Escaping Pandora’s Box — Another Novel Coronavirus David M. Morens, M.D., Peter Daszak, Ph.D., and Jeffery K. Taubenberger, M.D., Ph.D. The New England Journal of Medicine, on March 7, 2020.
著者らは、新規コロナウイルス感染症(Covid-19)の流行の拡大は、1918年のインフルエンザのパンデミック以来の重大事として捉えています。パンドラの箱はすでに開けられてしまっていますが、私たちはその災厄を最小限に食い止めるための努力が必要です。と歴史的考察を加えて警告しています。
今回のパンデミックでは、発症前または無症候性の症例が他の人にウイルスを伝播させるので、感染者のうち感染源が不特定の者の割合が高いという防疫上の難しさがあります。公衆衛生面での取り組みでいずれは収束するかもしれませんが、近い将来、SARS-CoV-2はさらに姿を変えて、人間を襲いかかってくるのは必至です。
地球環境が大きく変化していく中で、ウイルス遺伝子はどんどん変異していますが、人間の遺伝子の変化は遅々たるものです。ノーベル賞受賞者のジョシュア・レーダーバーグが新興感染症について語った有名な言葉、「それは我々の知恵とウイルス遺伝子の戦いだ」が、実感されます。これまでのパンデミックを歴史的に考察したこの論文は、現代人に向けた示唆に富む内容のものです。
その広がりの様子を的確に把握することができなければ、パンデミックを予防できません。それには、今できるウイルス検査をより積極的に進め、この問いへの答えを出すことが必須です。日本の検査体制は、中国や韓国での取り組みに比べて数段劣ります。手遅れになるまでそこに到着していることに気づかないでは困るのです。
概要:
世界保健機関は、新規コロナウイルス感染症(Covid-19)の流行の国際的な拡大を懸念し、公衆衛生緊急事態と宣言しました。 公衆衛生面での取り組みがウイルスの広がりを制御できない場合には、致命的な世界的大流行の発生をすぐに目撃することになります。
パンドラの箱のギリシャ神話(実際には壺?)が思い浮かびます。神はパンドラに、決して開けることのできないロックされた壷を与えました。 それにもかかわらず、パンドラは人間の弱さによって動かされ、それを開けて、世界中に不幸と疫病を解き放ちました。
私たち科学者は、SARS-CoV-2はまだ壷から逃げていないと思っています。著者らは現時点で、症例数の増加と地理的拡大から、Covid-19の出現の初期段階という形で認識しており、1918年のパンデミックインフルエンザの始まりと驚くほど類似性していると言います。 ともに、呼吸器への広がりであり、発症前または無症候性の症例が他の人にウイルスを伝播させ、感染者のうち感染源が特定の者の割合が高く、また高い死亡率も似ています。
私たちは、二次感染を防ぐための患者とその濃厚接触者の隔離など、発生がパンデミックになるのを防ぐために迅速な公衆衛生措置を取っています。 しかし、これらの取り組みで十分だろうか? ほとんどの専門家は、そのような措置だけでは1918年のインフルエンザのパンデミックを防ぐことができなかったと考えています。
実際、過去1世紀の間に、予防接種や抗ウイルス薬を使用した場合でも、コミュニティ・レベルでのインフルエンザの広がりを完全に防ぐことができていません。 問題は、ほとんどのインフルエンザ患者が、無症候性か症状に乏しく、未診断時に、または症状が出る前に感染していることです。 おそらく潜伏期間と増殖時間が長いウイルスであるSARS-CoV-2は、確定症例に対する未確定症例の割合が未定であり、無症候性患者による拡散率は不明です。 その広がりの様子を把握することができなければ、パンデミックを予防できないという閾値を超えてしまいます。この問への答えが出なければ、手遅れになるまでそこに到着していることがわからないのです。
運が良ければ、公衆衛生管理措置により悪魔を瓶に戻すことができるかもしれません。 そうでない場合、1世紀前のインフルエンザのパンデミックによって引き起こされるものと同等または恐らくそれよりも大きな困難に直面することになります。
故ノーベル賞受賞者のジョシュア・レーダーバーグが新興感染症について語った有名な言葉があります、「それは我々の知恵とウイルス遺伝子の戦いだ」と。 現在、ウイルスの遺伝子は、人間への感染力を高め、これまでのところ、すべての秘密を明かすことなく、無言の広がりをみせ、私たちを無視しています。 しかし、私達は少しずつながら追いついています。
古代ギリシアの詩人ヘシオドスが述べている、「パンドラは壷の唇の下に立ちはだかると、災厄が一気に飛び散ることはなかった」と言う話を信じて、前進しましょう。
参考資料: 「パンドラの箱」は、もともとギリシャ神話から来た言葉です。 神ゼウスは、まだ人間というものに男性しか存在せず、災難というものが無かった世界に、パンドラという名前の最初の女性をおくります。 すべての悪と災いを封入した箱を持たせて。 パンドラは地上に着くと、好奇心からその箱を開けてしまい、あらゆる人間の不幸、病気がまき散らされてしまったとのことです。しかし、古代ギリシアの詩人ヘシオドスは、パンドラは壷の唇の下に立ちはだかり、災厄が一気に飛び散ることはなかったと述べています。
2020.3.8