子どもの脳を知り、あたたかい心を育む

日本保育保健学会 2019-5 神戸 2019.05.19  日本保育保健学会スライド

<講演要旨>

1. 親を悩ませる「魔の2歳児」、「十代の暴走」

魔の2歳時(Terrible two)や、思春期に見られる暴走行為は、早くから発達する大脳辺縁系(大脳旧皮質)と、遅れて発達してくる大脳皮質前頭前野(大脳新皮質)の発達速度のギャップによるものです(図1)。大脳辺縁系は行動の促進系(アクセル)として働き、前頭前野は、思考・判断・分析を司り、行動の抑制系(ブレーキ)として働きます。

大脳辺縁系が急速に発達する2〜3歳児、および性ホルモンの働きで大脳辺縁系が急速に発達する思春期には、前頭前野が未発達であるため、抑制(ブレーキ)が効かず、暴走してしまうのです。大脳辺縁系は、大脳の奥深くに存在する尾状核、被殻からなる大脳基底核の外側を取り巻くようにあり、生命維持や本能行動、情動行動に関与しています(図2)。

脳辺縁系は、内分泌系と自律神経系に影響を与えることで機能しており、海馬と扁桃体はそれぞれ記憶の形成と情動の発現に大きな役割を果たしています。大脳の快楽中枢として知られている、前脳に存在する神経細胞の集団、側座核とは相互に結合しています。このように考えると、子どもの示す不可解な行動も、少しは理解でき、親のイライラも軽減するのではないでしょうか。

2.  感性豊かな心は、幼少期に育つ

乳幼児期には、光や音、その他の感覚刺激が周囲から流れ込み、この五感(視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚)が脳を刺激し、感性豊かな心、あたたかい心を育みます。子どもの五感が急速に発達し、これらの刺激が先ず伝わるのが、生後早い時期から発達する先述の大脳辺縁系です。

大脳辺縁系は、感情・感性、記憶、および本能的行動をコントロールする中枢であるとともに、また報酬系としての働きも知られており、成功体験が自らの学習意欲を高める働きがあります。

認知能力(計算や文字、知識、思考する能力)は小学生になってからでも教えることができますが、非認知能力(感性豊かな心)が伸びるのは幼児期です。だから、幼児教育が人生で最も大切であり、子どもたちの五感を育てることです。

子育てにおいも、教育においても、報酬系をうまく活用することが大切です。自らの成功体験が自らの学習意欲を高め、益々向上心が芽生え、自ら進んでチャレンジしていきます。子どもたちの学習意欲を高めるためには、上手に褒めることです。昔からよく、「子育て上手は、褒め上手」、「褒められ上手は、褒め上手」と言われてきました。

子育てにおける褒めかたのコツは、子どもの学習意欲をいかに高めるかです。子どもへの難しすぎる課題では、子どものヤル気を削いでしまいます。少し手を伸ばすと届くような課題を与えることです。焦りは禁物です。子どもが目標を達成したとき、子どもはきっと得意げに、あなたの様子を見つめています。間髪入れずに言葉をかけてあげてください。抱きしめてあげてください。

3.  あたたかい心を

あたたかい心は、幼少期に培った感性豊かな心から生まれてきます。子どもたちの五感を育み、感性を育てるには、子どもたちの問いかけに、真正面から反応し、応えてあげることです。生後すぐの赤ちゃんでも目は見え、耳も聞こえています。赤ちゃんの目をじっと見つめていると、見つめ返してきます。この見つめ合いのことを、「まなかい(眼交)」と言います。この「まなかい」こそが、育児の原点です。目があうと、微笑み返してあげてください、赤ちゃんは、お母さんの微笑みで納得し、安心します。

 

最近では授乳しているときに、スマホに夢中になっているお母さんをよく見かけます。子どもが話しかけても、スマホから目を離さず、なま返

事をしておられます。いつもこのような態度で子どもに接していると、子どもの感性の芽は一つ一つ摘みとられていくことなります。

4.  AIロボット時代の子育て

1)  赤ちゃんの脳発達がAIロボット開発のモデル

人工知能AIは、赤ちゃんの脳を模して作成された人工のニューロン・ネットワーク(神経細胞網)です。人間のニューロンは、使用していないと、「刈り込み」で消失しますが、AIは作ったニューロン・ネットワークをどんどん蓄積していきます。新しいニューロン・ネットワークを作り、蓄えていくAIロボットの能力に人間は敵いっこありません。

2)  ペットロボットが子どもたちに大変な人気

「パロ」と呼ばれる、あざらしに似た形をした白い人工毛皮で覆われた日本製のペットロボットが、小児科の外来におかれています。パロは、子どもたちに大変な人気です。パロは、まぶた・首・前足・後ろ足を本物の生きもののようにリアルに動かし、「キュウキュウ」という可愛い鳴き声も発します。自分の名前を呼ばれると反応します。

発達障害のある児には、人とのコミュニケーションが苦手な子がいます。でも、パロとはうまくコミュニケーションが取れ、外来に来る日を楽しみにしておられるそうです。

パロには知能があり、感情を持ち、乱暴な扱いを嫌がり、触れ合い方により性格が変化し、飼い主の行動を学習する能力もあります。もっと進化すれば、他人とのコミュニケーションをとるのが下手な現代人の「こころの相談役」として、医療スタッフの仲間入りしているかもしれません。

3)  AIロボットにもあたたかい心を

人間とAIがうまくやっていくためには、幼少時からAIと上手にコミュニケーションをとる能力を養うことが必要です。人間がAIをいつもいじめていると、AIは人間を憎み、報復するかもしれません。

人間の声は、いろんな情報を相手に伝えます。目を閉じて、声を聞いているだけで、相手の喜怒哀楽や健康状態もわかります。目も相手に多くのこと語りかけますが、声には人の意思がより豊かに、より正しく反映されています。AIロボットと上手に付き合うには、自分の考えや思いを正しく相手に伝える声の学習が大切になってきました。

人間社会では人付き合いの苦手な人も、AIロボットと一緒の生活であればうまくいくかもしれません。学校では、AIロボットとの友情を育む方法を学ぶ新しいクラスが始まります。

さあ、AIロボットと仲良くし、新しい家族生活の準備を始めましょう。