早く下船していたら感染者は大幅減だった

COVID-19 outbreak on the Diamond Princess cruise ship: estimating the epidemic potential and effectiveness of public health countermeasures.  RocklövSjödin HWilder-Smith A..  J Travel Med. 2020 Feb 28.


中村のコメント:クルーズ船に乗員乗客3,711人の下船を許可せず、船内に隔離するという策を政府は取った。その時、私はこれは大変なことになると予感した。私たち夫婦も3年前に同じ船で神戸港から8日間の船旅をしたことがあるので、船内の様子を知っていたからである。いくら豪華船とはいえ、廊下は狭く、どのスペースもさほどゆとりがなく、陸上のホテルや病院の部屋とは違うからです。

すでに既感染者であるかもしれないクルー達が、2週間もサービスに当たるというわけだから、もはや感染対策以前の状況です。せめて、早期に半数の乗客が下船し、スペースにゆとりができれば、結果は違ったかもしれません。Rocklov氏らのこの論文を見て、私の実感とも合致したので、紹介します。


概略:スウェーデンのUmea UniversityのJoacim Rocklov氏らは、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」(以下、クルーズ船)における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応に関するモデル検討を実施し、その結果をJ Travel Med2020年2月28日オンライン版)に報告しました。報告によると、船内で乗員乗客を隔離したことで、全く介入しなかった場合と比べて2,000人超のCOVID-19感染を避けられたが、早期に全員を下船させていれば、さらに多くの感染を回避できた可能性があると結論しています。

著者は、「横浜港到着直後に全員を下船させた上で、陽性者および感染の可能性がある者に対処していれば、全く違う結果になっていただろう。その場合には、われわれが計算したところ、感染者は約70人にとどまり、検疫の末に発生した実際の感染者数619人を大幅に下回る。船全体の検疫という措置が必要であったことは理解できるが、船内での感染リスクの高さに鑑みれば、今となっては疑問が残る」と述べています。

クルーズ船をめぐっては、香港で下船した乗客が新型コロナウイルス(2019-nCoV)陽性と判明。そのため、日本政府は2月3日に横浜港に入港した同船に対し、乗員乗客3,711人の下船を許可しなかった。その後、クルーズ船は2月19日まで検疫下に置かれ、陽性者は下船させ日本国内の病院に搬送、陰性者は船内での隔離という措置が講じられた。2月20日に検疫が終了し下船が許可された時点で、2019-nCoV陽性者は乗員乗客合わせて619人(17%)であった。

Rocklov氏らは、感染症流行予測の数理モデルの1つ、SEIR(Susceptible-Exposed-Infectious-Recovered)モデルを用い、クルーズ船におけるCOVID-19の基本再生産数(basic reproduction number;R0)を算出した。 その結果、検疫・隔離を開始する前のアウトブレイク初期における船内のR0は14.8で、武漢市(3.7)の4倍にも達していた。検疫・隔離の開始後には、船内のR0が1.78まで大幅に低下していた。


2020/3/9