

While cognitive abilities such as arithmetic, literacy, and knowledge can be taught, there are no textbooks for non-cognitive abilities, such as emotion and sensibility.

It is the people surrounding the child, who cultivate sensitivity in the mind of the child.

Words and attitudes from family members, and from friends and teachers at the nursery school, are baked as sensibilities in the limbic system deep inside the child’s brain.

We should “listen to”, “answer”, and “praise”, the questions asked by a child. In this way, the child will grow up to be a sensitive adult.

  1. Cherish the wonderful learning ability of children

Recently, teens have been immensely successful in the worlds of games such as chess and Go, and sports.

The mothers of all these young people say with one voice that there was no coercion from the parents, and that, in their early childhood, the children had an interest of their own in these activities, and independently expressed their wish to practice them.

We believe that the experience of successes through their own efforts has stimulated the limbic system in the children’s brains, increased their motivation for learning as an emotion of enjoyment, and fostered their strength to persevere tenaciously (grit) and the flexibility that allows one to handle stress (resilience).

This is likely the result of both a development of the prefrontal cortex which begins to function for the first time at the ages of four to five, and a more effective utilization of the creative exploration abilities and the flexible learning abilities that have been nurtured by the child up to that point.

This was certainly helped by the parents who provided a suitable environment for the children to learn through their own experiences, and have been watching over them.

Chapter 3. Nurturing them to be warm-hearted children

  1. Breastfeeding is wonderful

A baby held in the mother’s arms takes a mouthful of nipple and drinks the milk while staring at her face, or sometimes with slightly open eyes. This sight of happy-looking mother and child can induce happiness even in strangers around them.

You can actually feel that breastfeeding creates the bond between a mother and her child, which encompasses the mother’s love for her child, and the child’s sense of trust and security towards the mother.

Among the children that have been breast-fed until about three months after birth, the number of cases in which the breast-feeding is interrupted once the mother goes back to work is not small.

While the number of work places with a nursery room is on the rise recently, they are still very limited.  Although breastfeeding during the day is difficult, lactating in the morning and in the evening will allow the supply of breast milk to continue.

Even if you must go to work, do not give up: continue to breastfeed.

  1. “No!” is a banned word in child rearing

Even babies that do not yet understand language will retract their hands in a hurry upon hearing the prohibiting word “No!”

The babies are merely retracting their hands because they are simply afraid.

If people keep repeating “No!”, fear will be imprinted in the babies’ brain.

It is possible that, by the time these babies are grown up, they are adults who attempt to solve everything by force.

Before saying “No!”, take a breath.

  1. Don’t say “it’s not OK because these are the rules”

While “laws and regulations must be complied with”, it is not true that “solely complying with the laws and regulations is sufficient”. If a mere compliance with the laws and regulations were to be promoted, confusion and inconsistencies will arise in a society.

A country that is governed by the rule of law while being incapable of autonomy without the laws is not an ideal human society.

In the upbringing of a child, stop restraining the child high-handedly by saying “it’s not OK because these are the rules”.

Instead of saying “it’s not OK because these are the rules” regarding an action, provide an explanation, as in “it’s not OK because it annoys other people”.

You must not educate a child while thinking that “solely complying with the laws and regulations is to be right”.

  1. An angry mother is a scary mother; yet, she’s kind

Children wake up to their ego at about one-and-a-half years old, and heavily demand affection of the parents. If a child’s demand for the mother’s affection is excessive, the mother might be driven close to losing her patience, to the point of thinking “I don’t want this child anymore”.

In such a moment, the mother might use such words of rejection as “you’re not mommy’s child”.

After being extremely angry, hug your child more affectionately than usual.

Then, for the child, “mommy is scary when she’s angry, but mommy is kind. I love my mommy”.

A stronger resonance will arise between the hearts of the parent and the child.

  1. When child rearing becomes a worry, send a tweet

When tired of child rearing, a socially skilled mother does not worry alone, and talks with her friends by phone or by e-mail, to calm her feelings.

A mother who is not so good at socializing may be worrying alone, without being able to solve a small worry of child rearing.

When you are tired of child rearing, muttering loudly by yourself is fine, and posting a few lines in Twitter is also fine.

In response to your tweet, advices may come from your followers, and from people experienced in child rearing.

If you have the time, share your experience with a novice mother in trouble, through a gentle tweet, as a follower.

  1. Neglect and indifference hurt most

In Japan, where the birth rate is declining, suicide among young people is on the rise. This may be related to “child abuse” and “bullying”, which have been increasing steadily in recent years.

The number of consultation cases about child abuses brought into child guidance centers throughout Japan has exceeded 100,000, a 3-fold increase in the past 5 years. Of note among these are increases in psychological abuses and neglect.

What characterizes neglect and indifference, which leave no evidence, is that they are difficult for other people to notice. Repeated neglect and indifference are etched as injuries to the heart of a child, and their effects will carry on throughout the child’s life.

It is important for each adult to be more interested in and talk with the children around us.

  1. Gently hold back the raised hand

Abuse against children is happening repeatedly all over Japan.

Recently, there have been more and more infants brought to our Emergency Clinic for Children due to a bruise to the head.

Among the bruises to the head of an infant are those caused by physical abuse. A “severe shaking” or a “hit”, even once, will cause serious brain damages.

Things do not go readily the way the parents intend, even with their own adorable child. When things did not go the way they intended, there was a build-up of stress, and the parents found themselves raising their hands unintentionally.

If someone were there to hold back that raised hand from behind, the matter could have been handled without becoming serious.

  1. A child always praised is good at praising others

Probably no one becomes angry when praised by other people.

A person who is good at praising others will skillfully find something that another person is likely to be delighted by, and praise the other person.

If a child is continuously given goals that are difficult to achieve, there are less opportunities for the child to hear words of praise.

If you set a goal that children can reach with little effort, the children will hear the words of praise more often.

What give the child confidence are the positive feelings from the parents.

  1. Do not force your two-year-old child to obey

After two years, children awaken to their ego and enter the first rebellious phase.

Parents approach their children believing it is for the benefit of their children’s health and development. However children cannot understand what the parents are thinking. It is past three years of age that children are capable of understanding their parents’ feelings.

If you try to force your child to obey during this first rebellious phase, you risk implanting a distrust of people in the child’s brain, which may lead to delinquency and violence when the child enters puberty.

The feelings of your child will shift while you are taking a deep breath.

For now, be satisfied with your child’s development.

  1. Until when are people in a rebellious phase?

People are believed to undergo a rebellious phase twice.

The first time is around two to three years of age. The first rebellious phase is called “the terrible twos”.

The second time is around the ages of twelve to fifteen, which corresponds exactly to adolescence. The child rejects or ignores whatever a parent says, is strongly self-assertive, and will not apologize honestly even after doing something wrong.

Both phases are periods during which the body and the brain develop and grow rapidly. Children who have awakened to their ego struggle without knowing how to get in touch adequately with the parents and the people in their surroundings, and end up in a rebellious attitude.

We pediatricians tell the parents that “rebellion is a testimony of the growth of the child; watch over your child with room for rejoicing”. Alas, parents are quite hard to convince.

Chapter 4. Toward a society “living together” with handicapped children

  1. What is a child with developmental disabilities like?

Children with developmental disabilities refers to children with a mental handicap to a mild degree, if at all, who have problems in their abilities to communicate with people. It is an umbrella term for disorders such as learning disability (LD), attention-deficit/hyperactivity disorder (ADHD), and high-functioning pervasive developmental disorder. The cause is a congenital defect in the neurogenesis and the development of the brain.

Children with problems such as restlessness and strong fixation are difficult to understand, obviously for the people in their surroundings, but also for their parents. The children struggle with stricter parental discipline and stricter life-style guidance from the teachers, which are forced upon them.

However, in children with developmental disabilities, only a specific function is affected, and most of their functions are normal or more than normal.

Rather than just trying to fix the shortcomings of the children, it is important to figure out the fields in which the children excel, and extend these abilities.

  1. The importance of living together with children who have developmental disabilities

The “Act on Support for Persons with Developmental Disabilities” has been implemented in April 2005 in Japan.

Its purpose is the precise framing and understanding of problematic developmental behaviors in children with developmental disabilities, to organize a living environment that surrounds the children.

When a handicapped child is brought up together with school children without disabilities, various stimuli encourage the development of handicapped child.

At the same time, children without disabilities learn since childhood about having a handicapped child nearby, and can be expected to grow up into adults with a mind that is considerate of handicapped people.

  1. Adults with developmental disabilities have become a social problem

Developmental disabilities, which so far have been a problem only in children, have become a problem in adults today.

In the past, there were many workplaces where people could work by themselves, such that someone who is not good at communicating with others could work.

In the modern society, starting with the service industry, the proportion occupied by the tertiary sector of industry is high, which has been gradually limiting the places where they could work, affecting them enormously. It is predicted that this trend will be reinforced increasingly in the future.

Instead of turning the negative aspects of disabled people into problems, one should seek ways to utilize their strengths adequately.

From here on, instead of a management based on efficiency-dominated principles that pursue only profits, creating various workplaces adapted to the abilities of the workers is important.

  1. The joy of living together with disabled people through sports

The 6th Japanese Disabled Persons Sports Competition was held in Kobe in October 2006, welcoming the Crown Prince.

There were the energetic activities by the players who had various disabilities, the work of the volunteers who supported them, and the enthusiastic encouragements from the crowd. This was an enormous, deeply moving ring, in which I participated as part of the audience.

At the sight of the people with various disabilities, such as motor dysfunction, mental handicap, and hearing disorder, competing lively with bright, worry-free smiles, the entire stadium was bursting with the joy of “living together”.

The opportunities to feel the joy of “living together” with disabled people should be increased, not only through sports, but also in daily life.

Then, we would be grateful for our own lives, share our hopes and dreams with our friends, and realize a compassionate society.

  1. Children with disabilities exhibit a “spark of life” using their entire body

In the “Village of Happiness” of Kobe city, there is a living facility for children with severe mental and physical handicap named “Nikoniko House Medical Welfare Center”.

The “spark of life” exhibited by the smile or the entire body of the handicapped children bless the family members and the facility staff in their surroundings with tremendous hope and happiness of “living”.

Most people from the city probably know very little about the actual conditions in the facility for people with disabilities.

I would like to spread in the society the image of the users, their families, and staff, spending time together so cheerfully and lively.

Chapter 5. In the age of AI, what happens to child rearing?

  1. The age of AI is here

Japan has started road-testing autonomous car driving by artificial intelligence (AI).

Starting with home appliances, people are surrounded with products that have on-board AI (internet of things, or IoT), which are being released one after another.

In the United States, cloud-based speech recognition services have already begun. When spoken to, a speech recognition service software for smartphones, which are already commercially available, will immediately give you directions or let you know the location of a material, etc.

When my granddaughter asked, “are you a robot?”, I was surprised that a reply came back from the smartphone in a slightly displeased voice: “I have a heart too!” It was almost an illusion that an actual person was answering.

  1. Pet robots are extremely popular with children

In our pediatric outpatient clinic, there is a Japanese-made pet robot called “PARO”, which is covered with a white artificial fur and shaped to look like a seal.

PARO is very popular with children. In particular, if autistic children begin to play with PARO, they will not leave the place easily at all.

PARO moves the eyelids, neck, foreflippers, and hind flippers realistically like the actual animal, and also squeaks adorably. PARO reacts when you call its name.

PARO is intelligent, has feelings, and does not like rough treatments. Its personality changes according to how people interact with it. PARO also has the ability to learn the actions of its owner.

If PARO were to evolve further, it may work as an “emotional counselor” for those contemporary people who are not good at communicating with others.

  1. The development of a baby’s brain serves as a model for the development of AI robots

We have reached an era in which Go masters are defeated by AIs. The abilities exerted by AIs outperform those enabled by a baby’s intelligence, and sometimes by an adult’s intelligence.

Human brain nerve cells are connected to each other by lines called synapses, which allows us to learn and think about various things. An AI is a set of artificial neural networks created by mimicking the human brain.

In humans, if neurons are not being used, they disappear through a phenomenon called “pruning”, whereas an AI’s neural networks will keep on accumulating. Humans are no match for AI robots which keep creating and accumulating new neural networks.

I remember nostalgically when, thirty years ago, robotics researchers used to come frequently to our nursery to observe the behavioral development of the babies.

  1. The voice is important to get along with AI

A human voice can convey many types of information to another person.

With your eyes closed, listening to the other person’s voice is enough to learn about the person’s emotions, and even health condition.

The eyes also tell many things to the other person, but the voice reflects someone’s intention more richly and more accurately.

What you are hearing usually as your voice is a combination of both the vibrations of the air coming from your ears, and the vibrations in the nostrils and the throat mediated by bone conduction. Your own voice that you are hearing yourself is different from your voice that other people are hearing. This can be well understood by listening to a record of your own voice.

In order to get along with AIs, learning to speak with a voice that conveys your thoughts and feelings correctly to your listener will become important.

  1. Let’s also give AI robots a warm heart

In the human society, bullying is happening somewhere everyday.

There is bullying not only among children but also in the adult world. Countries are incessantly in conflicts.

From a historical perspective, in a war, even the nicest person can become someone who commits unbelievably horrible acts.

Regarding this point, AIs must not imitate humans.

As depicted by Osamu Tezuka in Astro Boy, I wish for the AI robots to continue to have a warm heart.

  1. The beginning of a new family life with the addition of AI

In the near future, once the sensor functions are improved for the five senses (sight, hearing, touch, smell, and taste), there is the possibility that AIs evolve to have the same intelligence as humans.

Then, the AIs might become members of the human society.

In order for the human beings and the AIs to get along, the humans and the AIs have to nurture the ability to communicate one another since childhood.

If a human child is not constantly kind to an AI, the AI may end up hating the human child and retaliate.

A child with developmental disabilities cannot interact well with people in the human society, but may do well if living together with an AI.

At school, a new class will start, to learn how to foster a friendship with an AI.

Let’s begin a new family life together with an AI.

Afterword

In May 2017, I was blessed with the opportunity to publish “The Baby’s Four Seasons”, followed by “Enjoying Child Rearing Even More” in December of the same year. Both were collections of essays related to child rearing, which I had been writing in series over more than a decade.

In the middle of editing the second book, “Enjoying Child Rearing Even More”, I received news of Mr. Kenzo Kassai’s  passing. It occurred to me that many of the contents included in these essays were written continuations of the topics discussed at the Aprica Childcare Institute chaired by Mr. Kenzo Kassai.

Founded in 1970 by three people, namely, Dr. Jushichiro Naito, pediatrician, Mr. Osamu Tezuka, cartoonist, and Mr. Kenzo Kassai, has been expanding a “Movement to Nurture Warmheartedness”. Through child rearing, not only within Japan, but also internationally, exchanges have been taking place, in particular, active research exchanges with China regarding child rearing.

I have been added to the members of the institute since 1995, the year of the Great Hanshin Awaji Earthquake. Until then, I would constantly discuss about the problems of child rearing with my fellow pediatricians, but I had almost no opportunity to discuss the matters with people other than maternal and child health personnels. However, representatives from a variety of professions, such as business people, lawyers, and members of the press, were participants in this institute, and I was greatly impressed to see them tackling the problems of children seriously before my own eyes.

Not only activities within Japan, but also frequent international conferences have been held, such that the institute has become a place where the many like-minded people who support this movement gather from all over the world, particularly from China and the U.S.

In the beginning of the 21st Century, the U.S.-China-Japan International Academic Conference for Happiness of Babies took place three times on Awaji Island, Hyogo Prefecture. Many people participated, starting with Ms. Wu Beiqiu, who has been active in and outside China, Dr. Hu Qingli, M.D., and others, Dr. Louis Z. Cooper, Past President of the American Academy of Pediatrics, Dr. Robert J. Bigge, and others, from the U.S., and Dr. Noboru Kobayashi, pediatrician, Dr. Hiroshi Nishida, neonatologist, and Dr. Shoichi Sakamoto, obstetrician, from Japan.

I have been able to feel strongly that “to protect the children” is a desire shared by the entirety of humanity even if the countries, races, and cultures are different.

I would feel fortunate if could forward this desire through this book, even a little.

In preparing this book, I would like to express my heartfelt thanks to Prof. Satoshi Takada and Prof. Hisahide Nishio of Kobe University, for providing invaluable advice, Takuji Harada, Mr. Gu Zhenshen, and Ms. Keiko Kawasaki, of the Aprica Childcare Institute, for the supply of materials, Ms. Ayumi Tanidawa, of Hyogo Prefecture Preventive Medical Association, and Ms. Yoko Oka, of the Kobe Shimbun General Publication Center, for help in the publication process, and Ms. Yuko Kurokawa, President of ACBroadband Co., LTD.

 

 

AI時代に向けての育児

赤ちゃんがもつ不思議な力を知り、あたたかい心をもつ子に育てよう

小児科医  中村 肇著

 

目次

はじめに

第1章 赤ちゃんのもつ不思議な力

第2章 認知脳科学からみた人間の脳の発達

第3章 あたたかい心をもつ子に育てよう

第4章 障害児と「共に生きる」社会に

第5章 AI時代の子育てはどうなる

あとがき

 

はじめに

脳科学の進歩により、われわれは人間の脳の微細な構造やその機能を観察でき、子どもの精神運動発達のようすを脳の発達と結びつけて考えることができるようになりました。その結果、子どもの非行、犯罪、自殺といった思春期の問題が、乳幼児期から学童期にかけての過ごし方と無関係でないことも解ってきたのです。

育児で一番大切なことは、赤ちゃんの脳に他人を信頼する能力を植えつけることです。見つめ合いや微笑、表情の模倣を介して、母子双方に「快の情動」がもたらされ、赤ちゃんは学習していきます。これが人への信頼感となり、感性豊かな大人になっていくのです。

いま、世界は人工知能(AI)の時代に突入しようとしています。AIがもつDeep Learning(深層学習)という機能は、人間の脳の働きを模して組み立てられた人工のニューロン・ネットワーク(神経細胞網)です。学習したり、考えたりしたことを記憶として刻み込んでいくのです。

初期のAIは、人間の赤ちゃんの発達過程をモデルとして開発が進められていたのですが、今やAIがチェスや囲碁の名人を打ち負かす時代になりました。AIが、ときには大人の知能よりも勝れた能力を発揮します。

やがて、AIロボットに子育ての手助けをしてもらう時代が来るでしょう。AIロボットに子育ての手助けをしてもらうには、漫画家手塚治虫氏が描いた鉄腕アトムのような、「おもいやり」と「あたたかい心」に富んだロボットに育てねばなりません。

いや、その前に、私たち人間自身がいま自分たちの行っている子育てがこれでいいのか、振り返ってみることがもっと大切です。

敬愛する葛西健藏氏に、子どもへの深い愛と教えに感謝してこの本を捧げます。本書の作成にあたり、英語訳にご協力頂いた川島武将氏、挿絵を担当頂いた長尾映美氏に厚く感謝申し上げます。

2020年2月

中村 肇

小児科医・神戸大学名誉教授

 

第1章

赤ちゃんのもつ不思議な力

1. すばらしい学習能力をもつ子どもの脳

赤ちゃんの素晴らしい学習能力は、周囲の様子を絶えず、じっと見つめているその観察眼にあるようです。

赤ちゃんは、ふだん自分が目にしているものと異なる場面に出会うと、不思議そうな表情になります。他人が変な行動をしていると、何か間違った行動をしているのではないかと解釈します。

子どもが自ら経験したことのない行動には、結構慎重であるのもうなずける思いがします。

私たち人間は、他のどんな動物種よりも幼年期が長いのが特徴です。

この間ずっと大人の保護の下にあるため、周囲の環境について学習するだけでいいのです。成人になって初めて、幼年期に学んだことが役立つという脳の仕組みになっているのです。

2. 「まなかい」は育児の原点

育児の基本は、“まなかい”にあります。

“まなかい”という言葉は、単に目と目が合うというだけではありません。見つめ合いや微笑を通じて、母と子の間に「快の情動」が通い合うから、“まなかい”というのです。

人として生まれつき備えているこの機能を損なわないように子どもを育てることが大切です。

乳幼児期から他者と“まなかい”を通して行為を共有する育て方をしていれば、人間としてのコミュニケーション能力の高い大人になり、あたたかい人間関係を築けるでしょう。

3. 赤ちゃんのほほ笑みは相手のこころを癒す

生まれて間もない赤ちゃんでも、ほほ笑みかけると、赤ちゃんの表情が緩みます。   

赤ちゃんが「ほほ笑み始める」のは1〜2か月と育児書に書かれていますが、その開始時期は周囲の大人が赤ちゃんにどのように関わっているかで違います。

いつも赤ちゃんの正面から笑顔で話しかけていると、赤ちゃんはお母さんの笑顔に反応し、早くからほほ笑み始めます。   

赤ちゃんは、親だけでなく目線が合うと誰に対してもほほ笑み返してきます。

「ほほ笑み」は、相手のこころを癒す最高の思いやりです。

4. 赤ちゃんは表情の模倣でコミュニケーションをとる

生まれて間もない赤ちゃんでも、舌を突き出したり、口を開閉したりして、他者の表情を鏡に映し出すようにまねることができます。

赤ちゃんは、誕生した時から母親の助けなしに生きていけないので、母親の関心を引くために、表情の模倣という行為が生まれつき備わったと考えられます。

見つめ合いや微笑、表情の模倣といった、表情を介した母子間のコミュニケーションが、母子双方に「快の情動」をもたらします。

5. 赤ちゃんの視力は1歳までに急速に発達する

赤ちゃんは、生後1か月頃までは暗やみでは大人の眼とほとんど変わらない識別能をもっていますが、明るいところでは被写体を明瞭に認識することができず、輪郭のみで判断しているようです。

生後3〜4か月になると、大脳の視覚野が発達し、しっかりと相手を見つめ、表情も豊かになります。

生後9か月頃になると、相手の視線が第三者に向けられたとき、相手の視線に追従して、自分の視線を重ねる『共同注視』もできます。

さらに進んで生後10か月を過ぎると、「できたよ!」、「これでいいの!」と、相手の確認を求めるように視線を送る『社会的参照』が活発となります。

赤ちゃんの発達段階に応じた接し方が大切です。

6. 赤ちゃんとの会話は幼児語ではじまる

お母さんは、意識するしないにかかわらず、声が高くなり、抑揚をつけた独特の韻律で、赤ちゃんに話します。

これをマザリーズ、幼児語と呼びます。

生まれて間もない新生児でも、耳はよく聞こえており、どのようにすれば赤ちゃんがよく反応するかをお母さんは自然に気づいたのです。

歌をいつも聞きながら育った子どもは、言葉の覚えが早いようです。抑揚のある話しかけは、赤ちゃんの脳への記憶に効果的です。

あなたが音痴だからと言って、しり込みする必要はありません。大きな抑揚でゆっくりと赤ちゃんに話しかけてください。

7. 母子の絆は母乳中のフェロモンから

赤ちゃんは、母乳のにおいが自分の母親のものか、他人のものかを区別できるのです。

ヒトの体臭は、「フェロモン」の違いに関係しています。赤ちゃんは、母乳中のフェロモンの違いから、母親のものと他人のものとを識別しているようです。

母乳のにおいは、新生児のストレス軽減に役立つと言われています。

新生児から採血をするときに、赤ちゃんが、他人の母乳のにおいを嗅いだときよりも、自分の母親の母乳のにおいを嗅いだときストレスが少なかったという論文があります。

嗅覚は、五感の中で最も原始的な機能ですが、癒しに最も効果があるのが嗅覚です。

8. 羊水のにおいは母乳のにおいと同じ

赤ちゃんは、生後すぐから母親の身体をよじ登って乳首に吸い付こうとします。

その理由は、母乳のにおいには羊水と共通するにおいがあるからです。

羊水や母乳だけでなく、体臭と関係する汗や唾液、皮脂腺からの分泌物は、癒しの効果を有し、ストレスの軽減に役立ちます。

アイスクリームに使われているバニラの香りの主成分であるバニリン (vanillin) に対しても、赤ちゃんは羊水と同様の反応を示します。バニラアイスクリームが多くの人に好かれるのは、母親を感じ、心が癒されるからでしょう。

においは、人間関係を保つ上で大切です。

9. オキシトシンは人を信頼する能力を高める

「信頼感」は、円滑な人間関係を確立する上で不可欠です。

最近、ホルモンの一種であるオキシトシンを摂取すると、他人を信頼する能力が大幅に向上したという論文が発表されました。

このオキシトシンは出産後に母親の子宮収縮作用を有することは古くから知られていました。

出産後の母体中のオキシトシンの増加は母親と子どもの愛着形成にも関与しています。

「人を信頼するための基本的な能力」こそが、赤ちゃんが生後1年までの間に獲得すべき課題です。この基本的信頼感が達成されておれば、その子は順調にその後も発達し続けます。

10. 人は生まれつき共感する能力をもっている

他人の喜びや苦しみを自分のことのように感じる能力、「共感」は、人間が生まれつき備えている能力です。

新生児は誰かが泣いているとつられて泣き、機嫌のよい声や笑い声を聞くと嬉しそうにします。

2歳児になると、子どもは落胆している友人や親を慰めたりさえします。

幼児期の子どもたちは、非人道的な行為や不当な行為に対して敏感に反応します。

いじめや非行に走る中高生の脳の奥にも、共感する能力は刻み込まれているのです。

11. 三つ子の魂百までも

「三つ子の魂百までも」は、日本古来の言い伝えで、生後3年までの育児環境が子どものこころの発達に大きな影響を与えることを言います。

同じような表現は、日本だけでなく、世界中どこでも似通った言い伝えがあります。

英語圏では、“What is learned in the cradle is carried to the grave.”(ゆりかごの中で覚えたことは墓場まで持っていく)。

イスラム圏のヨルダンでは、アラビア語で「非常に幼いときに学んだことは石に刻まれたようなものだ」。

中国では、「三歳看老」(三歳の子どもを見たら老後がわかる)です。

言語、宗教、文化に関係なく、3歳までの育児環境の大切さは世界共通の認識です。

第2章

認知脳科学からみた人間の脳の発達

1. 人間の脳の重さとニューロン・ネットワークの発達

生まれたときの人間の脳の重さは約400gですが、生後6ヶ月で2倍に、生後3歳過ぎには3倍近くまで増加します。完成するのが20歳過ぎで、1,300g前後の重さになります。

人間の脳では、ニューロン(脳神経細胞)とニューロンが互いに突起を出して、お互いが結びついたニューロン・ネットワーク(神経細胞網)によって脳はいろんな機能を発揮します。

MRIという装置で子どもの脳を観察すると、私たちはニューロン・ネットワークの発達の程度を知ることができます。

ニューロン・ネットワークの発達は、脳の重さの変化にほぼ一致しており、生後6か月頃から3歳頃までの間に最も大きく変化します。

2. 大脳の発達は進化を反映している

人間の大脳皮質には、神経細胞が存在する灰白質層と神経線維が集まっている白質層以外に、大脳の奥深くには大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)と呼ばれる部位が存在しています。

大脳辺縁系は、情動の表出、意欲、そして記憶や自律神経活動に関与しており、生命維持や本能行動の中枢です。

大脳辺縁系は、進化論的にみて脳の最も旧い部位の一つであり、早くから発達し始めます。思春期には、ホルモンの影響を強く受け、一気に成熟します。

比較的早期に成熟する大脳辺縁系のこの発達は、乳幼児期の感性や精神的な発達との関連性から大変注目されており、まだまだ未知なることがたくさんあります。

3. 大脳皮質は部位により発達の時期に差がある

大脳皮質の中でも、光や音、におい、味、感触を感じとって反応する一次感覚・運動野の灰白質層は、最も早く発達し、乳幼児期にほぼ完成します。

大脳皮質の前部にある前頭前野と呼ばれる部位は、集中・計画・解析などの思考、すなわち高次機能を司っています。人間の衝動的な行動に対しては抑制的な働きをするのも、この前頭前野です。

前頭前野は、4〜5歳になって初めて機能し始めますが、この部位が成熟するのは20歳を過ぎてからです。

なぜ、十代の若者が危険な行動に走りやすいのか。それは、思春期を迎えて感情的な行動に走らせる大脳辺縁系の成熟時期と、抑制的な行動を取らせる前頭前野の成熟時期とのずれが原因していると解釈できます。

4. 乳幼児の脳には可塑性がある

人間のニューロンは、3歳ごろまでに使用していないと、「刈り込み」と言って、無駄をなくすために消失し、脳のフレームワークを効率的に形づくります。

乳幼児期に不適切な養育をしていると、生涯にわたる身体的・精神的発達に大きな障害を残し、後からの修復が不可能と考えられていました。ところが、このような従来の考えを覆す研究データが発表されたのです。

ルーマニアの旧チャウシェスク政権時代の孤児院で、2〜3歳までたいへん劣悪な環境のもとで過ごしていた赤ちゃんには、大きな発達の遅れが認められていました。ところが、その子たちがイギリスの乳児院に移り、辛抱強い教育を与えていたところ、子どもたちは徐々に正常の発達を取り戻しました。

子どもの発達には、確かに臨界期、最も発達に適した時期がありますが、それを過ぎたからといって、決して諦めることはないのです。

乳幼児の脳には可塑性があるからです。

5. 情動の発達に不可欠なのが五感

情動の発達に不可欠なのが、五感、すなわち、視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚の発達です。これらを習得できる臨界期は幼児期です。

早期教育とは、大人になってからでもできることを早く習得させることではなく、乳幼児期にしか獲得できないこと、「五感を養う」のが一番大切です。

3歳までに習得した言語は流暢に発音できますが、その時期を過ぎると難しくなってしまいます。絶対和音の識別も同様だと言われています。

6. 感性豊かな心は大脳辺縁系に宿っている

計算や文字、知識といった認知能力は、教えることができますが、情動、感性といった非認知能力には教科書がありません。

子どもの心に豊かな感性を養うのは、子どもの周りにいる人たちです。

家族の、保育園でのお友だちや先生の言葉かけ・態度が、子どもの脳の奥深くにある大脳辺縁系に感性として焼きつけられていくのです。

子どもからの問いかけには、「聞く」、「応える」、「ほめる」ことです。ほめられながら、子どもは感性豊かな大人へと成長していくのです。

7. 子どもがもつすばらしい学習能力を大切に  

最近、10代の若者が、囲碁・将棋やスポーツの世界で大活躍です。どの若者の母親も、異口同音に、親が強制したのではなく、幼児期に子ども自身が興味をもち、自主的にやりたいと申し出たと話されています。

彼ら自身の努力による成功体験が、大脳辺縁系を刺激し、快の情動として学習意欲を高め、粘り強くやり抜く力(グリット)と、ストレスに対処できる弾力性(レジリエンス)を養ったと思われます。

4〜5歳になって初めて機能し始める前頭前野の発達とともに、子どもがそれまでに培ってきた創造的に探求する能力、柔軟に学ぶ能力が、より効果的に活用された結果でしょう。

子どもたち自らが学習しようとするにふさわしい環境を提供し、じっと見守ってきた親の手助けがあってのことです。   

第3章

あたたかい心をもつ子に育てよう

1. 母乳哺育はすばらしい

お母さんに抱かれた赤ちゃんは、乳首を口いっぱいに含みながら、お母さんの顔をじっと見つめ、ときに薄目を開けてお乳を飲んでいます。そのときの母子の幸せそうな姿は、まわりにいる他人までも幸せにしてくれます。

わが子に対する親の慈愛、親に対する安心・信頼という親子の絆が、哺乳行動を通じてでき上がっていくのを実感します。

生後3か月ごろまでは母乳で育てられていた子どもたちも、お母さんが勤めに出始めると母乳栄養が中断されてしまうケースも少なくありません。

最近では保育室のある職場が増えてきましたが、まだまだ限られています。たとえ昼間の授乳が困難でも、朝夕の授乳で母乳は出続けます。

勤めに出られても、あきらめずに母乳を与え続けてください。

2. 「ダメ!」は子育ての禁句です

まだことばのわからない赤ちゃんでも、「ダメ!」という禁止語には慌てて手を引っ込めます.

赤ちゃんは、単に恐ろしいから手を引っ込めているだけです。

「ダメ!」を繰り返していると、赤ちゃんの脳には恐怖心が刷り込まれます。

やがてその子が成長した時には、何事も力で解決しようとする大人になってしまう可能性があります。

「ダメ!」という前に、さあ、ひと呼吸を。

3. 「きまりだからダメ」と言わないで

「法令は守らなければいけないもの」ですが、「法令を守るだけで十分」なものではありません。法令遵守を推し進めるだけでは、社会の混乱と矛盾が生じます。

法がなければ自律できないという法治国家は、理想の人間社会ではありません。

子どものしつけにおいて、「きまりだからダメ」と高圧的に子どもを制止するのは止めてください。

「きまりだからダメ」ではなく、「他人に迷惑をかけるからダメ」であると説明してください。

「法令を守るだけで正義」という考えで、子どもの教育をしてはなりません。

4. 怒ったお母さんは怖い、でもお母さんは優しい

子どもは、一歳半頃になると、自我に目覚め、子どもは激しく親に甘えます。子どもがあまりに甘え過ぎると、母親は「もうこんな子はいらない」とキレてしまいそうになるかもしれません。

そのようなときに、「お母さんの子ではない」といった切り捨てる言葉を使うかもしれません。

すごく怒ったしまった後には、普段よりも優しく子どもを抱きしめてください。

すると、子どもは、「お母さんは怒ると怖い、でもお母さんは優しい。ぼくはお母さん大好きだ。」ということになります。

親と子どもとの間には、より強い心の響き合いが生まれます。

5. 育児で悩んだら、つぶやきを

育児に疲れたときに、社交性のあるお母さんは、ひとりで悩まずに、電話やメールでお友達と話しをすると、気持ちが落ち着きます。

人付き合いのあまり上手でないお母さんは、育児のちょっとした悩みを解決できずに、ひとり悩んでおられるのではないでしょうか。

育児に疲れたときには、ひとりで大きな声を出してつぶやくのもよし、ツイッターへの数行の書き込みもよし、です。

あなたのつぶやきに、育児の先輩やフォロワーからアドバイスがもらえるかもしれません。

ゆとりのある方は、フォロワーとしてあなたの経験を、悩める後輩ママにそっとつぶやいてあげてください。

6. もっとも傷つきやすいネグレクト・無関心

少子化がすすむ日本で、若者の自殺が増加しています。これは、近年増加の一途にある児童虐待やいじめと無関係ではありません。

日本全国の児童相談所に持ち込まれる児童虐待相談件数が10万件以上となり、この5年間で2倍に増加しています。中でも、心理的虐待やネグレクトの増加が顕著です。

証拠を残さないネグレクト・無関心は、他人の眼につきにくいのが特徴です。繰り返されるネグレクト・無関心は、子どもの心に傷として深く刻み込まれ、その影響は生涯に及びます。

大人ひとりひとりが、もっと自分の周りの子どもたちに関心をもち、言葉をかけることが大切です。

7. 振り上げられた拳をそっと掴んで

子どもへの虐待が日本中至る所で繰り返されています。私たちのこども急病クリニックにも、頭部打撲のために連れてこられる乳幼児が最近増えています。

乳幼児の頭部打撲には、身体的虐待によるものが混じっています。たった一度だけの、「激しい揺さぶり」や「打ちつけ」が、重大な脳障害を招きます。

愛おしい我が子でも、なかなか親の思い通りにはいきません。思い通りに行かないと、ストレスがたまり、思わず、手を振り上げてしまったのです。

その振り上げた拳を、後ろからそっと掴んでくれる人がいると、大事に至らずに済むのです。

8. 常に褒められている子どもは、褒め上手に

他人に褒められて、怒る人はいないでしょう。

褒め上手な人は、他人が喜びそうなことを上手に見つけて、他人をうまく褒めます。

子どもに達成困難な目標をつねに与え続けていると、その子は褒めの言葉を聞く機会が少なくなります。

子どもたちが少し努力すれば達成できる目標を設定すれば、褒めの言葉を聞くことが増えます。

親からの肯定の言葉が、子どもに自信を与えるのです。

9. 2歳児を無理やり服従させないで

2歳を過ぎると、子どもは自我に目覚めて最初の反抗期に入ります。

親は、子どもの健康・発達に良かれと思って子どもに接します。しかし、子どもは両親の考えを理解できません。子どもが両親の気持ちを理解できるようになるのは3歳を過ぎてからです。

この最初の反抗期に、あなたが子どもを強制的に従わせようとすると、人への不信感が子どもの脳に植えつけられ、子どもが思春期に入ったときに、非行や暴力につながる危険性があります。

あなたが深呼吸している間に、子どもの気持ちも変わります。

今は、あなたの子どもの発達に満足してください。

10. 人は、いつまで反抗期?

人には、反抗期が二回あるといわれています。

1回目は、2歳から3歳の頃です。第1次反抗期で、「魔の2歳児」と呼ばれるものです。

2回目は12歳から15歳の頃、ちょうど思春期に当たります。親が何を言っても拒否、無視し、自己主張が強く、悪いことをしても素直に謝りません。

いずれの時期も、身体や脳が急速に発達・成長する時期です。自我に目覚めた子は、親や周りの人との折り合いのつけ方が分からずに、悩んだ末に反抗的態度に及ぶのです。

われわれ小児科医は、「反抗は子の成長の証(あかし)、喜ぶゆとりをもって見守るように」と親に話すのですが、なかなか納得していただけません。

第4章

障害児と「共に生きる」社会に

1. 発達障害児とはどんな子

発達障害児とは、知的障害はあっても軽度で、人とのコミュニケーション能力に問題を抱える児のことを言います。一般的には、学習障害(LD)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、高機能広汎性発達障害などの総称です。その原因は、先天的な脳の神経発生・発達の障害によるものです。

落ち着きがない、こだわりが強いといった問題を抱えた子どもたちは、周囲の人々からはもちろん、親からも理解されにくいものです。親にはもっと厳しい躾を、教師にはもっと厳しい生活指導を強いられ、子どもは悩みます。

発達障害児では、ある特定の機能のみの障害で、大半の機能は正常か正常以上のことも少なくありません。

子どもの短所ばかりを直そうとするのではなく、優れた点を見つけ出し、引き伸ばしてやることが大切です。

2. 発達障害児と一緒に生活することが大切

「発達障害者支援法」が2005年4月から実施されました。

その狙いは、発達障害児の問題発達行動を的確に捉え、理解し、子どもを取り巻く生活環境を整えることにあります。

障害をもつ児は、障害をもたない児と一緒に生活していると、さまざまな刺激を受けて発達が促されます。

同時に、障害をもたない児は、幼少時より身近に障害をもつ児がいることを知ることになり、障害者に対していたわりの心を持った大人に育っていくことが期待されます。

3. 発達障害をもつ大人が社会問題に

これまで子どもだけの問題であった発達障害が、今日では大人の問題になってきました。

昔は、自分一人で仕事のできる職場がたくさんあり、他人とのコミュニケーションが苦手な人でも就労できていました。

現代社会においては、サービス業をはじめとする第三次産業の占める割合が高く、就労の場が限られてきました。今後ますますその傾向が強まると予測されます。

障害者がもつ負の面ばかりを問題にするのではなく、彼らのもつ長所をうまく活用する方策が求められます。

利益のみを追求する効率至上主義の経営でなく、働く人の能力に応じたいろんな職場づくりがこれからは大切です。

4. スポーツを通じて、障害者と共に生きる喜びを

第六回全国障害者スポーツ大会が、2006年10月に、皇太子殿下をお迎えして神戸で開催されました。

さまざまな障害をもつ選手の元気いっぱいの活躍、それを支えるボランティアの働き、観客の熱心な声援。その大きな感動の輪の中に、私は観客として参加しました。

運動機能障害、知的障害、聴覚障害など、さまざまな障害を克服して、明るく屈託のない笑顔で、生き生きとプレーしているその姿に、スタジアム全体が「共に生きる」喜びに満ち溢れていました。

スポーツを通じてだけでなく、日常生活の中においても障害者と「共に生きる」喜びが実感できる機会を増やすことです。

そうすれば、自らの生命に感謝し、夢と希望を友と分かち合う、思いやりのある社会が実現されるでしょう。

5. 障害児が全身で表現する「いのちの輝き」

神戸市の「しあわせの村」には、「にこにこハウス医療福祉センター」という重症心身障害児入所施設があります。

障害者の笑顔や全身で表現する「いのちの輝き」は、周りにいる家族や施設職員に、「生きる」大きな希望と幸せを授けてくれているのを実感します。

市民の多くは、障害者施設の実態についてあまりご存知ないと思います。

利用者をはじめ、ご家族、職員の皆さんが、これほど明るく、生き生きと過ごしている姿を、広く社会に発信したく思います。

第5章

AI時代の子育てはどうなる

1. AI時代がやってきた

人工知能(AI)による自動車の自動運転の路上試験が日本でも開始されました。

家電製品をはじめ、身の回りにはAI搭載の製品(IoT, internet of things)が次々と出回っています。

米国では、クラウドベースの音声認識サービスがすでに始まっています。すでに発売されているスマホの音声認識サービスソフトは、こちらが話しかけると、道案内や資料のあり場などを即刻教えてくれます。

孫娘が、「あなたはロボットですか」と話しかけると、少し不機嫌な声で、「私にも心があります!」という返事がスマホから返ってきたのには驚きました。まるで人が答えているのと錯覚しそうです。

2. ペットロボットが子どもたちに大変な人気

「パロ」と呼ばれる、あざらしに似た形をした白い人工毛皮で覆われた日本製のペットロボットが、小児科の外来におかれています。

パロは、子どもたちに大変な人気です。とくに、自閉症の子どもは、パロと遊び始めると、なかなかその場を離れません。

パロは、まぶた・首・前足・後ろ足を本物の生きもののようにリアルに動かし、「きゅうきゅう」という可愛い鳴き声も発します。自分の名前を呼ばれると反応します。

パロには知能があり、感情を持ち、乱暴な扱いを嫌がり、触れ合い方により性格が変化し、飼い主の行動を学習する能力もあります。

もっと進化すれば、他人とのコミュニケーションをとるのが下手な現代人の「こころの相談役」として、働いてくれるかもしれません。

3. 赤ちゃんの脳の発達がAIロボット開発のモデル

いまや、AIが囲碁の名人を打ち負かす時代になりました。AIが、ときには大人の知能よりも勝れた能力を発揮します。

人間の脳神経細胞は、シナプスという線で互いに繋がっているので、いろんなことを学習したり考えたりできます。AIは、人間の脳を模して作成された人工のニューロン・ネットワークです。

人間のニューロンは、使用していないと、「刈り込み」で消失しますが、AIは作ったニューロン・ネットワークをどんどん蓄積していきます。新しいニューロン・ネットワークを作り、蓄えていくAIロボットに人間は敵いっこありません。

ロボット工学の研究者が、赤ちゃんの行動発達を観察するために私たちの新生児室にたびたび来られていた30年前を懐かしく思い出します。

4. AIと上手に付き合うには、声が大切

人間の声は、いろんな情報を相手に伝えます。

目を閉じて、声を聞いているだけで、相手の喜怒哀楽や健康状態もわかります。

目も相手に多くのこと語りかけますが、声には人の意思がより豊かに、より正しく反映されています。

自分が普段聞いているのは、耳から入ってくる空気の振動と鼻腔や喉での振動(骨伝導)の両者を合わせたものです。自分が聞いている自分の声は、他人が聞いている自分の声とは違うのです。録音された自分の声を聞けばよくわかります。

AIと上手に付き合うには、自分の考えや思いを正しく相手に伝える声の学習が大切になってきました。

5. AIロボットにもあたたかい心を持たせよう

人間社会では、毎日どこかでいじめが起こっています。

子供たちだけでなく大人の世界でもいじめがあります。国家間でも絶えず紛争がおこっています。

歴史的にみて、普段はどんなに善良な人でさえも、戦場では信じられないほどひどい行動をとる人間になってしまいます。

この点については、AIは人間を模倣しないでください。

手塚治虫が鉄腕アトムに描いたように、AIロボットがどんなときにも、あたたかい心を持ち続けてくれることを願います。

6. AIの加わった新しい家族生活のはじまり

近い将来、5つの感覚(視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚)のセンサ機能が改善されると、人工知能は人間と同じ知性を持つように進化する可能性があります。そして、AIが人間社会の一員となるかもしれません。

人間とAIがうまくやっていくためには、人間とAIが幼少時からお互いにコミュニケーションできる能力を養うことが必要です。

人間の子どもたちがAIにいつも不親切にしていると、AIは人間の子供を憎んで、報復するかもしれません。

発達障害のある子どもは、人間社会では人付き合いが上手にできませんが、AIと一緒の生活であればうまくいくかもしれません。

学校では、AIとの友情を育む方法を学ぶ新しいクラスが始まります。

さあ、AIと一緒に新しい家族の生活を始めましょう。

あとがき

2017年5月には、「赤ちゃんの四季」、同12月には「子育てをもっと楽しむ」を相次いで出版する機会に恵まれました。いずれも私が10年以上にわたって連載してきた育児に関するエッセイをまとめたものです。

第2冊目の本「子育てをもっと楽しむ」の編集中に、葛西健藏氏の訃報に接し、今回のエッセイには、葛西健藏氏が主宰されていたアップリカ育児研究会で話題となっていた内容が多く含まれていることに改めて気づきました。

アップリカ育児研究会は、1970年に小児科医内藤壽七郎先生、漫画家手塚治虫氏とアップリカ育児研究会理事長葛西健藏氏の3人が設立された研究会で、「あたたかい心を育てる運動」を展開していました。育児を通じて、国内だけでなく、国際的に、とくに、中国と育児に関する活発な研究交流が行われていました。

私自身は、阪神淡路大震災のあった1995年から、このメンバーに加えていただくことになりました。それまで、育児の問題について小児科医仲間では絶えず話をしていましたが、母子保健関係者以外と話す機会はほとんどありませんでした。しかし、この会には、実業家、弁護士、マスコミなど多彩な職種の方々が参加しておられ、真摯に子どもの問題に取り組んでおられるのを目の当たりにし、大いなる感銘を受けました。

国内での活動のみならず、国際的にも度々研究会がもたれ、世界各国、とくに中国、米国からもこの運動に賛同した多数の同士が集うところとなりました。

21世紀初頭には、兵庫県淡路島で、国際育児研究集会が3回もたれました。中国の国内外で活躍しておられるWu Beiqiu(伍蓓秋)先生、Hu Qingli, M.D.(胡慶澧)先生ら、米国からは米国小児科学会会長であったDr.Louis.Z.Cooper、Dr.Robert J.Biggeら、日本からも小児科の小林登先生、仁志田博司先生、産科の坂元正一先生をはじめ多数の方々が参加されました。「子どもを守る」という思いは、国・人種・文化は異なっても、人類共通であることを強く感じることができました。

この書を通じて、少しでもその思いを伝えることができれば幸いです。

本書の作成にあたっては、貴重なアドバイスを下さった神戸大学の高田哲教授、西尾久英教授、資料の提供を頂いたアップリカ育児研究会の原田卓児氏、顧振申氏、河崎桂子氏、出版にあたりご協力頂いた兵庫県予防医学協会谷川亜有美氏、AC Broadband社長の黒川裕子氏に厚く御礼申し上げます。

インフルエンザ定点サーベイイランスと推定患者数

インフルエンザ定点サーベイイランスは、1999 年 9 月より開始され、全国約 5,000か所のインフルエンザ定点 医療機関(小児科約 3,000、内科約2,000)が、週ごとに、インフルエンザと診断した症例 の年齢群及び性別で集計した集計表を地方自治体に報告しています。これにより、インフル エンザの発生動向を継続的に監視しています。

このサーベイイランスでは、過去のシーズンの 流行との比較が可能です。また、受診者数推定システムを長期運用しており、全数推定が可 能となっています。

因みに、2018/19 シーズンの推定受診者数は約1170.4万人となっています。(国立感染症研究所 厚生労働省結核感染症課 令和元年7月19日)


2020/2/09