若葉「名誉教授からの一言」2011
2010年は、情報技術の進化・普及が、日常生活の隅々までIT化が進み、いまや世界中隈なく及んでいます。この情報社会の変化について、私なりに少し整理をしてみました。
スマートフォンが主流に
iPadの出現、Windowsから再びMacへ
本年5月に初めてiPadを手にして驚嘆したのが、つい昨日のように思い出されます。その素晴らしいスペックは、これまでのPCのバージョンアップとは全く異なる革命的な出来です。私は、ここ7年ほどWindowsを使っていたが、再び昔使っていたアップル社製のマックに逆戻りすることに決意しました。
iPad, iPhone4の発売に続いて、最近、スマートフォンなど類似の機器が数々発売され、PCに比べて手軽に持ち運びできることから、携帯電話端末として標準機器になること間違いなしです。
医療分野への進出も時間の問題です。病院内だけでなく、通信機能を活用した在宅医療モニターとして役立てられ、ひいては医療構造が大きく変化するでしょう。
ウィキペディア(Wikipedia)の充実ぶり
インターネットを利用しておられる方なら、ウィキペディアのサイトにアクセスした経験をお持ちだと思います。この素晴らしいネット上での百科事典を私はしばしば活用しています。ウィキペディアは、創設されてからまだ10年を経過したに過ぎませんが、毎月3億8千万人が利用いるそうです。その数はインターネット接続環境にある全人口のほぼ3分の1に相当します。
ウィキペディアはコミュニティの産物
ウィキペディアは、商業的なウエブサイトとは異なり、ボランテアが少しずつ書き込んでいってできた、コミュニティの産物です。一つ検索すると、実に多彩な記事が載っているので、調べものをするには欠かせないサイトとなっています。課金も、広告もなしに、ここまで充実したサイトができるとは、創設者のジミー・ウエルズさんも予測していなかったのでは。ところが、最近アクセスすると、寄付受付の画面が出てくるようになりました。日常的に大変重宝させていただいているサイトでもあり、すぐに振り込ませてもらうことにしました。
ウィキ(Wiki)、ウィキウィキ(Wiki Wiki)とは
“Wiki”という単語を検索すると、コンピューター用語の一つで「ウェブブラウザを利用してWebサーバ上のハイパーテキスト文書を書き換えるシステムの呼び名」ということです。
ウィキウィキ(Wiki Wiki)はハワイ語で「速い、速い」を意味し、ウィキのページの作成更新の迅速なことを表しています。米国の著名なコンピューター・プログラマであるウォード・カニンガム(Ward Cunningham)氏が、ホノルル国際空港内を走るWiki Wiki シャトルバスからとって、“Wiki Wiki Web”と命名したそうです。
ウィキリークス(WikiLeaks)と情報漏洩
匿名により政府、企業、宗教などに関する機密情報を公開するウェブサイトの一つであるウィキリークス(WikiLeaks)が、世界各国の外交上の機密文書を公開し、大きな話題となっています。
このウィキリークスと、先に述べたウィキペディアとは何のつながりもないとのことです。
情報漏洩と言えば、神戸のインターネットカフェから尖閣諸島中国漁船衝突事件の映像が動画投稿サイトYouTubeに流出し、政府の情報管理能力が問われる騒動がありました。この事件の背景を見ると、情報の秘諾性を放置した状態にしておきながら、情報統制を図ろうとする時代錯誤的な為政者の感性にただ呆れるばかりです。
医療分野での情報管理
我が国の個人情報を扱う行政や医療分野は、守秘性を盾にして、ITを活用した情報ネットワーク・システムの普及を怠ってきました。実際には、情報の漏洩よりも、情報を活用できないことの方が、はるかに問題が大きいのです。
GE、日本で医療向けITサービスを「クラウド」で
米国のGE社がいよいよ我が国の医療産業に参入するという記事が、12月12日付の日経新聞の1面トップに掲載されました。グローバル企業の参入で、我が国の医療が大きく変革すること必至です。
これまで、ユーザーである各病院が、コンピュータのハードウェア、ソフトウェア、データなどを、自分自身で保有・管理していたのに対し、クラウド・コンピューティングでは「ユーザーはインターネットの向こう側からサービスを受け、サービス利用料金を払う」形になります。
クラウドでは、端末機器を設置するだけ
クラウドでは、端末機器を設置するだけで、ITサービスを受けることが可能であり、病院の規模に関わらず、医療情報システムの主流となります。医療情報の集約化が進むと、各病院の経営状態は丸裸になり、病院の差別化がより鮮明になります。経営不振の医療機関にはすかさずグローバル資本が投下され、経済至上主義的な医療への道がより加速することになるでしょう。
自らの頭脳で情報を活用する術を
目覚ましい進化を遂げつつある情報通信技術が、我々の日常生活を大きく変えましたが、守秘性を理由としてこれまで改革を怠ってきた医療分野も、いよいよ大改革が起きようとしています。
このような環境下で、よりよい医療を提供し続けるには、医師一人一人が玉石混合の情報に振り回されることなく、自らの頭脳で情報を活用する術を学ぶことです。これが、医師としてのアイデンティをもつ上で一番大切なことです。
2010年12月記