mRNAワクチンとウイルスベクターワクチンについて

2021.6.8.

ようやく日本でも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチンの接種が本格化しています。
新規プラットフォームワクチンとしては、mRNAワクチンとウイルスベクターの2種類があり、現在, 我が国で承認されているのはファイザー社製のmRNAワクチンと、アメリカの製薬会社モデルナが開発したワクチンです。いずれにおいても、国内での治験の結果、中和抗体の上昇が認められたそうです。イギリスの製薬大手アストラゼネカのは、ウイルスベクターワクチンです。 

mRNAワクチンとは

現在, 我が国で用いられているファイザー社製のmRNAワクチンは, 脂質ナノ粒子などのキャリア分子に抗原タンパク質をコードするmRNAを封入した注射剤です。
mRNAを脂質ナノ粒子 (LNP) で包み、筋肉注射を行うとmRNAは筋肉細胞内に入り、細胞質で直ちにタンパク質が作られる。そのタンパク質は、細胞内の酵素でプロセッシングを受け、MHCクラスIに提示されます。すると、細胞性免疫が活性化されます。
一方、細胞に発現している完全な形のウイルスタンパク質は、異物であるために、細胞が死ぬと、このタンパク質は抗原提示細胞へと輸送されます。細胞内でプロセッシングされた後、MHCクラスIIに提示され、やがて液性免疫の活性化へとつながります。
つまり、mRNAワクチンは、擬似的なウイルス感染を体内で生じさせ、細胞性免疫、液性免疫の両方を活性化する技術なのです。

mRNAワクチンは、インフルエンザ、HIV, ジカ熱,などに対する感染症予防の臨床試験が開始されています。

 ウイルスベクターワクチン

ウイルスベクターワクチンは, ヒトに対して無毒性または弱毒性のウイルスベクターに目的の抗原タンパク質をコードする遺伝子を組み込んだ組換えウイルスを使用しており, ヒト体内で複製可能なものと不可能なものがあります。
ウイルスベクターワクチンの利点としては, 抗原タンパク質発現の安定性, 細胞傷害性T細胞応答誘導, アジュバントが必要ないことなどが挙げられています。しかし, 使用するウイルスベクターによっては, ヒトゲノムへのウイルスゲノム挿入変異による発がん, ウイルスベクターに対する既存免疫によるvaccine failure, ウイルスベクターそのものによる病原性, 低力価,などのハードルが指摘されています。
COVID-19に対するウイルスベクターワクチンとしては, Oxford/AstraZenecaのワクチンがすでに英国で使用許可を受け, 接種が開始されています。このワクチンで使用されているチンパンジーアデノウイルスベクターは, アデノウイルスベクターで問題となる既存免疫がヒトにおいては極めて稀と考えられ, 他の新興再興感染症に対するワクチンとして開発が進められてきたものです。
参照 IASR Vol. 42 p36-37: 2021

これまでのワクチン

これまでのワクチンは、感染の原因となるウイルスや細菌をもとに作られてきました。成分の違いから、大きく「生ワクチン」「不活化ワクチン」「トキソイド」に分けられます。

 生ワクチン
生ワクチンは、病原体となるウイルスや細菌の毒性を弱めて病原性をなくしたものを原材料として作られます。「ロタウイルス」、「BCG(結核)」、「MR(はしか、風疹)」、「水痘(水ぼうそう)」、「ムンプス(おたふくかぜ)」が代表的な生ワクチンです。

不活化ワクチン
不活化ワクチンは、病原体となるウイルスや細菌の感染する能力を失わせたもの(不活化、殺菌)を原材料として作られます。
「ヒブ」、「肺炎球菌」、「B型肝炎」、「ジフテリア・百日咳・破傷風菌・ポリオ(四種混合)」、「日本脳炎」「インフルエンザ」が代表的な不活化ワクチンです。

トキソイド
死滅した細菌の毒素を無毒化したワクチン。「ジフテリア」、「破傷風」が代表的なトキソイドワクチンです。これらは不活化ワクチンにも分類されます。