144. スマホを上手に活用しよう

令和2年2月号  2020.1.28

  • 小学生のスマホ所有率は年々増加傾向にあり、2018年時点で小学生全体の45.9%がスマホを所持しており、特に、小学校高学年から中学入学にかけて所有率が高くなるようです。まだ小学三年生の孫娘は、学校から帰り、宿題を済ますと、祖母のiPadを取り上げ、YouTubeです。注意しないと何時間でも観ています。まだ、彼女はキッズ携帯しか持たされていないので、SNSやLINEには興味がなさそうです。やがて、小学校高学年になると、SNSに夢中になるに違いありません。最近では、子供のスマホで制限できる機能が豊富になっています。子どもに有害なサイトをブロックする「フィルタリング」以外にも、「アプリの利用制限」や「スマホ本体の利用時間帯の制限」「子供のスマホの利用状況のレポート機能」などもあります。子どもが、スマホ依存症にならないように、ネット上でのトラブルに巻き込まれないようにするには、家族の間でよく話し合った上で、「家族内ルールづくり」をし、買い与えることです。(令和2年2月号)

障害者との共生社会の実現を

この世に生を受けると、障害の有無は関係ありません。どんなに重度の障害があっても、親は我が子の命を守り、育み、人間としての尊厳を守るというのが人間社会の掟です。私自身がかつて接してきた多くの障害児は、親・家族に受容され、本人も・家族も幸せに暮らしておられました。大家族制度の中では、お互いの助け合いが日常的に行われ、障害児が生まれても家族みんなで支えあう生活ができたのです。

とはいえ、核家族化が進んだ現代社会では、障害児が一人生まれると、周りからの支援なしには、家族全体の生活を維持することが困難な時代となってしまったのです。わが国では、平成25年4月に障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援し、「地域社会における共生の実現」を目指した「障害者総合支援法」が法制化されました。この新しい法律に、「共生」(共に生きる)という言葉が盛り込まれたことを私は大変嬉しく思っていました。

ところが、平成28年には障害者は生きる権利がないという理由で19人の障害者を刺し殺した相模原障害者施設殺傷事件が起きました。さらに、平成30年には、政府中央省庁の8割にあたる行政機関で、3,460人の障害者雇用が水増しされていた問題が発覚しました。最近も、政府要人の障害者への不用意な発言がありました。このところ、日本人の障害者に対する差別的発言や姿勢が、以前よりも目立ってきたように思えてなりません。

最近制定された福祉関係の法律には、「・・・支援法」という3文字が定番のようについています。この支援という言葉が、国のトップにも、マスコミにも、国民にも、差別意識をうえ付けているような気がします。差別のない「共生社会」こそが、人間社会の理想です。


2020.2.1

新生児学・新生児医療と私 ― 新生児を通じての出会い ―

あおぞら講演会 2019.12.09 山梨 あおぞら講演会スライド

<講演要旨>

生まれた時代背景が新生児医療へ導く

私は、1940年生まれ、戦後の民主主義教育の第1期生です。小学校入学時は教科書がなく、日々の生活に何の規範もないことから、新しいことに全く抵抗感のない世代として育ってきました。

自分が卒業した神戸医大には全国でも数少ない未熟児室がありました。当時は、新生児用の人工呼吸器もなく、静脈確保も容易でない時代でしたが、先輩の小児科医がコットの側に佇み、新生児を見つめ、創意工夫しながら必死に医療に取り組む姿に感動し、仲間に加えて貰いました。

海外留学で得たもの

全国的な学園闘争の最中の1970年春から、私はフランス政府給費留学生としてパリ大学新生児研究センターへ2年6ヶ月間留学する機会を得ました。

私が着任するや否や、大きなカルチャー・ショックを受けました。日本では、見たこともない人工呼吸器がところ狭しと並び、頭からビニール袋を被せてCPAPが行われていました。その医療内容は神戸で経験したものとは全く異次元のものでした。

センター長のMinkowski 教授は、新生児学の創始者であるClement A. Smith(Harvard大学小児科教授)の門下生で、スタッフには、新生児病理学のLaroche 博士を始めとする多数の高名な新生児学者が在籍しており、米国からはLeo Stern教授を始め、世界をリードする気鋭の新生児学者が絶えず訪れてきました。

今思えば、このセンターは、新生児医療イノベーションの最先端を走る欧米でも特異なところであったようです。私は、ここで黄疸の研究をしていましたが、最先端の新生児医療に触れることができたこと、また、世界中の新生児学の高名な研究者と知り合いになれたことが、のちに研究活動をする上での大きな財産となり、日本に持ち帰ることができました。

なぜ、新生児医療は素晴らしい

「小児医療の目標は、子ども一人一人が自らの能力の限界まで発達するのを助け、それにより、成熟し、生産的で、幸せな大人になるチャンスを増やすことである。この目標は、新生児期に最大の危険にさらされている。」これは、1970年出版のThe Pediatric Clinics of North America 、新生児特集の巻頭言として記された、Richard E. Behrman博士の言葉です。私は、これを自らへの励ましの言葉としてきました。

この本には、NICUのあり方、新生児医療の地域化、新生児医療の各種手技など、近代新生児医療の幕開けを告げる内容の特集が組まれており、新生児臨床のバイブルとして活用させていただきました。

日本における新生児医療イノベーション

パリ大学留学より帰国した1972年には、まだ新生児用の人工呼吸器は日本で使われておらず、途方に暮れていたところ、1973年に麻酔科に岩井誠三教授が赴任され、新生児用人工呼吸器Baby birdや各種モニタ類を使用する機会に恵まれ、近代新生児医療のスタートラインに立つことができました。1976年には六つ子が誕生、全国ニュースとして報道され、唯一620g女児が生存退院しました。

その後、わが国でも新生児医療革命が起こり、あっという間に欧米の医療水準に追いつき、追い越しました。その原動力は、大学の枠を超えて、全国の新生児科医が一丸となって、絶えず連携を取りながら、情報交換するネットワークにあったと言えます。小川雄之亮先生、多田裕先生、仁志田先生らと組んで、産科と対峙できる「新生児科のアイデンティティ」確立を目指していたことも結束力のエネルギーとなっていたと思います。

日本発の新生児学研究成果

1980年代に入ると、日本発の新生児学研究成果が欧米でも評価されるようになりました。藤原哲郎教授らの「人工肺surfactant補充療法」がLancetに掲載され、世界中の注目を集め、1996年にはキング・ファイサル国際賞を受賞されました。

1980年には、山内逸郎先生、山内芳忠先生の「経皮ビリルビン測定器の開発」がPediatricsに、次いで1995年には私たちの「UB自動測定器の開発」が同じくPediatricsに掲載されました。私の研究がPediatricsに取り上げられたのは、山内逸郎先生のおかげです。先生からAPSの事務総長をされていたAudrey Brown教授を紹介していただき、彼女からまた、Stanford大学のStevenson博士や米国の著名な黄疸研究者のいる大学を訪問する機会を得ました。

私自身、1984年以来、毎年APSには演題を出し、欧米の研究者が日本の新生児医療を次第に注目していくのを実感しました。

新生児科医はひとつのファミリー

新生児医療は、医師として最もロマンに満ちた仕事として、いつも誇りに思っています。なぜなら、新生児医療には、人生の始まりの最も大切な時期に立ち会えるという大きな役割があります。国の内外を問はず、新生児科医の結束力が強いのは、仕事はハードであっても、ロマンを追い求める純な心にあるのでないでしょうか。これが周産期医療システム確立の原動力となったと思います。

国内、国外の同じ思いをもつ先達、同僚、後輩との出会い・協働が、自らの夢を叶えてくれたことに感謝いたします。以上

<中村肇の略歴> 神戸大学名誉教授、兵庫県立こども病院名誉院長、社会福祉法人「芳友」会長。1940年生まれ。1964年神戸医科大学卒業、小児科入局。神戸大小児科教授、神戸大学医学部附属病院長、2003年に兵庫県立こども病院長、2008年に財団法人阪神北広域救急医療財団理事長などを歴任。2001年には、「新生児黄疸の研究」で兵庫県科学賞、2017年に米国小児科学会Bilirubin Club Award を受賞。著書には『新生児学』、『小児の成長障害と栄養』、『子育て支援のための小児保健学』、エッセイ集「赤ちゃんの四季」など。

The Great Gatsby Curveとは

アメリカ社会の分断、経済格差の問題は、2012年にアラン・クルーガーらによって警告が発せられていました。(2017年疫学講義資料「子どもの貧困」より)

The Great Gatsby Curve (グレートギャツビーカーブ) とは、

  • 「グレートギャツビーカーブ」は、米国の経済学者でノーベル賞受賞しているアラン・クルーガーによって有名になりました。クルーガーは、国の所得の不平等と子供とその親の所得との関係についての研究を拡大しました。
  • 散布図は、所得格差の大きい国に住む人が社会で前進することがどれほど難しいかを示しています。プロットの左下の領域のデータポイントは、不平等が低く、移動性の高い国であり、右上のデータポイントは、不平等が高く、移動性の低い国です。
  • 米国の所得格差は過去30年間にわたって増加し続けています。
  • 所得格差の大きい国では、上向きの流動性が低く、低所得の家族に生まれた子供が経済のはしごを登る機会があります。つまり、流動性を改善するために何もしなければ、社会階層が持続する可能性があります。
  • 発展途上国では、所得格差が大きく、上向きの経済的流動性が低い傾向があり、将来の世代が社会のはしごを上る機会に影響を与える可能性があります。
  • 不平等と弾力性が低い北欧諸国は曲線の最下部に位置します。日本は中位に位置しています。

映画 The Great Gatsby 華麗なるギャツビー

レオナルド・ディカプリオ主演、バズ・ラーマン監督で2013年に映画化。共演はトビー・マグワイア、キャリー・マリガンら。

アメリカ文学史にその名を残すフィッツジェラルドの小説の映画化。狂乱の時代を迎えた20年代のアメリカを舞台に、大富豪ギャツビーら上流階級の人間たちの愛と偽りに満ちた世界、華やかな成功とその裏に潜む苦痛や苦悩を描き出す。


ジニ係数


ジニ係数は社会における所得分配の不平等さを示す指標で、0に近いほど格差が少ない状態となります。格差はすなわち社会の不満となり、ジニ係数40%以上は社会騒乱の警戒ライン、60%以上は危険ラインとされます。ジニ係数が低い国家では、税と社会保障による所得の再分配が進んでいる傾向がみられます。


表. OECD主要国のジニ係数の推移について 2012年


  1. ノルウェー    0.250
  2. デンマーク    0.253
  3. フィンランド   0.261
  4. スウェーデン   0.273
  5. オランダ     0.278
  6. ドイツ      0.293
  7. ルクセンブルク  0.298
  8. カナダ      0.316
  9. ニュージーランド 0.323
  10. イタリア     0.329
  11. 日本       0.330
  12. ギリシア     0.340
  13. 英国       0.341
  14. イスラエル    0.377
  15. アメリカ     0.389
  16. メキシコ     0.482

厚生労働省政策統括官付政策評価官室が作成した資料であります。(2017年3月9日閲覧) 

日本のジニ係数0.33は、OECD主要国の中では、メキシコ、米国、イスラエル、ギリシャについで高く、所得格差の年次変化はありません。


2020-11-12

連載 子どもの健康コラム 2020~21

2021
152.ストレス解消には「五感」、とくに嗅覚で   8月号
152.乳幼児健診や予防接種を遅らせないで  6月号
151.コロナ禍の中で、注意すべき子どもの健康 4月号
150.学校が一斉閉鎖にならないように 2月号

2020
149.インフルエンザワクチン接種を早めに受けよう12月号
148.テレワークで子育てが変わる10月号
147.ビデオ通話で遠隔地にいる孫の顔が 8月号
146.マスク熱中症に注意しよう6月号
145. 自由な遊びが子どもの社会性を育む4月号
144c.新型コロナによる休校の影響を減すために
144b.感染症予防には、正しい手洗いを
144.スマホを上手に活用しよう 2月号

  • 2018〜2019
  • 連載 子どもの健康コラム 2011〜2017

国連が取り組むSDGsと共生社会

共生とは

 「共生(ともいき)」ということばは、元々仏教用語にあったようで、日本人には馴染みの単語です。「共生」とは、「共に生きる」ということですから、直訳すれば「自然と共に生きる」、「地域と共に生きる」ということになります。

つまり、「人間は天地自然の恵みの中で生き生かされているのだから、それをよくわきまえて、むやみやたらな開発はしないで、自然を大切にし、自然のサイクルに合った生き方をしましょう」。また、「人は一人で生きているのではない。家族をはじめとして、隣近所、町や村の中で多くの人々と係わりながら生きているのだから、その関係を大切に、助け合いながら生きましょう」ということになるでしょう。

とくに、最近になって、「共生」は、日本政府の障害者支援や環境問題に対する政策の枕詞として多用されています。

日本政府が取り組む共生社会

2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機として、障害の有無等にかかわらず、誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合う「心のバリアフリー」を推進することや、全国展開を見据えつつ、東京においてユニバーサルデザインの街づくりを進めることで、共生社会を実現し、障害のある人等の活躍の機会を増やしていく取組みがなされています。

文部科学省においては、障害者の権利に関する条約の国連における採択により、「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進」に平成24年7月より取り組み始めています。

これら我が国の政策を見ると、これまでの「支援」を「共生」ということばで置き換えられただけで、社会保障政策の一環として捉えられているように思えます。

国連が取り組むSDGsとは

国連では、2015年9月の国連サミットでSDGsを採択しており、国連加盟193か国が2016年から2030年の15年間で達成するために掲げた17の目標です。SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称です。貧困や飢餓、健康や教育、さらには安全な水など開発途上国に対する支援に見えます。

しかし実際には、日本の子どもの6人から7人に1人が貧困だと言われています。ジェンダー平等に関しても2019年12月に世界経済フォーラムで発表された数字によると153カ国のうち120位と、とても低い数字になっています。これらの目標は、「共生社会」への課題でもあり、先進国である日本国内にも当てはまるのです。


2020.11.16