新生児科医こそが小児科医だ
1970年代後半から1980年代にかけて、新生児医療の飛躍的な発展を担っていた世代が、今日の赤ちゃん生育ネットワークの中心的なメンバーの方々と思います。まさに日進月歩の時代で、次々と開発されてくる新しい医療技術を取り入れるのに必死で、不眠不休で、夢のような毎日を過ごしたことで、私たちは新生児科医としてのアイデンティティーを確立し、「新生児科医こそが小児科医だ」という自信と誇りを手に入れたと思います。
乳児死亡率や、超低出生体重児の生存率は、世界でトップレベルの水準を維持していますが、子どもたちの生育環境はこれまでになく深刻な事態に直面しています。
21世紀に入ると、ICT化により我々の生活は一変しました。
教育・研究、医療までもが経済至上主義
グローバル化が我々にもたらしたのは、経済至上主義です。教育や研究までもがお金に換算される時代となったのです。費用対効果がすべての価値判断基準となってしまいました。「医は算術か」と揶揄されていたのが、今や算術を考えない病院長は即刻クビの時代となりました。また、経営効率を高めるために、スーパーマーケットの大型化とともに、新生児医療をはじめとする医療の世界にも、集約化・大型化が加速しました。介護や育児の世界でも、大資本によるビジネス化が進むのは必至です。
ひとり親家庭の子どもの貧困率は58.2%
平成25年国民生活基礎調査の概況(厚生労働省)によると、日本の子どもの貧困率は16.3%、とりわけ、ひとり親家庭の子どもの貧困率は58.2%、半数以上の子どもが貧困家庭で育っているという厳しい現実があります。ユニセフ報告書2014年版では、日本の子どもの貧困率が、OECD34 カ国中18番目と劣悪な国にランクされています。
経済至上主義が、格差社会を生み出し、その煽りが「子どもの貧困」です。
子どものいる典型的一般世帯のうち、共働き世帯の占める割合は、2000年には37.5%であったのが、2015年では47.7%と、10ポイントも増えています(総務省統計局、労働力調査より)。この増加は、女性の社会進出の機会が増えたと喜んでいるわけにはいきません。働きに出るお母さんの多くが、夫の収入だけは生活が苦しく、子どもと一緒いる時間を大切にしたいが、止むに止まれず働きに出ているのが現実ではないでしょうか。
子育て支援とは保育施設づくりではない
少子高齢社会を迎え、政府は子育て支援を声高に叫んでいますが、どうも今日の子育て支援策をみると、お母さんが働きに出易いように保育施設数を増やすことが主眼となっており、預けられる子どもの立場については黙秘のままです。
東京都への人口集中は加速しています。都心部の高層高級マンションの林立は、ますます地方の過疎化を招いています。格差社会が、ライフスタイルに、居住スタイルにも強く反映しています。仕事ファーストの人種(制約社員)と、フレックスで私生活重視の人種(非制約社員)との二極化が進んでいるようです。都心のタワーマンションに住むのは、前者で、特にできる未婚のキャリアー・ウーマンが多いのも理解できます。男性も同じかもしれません。
女性がもつ有能な才能を発揮できるコミュニティーづくりを
郊外、地方に住む人は、生活重視の人たちでしょう。私たち小児科医が考えねばならないことは、これら生活重視の人たちをいかに支援するかでしょう。郊外で、自宅に近い職場で、子育てをしながら、フレックスで働ける仕事をいかに創出するかです。ネット社会ですから、工夫次第でいろんな仕事があるでしょう。宣伝用のホームページの作成、商業文書作成などは自宅でできますし、イラストや漫画の作成も可能です。都心に住まなくても、ネットで外国との商取引ができる時代です。子育てを楽しみながら、女性たちがもつ有能な才能を発揮できるコミュニティーづくりを支援していきたいと思います。
母から子への最大のプレゼントとは
我が子が、日々大きく成長していく姿を観るのは、乳幼児期というほんの限られた期間です。自分が大人になったときに、自らの記憶にない幼少時の体験を、母親が、辛かったこと、楽しかったことを、こと細やかに、年老まで、繰り返し聴かせてもらえることが、母から子への最大のプレゼントです。
赤ちゃん成育ネット巻頭言 2017.9