赤ちゃんがもつ不思議な力を知り、あたたかい心をもつ子に育てよう
小児科医 中村 肇著
目次
はじめに
第1章 赤ちゃんのもつ不思議な力
第2章 認知脳科学からみた人間の脳の発達
第3章 あたたかい心をもつ子に育てよう
第4章 障害児と「共に生きる」社会に
第5章 AI時代の子育てはどうなる
あとがき
はじめに
脳科学の進歩により、われわれは人間の脳の微細な構造やその機能を観察でき、子どもの精神運動発達のようすを脳の発達と結びつけて考えることができるようになりました。その結果、子どもの非行、犯罪、自殺といった思春期の問題が、乳幼児期から学童期にかけての過ごし方と無関係でないことも解ってきたのです。
育児で一番大切なことは、赤ちゃんの脳に他人を信頼する能力を植えつけることです。見つめ合いや微笑、表情の模倣を介して、母子双方に「快の情動」がもたらされ、赤ちゃんは学習していきます。これが人への信頼感となり、感性豊かな大人になっていくのです。
いま、世界は人工知能(AI)の時代に突入しようとしています。AIがもつDeep Learning(深層学習)という機能は、人間の脳の働きを模して組み立てられた人工のニューロン・ネットワーク(神経細胞網)です。学習したり、考えたりしたことを記憶として刻み込んでいくのです。
初期のAIは、人間の赤ちゃんの発達過程をモデルとして開発が進められていたのですが、今やAIがチェスや囲碁の名人を打ち負かす時代になりました。AIが、ときには大人の知能よりも勝れた能力を発揮します。
やがて、AIロボットに子育ての手助けをしてもらう時代が来るでしょう。AIロボットに子育ての手助けをしてもらうには、漫画家手塚治虫氏が描いた鉄腕アトムのような、「おもいやり」と「あたたかい心」に富んだロボットに育てねばなりません。
いや、その前に、私たち人間自身がいま自分たちの行っている子育てがこれでいいのか、振り返ってみることがもっと大切です。
敬愛する葛西健藏氏に、子どもへの深い愛と教えに感謝してこの本を捧げます。本書の作成にあたり、英語訳にご協力頂いた川島武将氏、挿絵を担当頂いた長尾映美氏に厚く感謝申し上げます。
2020年2月
中村 肇
小児科医・神戸大学名誉教授